[921](投稿)ペンギンドクターの寄稿の感想


読者より
 興味深く読ませていただきました。いつも感じることですが、ペンギンドクターは多読とともに深く読んで、感想を書き残しておいて、今もそれを振り返るというとても素晴らし習慣を持っていらっしゃるのに感心しています。井上ひさし氏も同じような読書習慣を終生続けた人です。
 恥ずかしながらロシア文学は、ドストエフスキー以外は全くと言っていいほど読んでいません。高校の時、米川正雄?訳のトルストイの小説を読み始め、訳した文体が小生には合わなかったのか、途中で投げ出しました。
 その後、ドストエフスキーの『罪と罰』を新しい文体で翻訳した筑摩書房版のを読んで、すらすらと読み進められ、また内容もよく理解でき、面白くもあり、翻訳する人が重要だと思いました。その後もいくつかのドストエフスキーの小説は読みました。
 ソルジェニーツィンは1冊は読みましたが、多忙になり継続的には読んでいません。ここで著者の経歴が紹介されてとても参考になりました。

 後に読んだのですが、加賀乙彦は米川訳でないと読んだ気がしないと書いていました。生きた時代・文化・生活等の差も小説などを読む基本になるのだと思った覚えがあります。
 
 コロナ時代の検査が詳しく書かれて、しかも進化していることが分かり、とても参考になります。つまり、クリニックでも頻繁に検査を行い、海外に行くときの検査も渡航先によると思いますが、厳重になっていることが良く分かります。
 コロナ禍が長く続いて、検査する側も「要領」が分かってきたのでしょう。小生が働いている職場の感染も時系列での報告書を読むと初期の感染の広がりと比較すると感染拡大阻止の要領が良くなっていると思いました。
 多分、職員の横の情報のつながりがたくさんあって、肝要なことが良く分かるようになり、感染の拡大が少なく、収束もスムーズに行ったと思います。(今後も繰り返す可能性はあると思いますが…)

一労働者

 ではまた。


 

[920](寄稿)「コロナと共存する社会の姿」 海外渡航した女医が目の当たりにした日米の違い

ペンギンドクターより
その3

 転送する文章は、皆様にもお馴染みの山本佳奈医師が連休中に訪れた米国事情です。

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「コロナと共存する社会の姿」 海外渡航した女医が目の当たりにした日米の違い

この原稿はAERA dot.(5月18日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2022051600046.html?page=1

 ナビタスクリニック(立川)内科医
 山本佳奈

 2022年6月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 【データが示す】ワクチン種類別・追加接種後の予防効果の推移はこちら
 https://dot.asahi.com/print_image/index.html?photo=2022021500041_1&image=1

緊急事態宣言やまん延防止等重点措置のない大型連休を利用して、アメリカに行ってきました。覚悟して向かった空港での入国審査が意外とあっさりして拍子抜けしたことから始まった旅は、日米のコロナ対策の違いやコロナに対する考え方の違いを痛感する日々でした。そこで今回は「私のコロナ禍の海外旅行体験記~出国から到着まで」を共有させていただきたいと思います。

 渡米までに私が最も不安だったことは「無事に出国できるか」ということでした。パスポートさえあれば飛行機に乗り込めたこれまでの海外渡航とは違い、今回の渡航では入国する国が提示する条件を調べて必要な資料を揃え、直前までコロナにならないように気をつけながら生活し、直前のコロナ検査で陰性であることを証明する必要がありました。

 オミクロン株感染拡大以降のアメリカへの入国条件は、米国行きの便に搭乗する2歳以上のすべての米国への渡航者は、フライトが出発する「1日以内」に受けた新型コロナウイルス検査の陰性証明書と新型コロナウイルスワクチン接種証明書の提示です。

 渡米における有効な新型コロナウイルス検査として、核酸増幅検査と抗原検査が挙げられています。勤務先のクリニックでは渡航用のコロナ検査をずっと行っていますが、みなさんが核酸増幅検査に含まれるPCR検査を希望されます。

 私自身もPCR検査を希望していましたが、フライト前日が勤務日であったことやフライト日が祝日だったことから、昼休みに抗原検査を行い、陰性を確認することにしました。しかしながら、抗原検査を希望された方にお会いしたことがなかった私は、抗原検査で本当に大丈夫なのか不安で仕方なく、航空会社やCDC(アメリカ疾病予防管理センター)が記載しているフライト条件を何度も確認し、インターネット上で「抗原検査でアメリカに出国できた」という記事を探してしまう始末でした。

 ハワイ便が満席だという報道を受け、念の為、フライト時間の3時間前に成田空港に到着するも、成田空港の国際線ターミナルは閑散としていました。覚悟していたチェックイン時の書類確認もあっさりとしたもので、丁寧な書類確認があるかと思いきや、陰性証明書や接種証明書をさっと確認し、宣誓書を提出したら、あとは荷物を預け、パスポートを提出しボーディングチケットをもらって終了。30分足らずで出発ゲートに到着してしまいました。

 免税店を含むほとんどのお店が閉まっていたため、フライトの時間が来るまでラウンジに行ってみました。そこには、出発ゲートの閑散とした様子とは打って変わり、空席を探すのがやっとなほど多くのいろんな国籍の方がいる光景が広がっていました。日本は観光目的の入国は禁止したままですから、ラウンジにいたのも、私のような観光目的の人は少なく、留学やビジネス目的の方がメインだったのではないでしょうか。皆、軽食を取ったり、談笑したり、仕事をしながら各々のフライトを待っているようでした。

 ロサンゼルス国際空港に到着してから痛感したのは、アメリカは人も経済も動いているということでした。成田空港とは違い、色んな国から来た多くの人が入国審査に並び、到着ロビーには多くのお迎えの人がたくさんいたからです。もちろんコロナ前とは違い、空港では勤務する方の多くはマスクを着用していました。けれども、入国審査に並ぶ人は着用していない人も多く、入国審査が終わり空港を出た瞬間、私もマスクを外しました。

 ちなみに、入国審査ではコロナ前と同じ、入国の目的や所持金、滞在先など簡単な質問をいくつか聞かれたものの、新型コロナウイルス検査の陰性証明書や新型コロナウイルスワクチン接種証明書を見せてという指示は一切なく、さっと終わってしまいました。

 Our world in dataによると、2022年5月12日時点での日本における追加接種(3回目の接種)率は55.6%です。内閣官房内閣広報室が公開しているデータによると、5月16日時点の3回目接種の年齢階級別接種率は、20歳代が36.7%、30歳代が40.5%、40歳代が50.6%、50歳代が68.9%と若い世代ほど接種率が低いことがわかります。

 現在、新型コロナウイルスワクチンの追加接種を終えている人は、日本国が指定するオミクロン指定国・地域以外からの入国であれば、入国時に陰性を認めれば、帰国後の隔離は免除されます。つまり日本人は、渡航先を選べば帰国後の隔離なしで観光目的の海外旅行に行って帰国することができるというわけです。

 http://expres.umin.jp/mric/mric_22114.pdf
 ロサンゼルス空港の様子。コロナ検査スポットは街のいたるところにあった/写真提供・山本佳奈医師

 グーグルが検索結果をもとにアメリカ人の今夏の旅行トレンドについて調べたところ、「パスポート取得」に関する検索が2022年1月から4月で前年比の300%も増加しており、海外旅行への関心が高まっているといいます。

 日本はというと、外国人の観光目的の入国は禁止したままです。来月から、1日当たりの入国・帰国者数の上限を「2万人程度」に引き上げ、外国人観光客受け入れの本格再開に向けて政府は調整に入っていることが報じられていますが、多くの人が飛行機や新幹線、鉄道や車を使い国内を旅行している一方で、依然として海外からの観光客は国内に入れないという規制をまだ継続するということになります。水際対策は、新型コロナウイルス感染症が国内に流行していない場合は有効です。オミクロン株を含めコロナ感染が拡大してしまった今、もはや厳しい水際対策は意味がありません。

 4月27日、アメリカ政府首席医療顧問であるファウチ氏は、「パンデミックはまだ終わっていないが、パンデミックの急性期の段階を脱し新しいフェーズに入った」という見解を示していましたが、ロサンゼルスやサンディエゴの街や空港には、コロナ検査スポットが至るところにありました。ワクチン接種を促す広告も、街の至る所で目にしました。「コロナ検査をたくさんして、陽性が出たら自主的に隔離し、悪化を認めれば医療機関を受診する」というコロナと共存する社会の姿を目の当たりにし、コロナに対する捉え方の違いを実感した旅になりました。次回は、カリフォルニアの街で感じたコロナ対策や出国前の検査などについて、まとめたいと思います。

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[919](寄稿)私の読書記録 ソルジェニーツィン『がん病棟』

ペンギンドクターより
その2
 さて、本日は私の60歳以後の本業とも言える「読書」についてお時間を拝借します。

 先日、朝日新聞を読んでいたら、ロシア文学の翻訳家の女性が、ロシアによるウクライナ侵攻の状況においても、ロシアの文化、音楽や文学について否定しないでほしいというような主張に目がとまりました。「本当にそうだな」と同感でした。 

 よく考えてみると、私が最もたくさん読んだ外国文学を国別に挙げろといえば、やはりロシア文学だと思います。何しろ、トルストイドストエフスキーがいることが大きい。二人の本をすべて読んだわけではありませんが、一番熱心に読んだのはこの二人かもしれません。私たち戦後まもなく生れた団塊の世代では、ロシア文学は大きな山脈だったように思います。


 さて、上記の女性翻訳家の主張に触発されたこともあり、私は書斎の本棚から昔読んだソルジェニツィン著、小笠原豊樹訳『ガン病棟』を先日読みなおしてみました。この本は、第一部・第二部があり、昔読んだ記憶はあるのですが、もう50年も前のことで、実は覚えているのは、「ロシアにはずいぶん沢山の女性のお医者さんがいるのだな」という曖昧な記憶でした。今回、最後まで読んでみて、結末のところで、確かに完読したという確信が持てた次第です。ご存知のようにソルジェニツィンノーベル文学賞を受賞しています。ノーベル賞というのは、多少政治的な背景もあると疑われる節もある賞ですが、日本においては絶大な評価を持っている賞です。
 それはそれとして、大変長くなりますが、私の読書記録を転記します。

 ●ソルジェニツィン著、小笠原豊樹訳『ガン病棟 第一部』
 1969年2月10日発行、1970年3月10日第13刷発行、297ページの新潮社刊行の単行本である。原文は1963年頃に書き始められ、第一部は66年に、第二部は67年に完成した。著者の説明によれば、この作品は正確な「時」と「所」のデータをそなえたポリフォニック(注:重層的)な、主人公のいない長篇であり、その「時」とは第一部では1955年2月初旬の一週間、第二部はそれから一ヵ月後の三月初めである。「所」はウズベク共和国の首都タシケント市の総合病院の癌病棟(彼自身が追放生活中にこの病院で腫瘍を治療してもらったという)。内容を理解するためには、53年3月のスターリンの死、同年12月のベリヤ銃殺、55年2月9日のマレンコフの辞任、56年2月の第二十回党大会(注:いわゆるフルシチョフによるスターリン批判の秘密報告あり)と、いわゆる「雪どけ」状況へ移り動いて行くソビエト社会の概況を摑んでおくことが必要である。

以下のソルジェニツィンの経歴は、訳者ノートによる。
 ソルジェニツィンは1918年にコーカサス地方のキスロヴォーツク州で生れ、ロシア南部のドン河畔のロストフ市で育った。幼時に父を失い、母親の手一つで育てられたという。大学時代の専攻は数学で、ロストフ大学の物理数学科に学んだが、この頃から短篇を書いていた。大学卒業の数日後に独ソ戦が始まり、彼はただちに召集された。初めは輸送隊の馬丁のような仕事だったが、青年将校養成の講習を受けた後、砲兵隊に入って、各地を転戦し、「祖国戦争」章と「赤い星」章という二つの勲章を授けられた。戦争末期の1945年1月、砲兵大尉だった彼は突然肩章と勲章を剥奪され逮捕されてモスクワの刑務所に送られ、尋問を受け、当時の特別政令により裁判なしで八年の実刑を課された。
 この事件について、彼自身の語るところでは、「前線から出す手紙では軍の機密を漏らしてはいけないことは知っていたが、意見を述べてもいいと考え、ある友人に手紙を出していた。その中で名前はあげなかったが、スターリンに対する意見、すなわちスターリンレーニン主義から逸脱しており、戦争の前半の失敗に責任があり、理論的に弱く、非文化的な言葉を話すと思っていて、青年の軽率さからそれをみな手紙に書いた」とのこと。
 囚人になった彼は初めモスクワ市やその周辺の建設現場で働き、やがて刑務所内の科学研究所で囚人数学者としての仕事を与えられ、刑期の最後の三年間は中央アジアのカザフ共和国北部のいわゆる矯正労働収容所(ラーゲリ)で石工と鋳造工の仕事をした。1953年、35歳になっていた彼は刑期終了と同時に、カザフ共和国ジャンブール州のコク・テレクという僻村に追放された。政治犯は刑期終了後に改めて追放処分を受け、流刑囚として僻地にとどまらなければならないのが普通の成行きなのである。この村で数学教師をしながら、彼は戯曲『鹿と山小屋の女』を書き、長篇『第一圏』を書いた。スターリン批判のきっかけとなった1956年のソ連共産党第二十回大会ののち、彼はようやく流刑地から中部ロシアへの帰還を許され、翌57年に「名誉回復」が行なわれて、リャザン市の中学教師として物理と数学を教えるようになった。・・・・・・。

 ソルジェニツィンを一躍有名にした中篇『イワン・デニソヴィチの一日』が書かれたのは、追放生活の末期から「名誉回復」直後にかけてであろうと推定される。しかし、この作品の公表は1962年11月のことであった。

 ▲刊行後まもなく、すなわち1970年頃に私が購入したのであろう。一度読んだと思う。ただ記憶の中ではロシアの病院には「女医さんが多いな」という印象しか残っていない。今回、ベッドに引っくり返って読むだけでなく、車の中やパソコンが立ち上がるまでの時間も含めて読み続け、6月6日(月)自宅二階にて読了。大変面白かった。ほとんどが不治のガンをもって集まっているガン病棟の患者さらには治療に邁進する魅力ある医師や看護師や雑役婦の人々が丁寧に描かれていて、ロシア文学の底の深さを再確認した。ベテランの女性放射線科医、その下にいるドイツ系の有能かつ魅力的な女性放射線科医、さらに医学生ではあるが生活のために当直もしている若い看護師、それらの女性と主人公とも言ってよい著者の分身の流刑囚との交流。密告で昇進を重ねてきた公務員患者の言動など・・・・・・。ノーベル文学賞が授与された理由は、全体主義国家ソ連での不屈な作家魂の持ち主という著者に対する政治的な評価という意味合いもあるのだろうが、それ以上にこの小説の文学としての魅力、すなわち広大な大地に生きる人間像を見事に描いているという意味で私は深く感銘を受けた。第二部も楽しみである。
 目次を示す。
 いくつかの印象に残った文章のページと感想を記す。

 以上が、直後の暫定的な読書記録です。
 私は興味深い文章のあるページを折り込むことにしています(本には悪いのですが)。読んだ直後の読書記録は上記のように簡単に書いておき、約3か月後ぐらいになるのですが、目次を記録しさらに折り込みのあるページをもう一度読み返して、そのページと感想を記録したら、読書記録終了となります。
 第二部の方は3日ほどで読み終わりました。今書棚にあるソルジェニツィンの『煉獄のなかでⅠ』を読んでいます。

 ハナ・アーレントの『全体主義の起源』(「反ユダヤ主義」「帝国主義」「全体主義」の三巻に分かれています)は数か月前に読み終わりましたが、彼女はヒトラーナチススターリンのボルシェヴィズムとを共に「全体主義」としています。アーレントユダヤ人ですが、ヒトラーよりスターリンに対してより「批判的」と私は感じました。この話はいずれまた。
 ソルジェニツィンガン病棟』はガンの外科医であった私には、より読みやすい本ではありますが、ストーリーテラーとしてのソルジェニツィンの文章は出色です。医療についても該博な知識を持ち、自ら経験した収容所や流刑地の生活とそこで出会った人々を描く言葉には、私のような恵まれた自然に住む(災害は多いけれども)日本人には理解できないかもしれない奥行きを与えています。
 今日はこのへんにしておきます。

つづく

[918](寄稿)ロシア・ウクライナ戦争の帰趨、予想がつきません

ペンギンドクターより
その1

 梅雨入りとなり、うっとおしい日々が続いています。いかがお暮しでしょうか。
 新型コロナウイルス感染(COVID‐19)は重症者が激減し、病院の医療逼迫はなくなりました。このまま推移すれば秋にはお会いできる可能性は高いと思われます。ただし感染者数については、減少はしているものの全国で収束しつつあるとは言えません。私自身は相変らず人混みを避けて暮らしています。ある意味で規則正しい生活ですが、その分あっという間に毎日が過ぎ去っていき、身体の衰えだけが増している感じです。
 転送する文章は、皆様にもお馴染みの山本佳奈医師が連休中に訪れた米国事情です。(編集者註:次々回紹介します。)若い人があちこち出かけるのは大変結構なことと思います。コロナ禍だからこそ、大いに世界の状況を観察してくるのは役に立つと思います。続きもあるようですので、配信されたらまた転送したいと思います。

 ロシア・ウクライナ戦争の帰趨については、日々情報が飛び交っていますが、私にはまったく予想がつきません。長期化するとすれば、戦場となっているウクライナの荒廃がますます進むと思われます。黒川祐次『物語ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』(中公新書、2002年8月25日初版、2022年3月25日11版)によれば、ウクライナの歴史には様々な紆余曲折があるようです。著者の黒川氏は1944年愛知県生まれ。東京大学教養学部卒業。外務省入省後、駐ウクライナ大使・モルドバ大使(兼務)の経験もあり、20年前の本とはいえ、バランスの取れた論調で、ウクライナの歴史を知るにはもってこいの本です。駅ビルの書店に平積みになっていたので、よく売れているのだと思います。ウクライナは世界の黒土地帯の30%を占め、耕地面積は日本の全面積に匹敵し、農業国フランスの耕地面積の二倍ある世界屈指の農業国であると同時に、工業・科学技術面でも水準は高いとのことです。この戦争により、小麦の需給が逼迫し、アフリカなどでの飢餓が問題になっているのは予想された通りと言えそうです。毎日心配しながら、YahooやMSNからの情報をチェックしています。

 さて、前回送信しました「胃がん」の件です。「実験胃がん」を世界で初めて作った杉村隆博士ですが、昨年ではなく一昨年94歳で亡くなっていました。COVID‐19が問題になってからは、時間の感覚が乏しくなり、申し訳ありません。癌研の佐野病院長に「胃がん発生の研究者を集めて座談会をして胃がん研究大国である日本が、なぜ犯人ピロリ菌を見つけられなかったのか総括したら・・・・・」と内輪の会で提案したのももう4年前の2018年のようです。その時、彼は「杉村隆さんは私の患者だけどちょっと認知症が進んで・・・・・」と言っていましたから、もともと座談会は無理な相談だったということでしょう。実は杉村隆博士も胃がんになって胃全摘を受けています。その手術の主治医が、当時がんセンターにいた胃がん担当の佐野部長だったわけです。早期胃癌だったようで命に別状はなかったものの、ご本人は会食などにおいて、自分だけ美味いものを腹いっぱい食べられないことに不満をもらしていらっしゃったようです。そういう文章を見た記憶があります。ピロリ菌の検査などはされたのかどうか、今更遅いけれども、ちょっと気になります。

つづく

[917](投稿)「社内副業」について


投稿:●一労働者

 「社内副業」は「個数賃金は時間賃金の転化形態です。個数賃金は資本制的生産様式のもとでもっとも過酷な賃金支払い形態」という見解を読ませていただき、「新しい資本主義」を唱える岸田政権下で、さらに労働強化を資本家は労働者に強(し)いて、労働の密度も労働時間の延長も「合法化」することを推し進めていることが良く分かりました。
 またまた、過労死が増えていくという懸念を抱かざるを得ないと思います。この記事を読ませていただき、これらに反対する意見がほとんど出ていないことに気づきました。
 過労死がもっともっと増える、「鬼の十則」(注)の電通の自殺者の例のように過労で自殺者がさらに増えると思います。
 また、会社命令に従順な物言わぬ労働組合が増えるばかりのこの世界では、「過労死」などは全く痛痒とも感じない資本家とその資本家に媚(こ)びる社員ばかりが増えていくと思います。

 今の国会議員の意見や行動を見聞すると、どの政党も自民党の亜流ばかりです。
 これに追い打ちをかけるように、「小選挙区の再編」も「自民党にさらに優位性が保たれる再編」になることを見越しての「改悪」になると今から想像できます。

 過重労働を認めていく国策や小選挙区の改悪で自民党並びに自民党の歩みに沿って歩む政党が増えている中で、ロシアのウクライナ侵攻を奇貨とした軍事強化策に反対する意見を多くの労働者で共有し、すべての悪辣な支配者階級の目論見を打破していこうではありませんか!!

注 : 「鬼の十則」とはをお知りになりたい方はたくさんネットに出ていますが、例えば以下の「あるコラム」のアドレスからご覧ください。
 プーチンウクライナ侵攻で軍隊に強いている訓示として受け取っても通用すると思います。

 電通鬼十則」、そして電通裏十則」 - GIGAZINE

[916]社内副業


 副業制度を企業がちょっと前から積極的に導入しはじめました。社内副業とは、社内で所属している部署とは別の部署やチームなどの業務をすることです。
 多能工化の発展形態といっていいと思います。多種類の仕事をやるのは大変です。
 副業制度は資本家・経営者が労働市場で購入した労働力商品をヨリ効率的に消費するために取り入れた方法です。具体的には社内でアルバイトを募集するケースや、社員労働者が自分の技術的労働を複数部署に提供するケースがあります。そして今では所属先会社と個人事業主として委託契約を結んで仕事をする制度が導入されはじめました。
 私は個人契約の副業と聞くと内職をイメージします。古い話ですが、家の中で家計のために低賃金でコツコツ働く、例えば繕い物をする人の姿が浮かびます。内職は時間賃金ではなく個数賃金でした。
 企業側にとっては、自企業で働く労働者のやる気や能力を一定程度わかったうえで労働基準法の適用外の労働力を調達することができる便利な制度です。しかし、労働者にとっては厳しいと思います。単純化していうと8時間労働でこなした仕事以外に、種類の違う労働を請負うわけですから労働時間が増えます。企業側にとって労働時間管理が大きな課題になります。
 副業制度をとり入れているIT企業ガイアックスの担当者は言います。
 「副業が『アルバイト』の場合、本業と副業の勤務時間を通算して管理しなければならず、給与も時間外の計算が必要で運用が煩雑になるため、社外の副業においては『業務委託』を推奨していました。ただ、その運用を社内に適用すると、残業管理の回避や過重労働を隠す手法として、悪用や批判を受けるリスクもありました。そこで社労士に相談し、労基署の見解を確認しました。その結果、『社外で過度な副業をするより、社内なら稼働状況も見えやすくなる』と評価いただき、採用や新人教育のコストを抑えることも可能な案に、お墨付きを得ることができました。」

 労基署からお墨付きを得たと言いますが、「過度な副業」は社内でも起きることを前提として「見えやすくする」ということです。しかし、業務委託した仕事には委託した側は過度な労働が見えても労働時間管理に口出しできないのです。経営者が副業に委託契約という形態を導入するのは残業や過重労働を契約労働者本人の責任とし、企業側責任を回避するためなのです。
 委託契約労働の対価は委託契約金という形式をとりますが、事実上は個数賃金です。
 個数賃金は時間賃金の転化形態です。個数賃金は資本制的生産様式のもとでもっとも過酷な賃金支払い形態です。この問題は稿を改めて考えてみたいと思います。
 

[915]米議会占拠事件公聴会


 アメリカでは今秋の中間選挙を前にして、劣勢の民主党がトランプの共和党に前哨戦を展開しています。
 読売新聞が「米議会占拠『トランプ氏がクーデター』公聴会、民主、追及へ」という見出しで、2021年1月6日の議事堂占拠事件に関する9日の下院特別調査委員会における公聴会の様子を伝えています。
 調査委員会のベニートンプソン委員長(民主党議員)は公聴会の冒頭で次のように言いトランプを弾劾しました。
 「議会占拠事件は、クーデターの試みがもたらした結果だ。権力の移行を止めたいトランプ氏の最後の抵抗であり、暴力行為は単なる偶然ではなかった。」
 公聴会では2020大統領選の不正キャンペーンについて当時の司法長官ウィリアム・バーが「大統領に『でたらめだ』ということを何度も伝えた」と証言したことや、トランプの長女イバンカが「私はバー氏の言っていることを受け入れた」と証言したことを映像で伝えました。
 
 トンプソン委員長は、次回大統領選に再出馬する意欲を示している共和党トランプを民主主義の破壊者として指弾していますが、共和党内のトランプ支持は固いといわれています。物価高が止まらない中、民主党バイデンはウクライナ戦争における反プーチンの戦闘を支援することによって支持率を高めようとしていますが、効果が出ていません。読売新聞は調査委員会の動きは与野党分断をさらに広げることになるとコメントしていますが、調査で浮き彫りになったのはトランプの反乱がアメリカの議会制民主主義的統治形態を破壊する意味をもつ行為だったということです。2021年1月6日の連邦議会は、その投票結果を最終認定する手続きをしていました。その破壊行動を扇動したトランプは2020年秋の大統領選ではバイデンの8100万票にたいして7400万票を獲得していたのです。
 私はトンプソン委員長の発言内容にアメリカ資本家階級のガバナビリティの危機があらわれていると思います。議事堂占拠事件をトランプのクーデターと言い、偶然ではなく権力の移行を止めることを意図して議事堂が占拠されたということは、あの事件はアメリカの民主主義的統治形態の終わりの始まりとしての意味をもったということなのです。
 今ウクライナでロシアの侵略を起点として爆発している世界戦争は各国政府とメディアによって「民主主義と権威(専制)主義」との対立抗争というスキームで描かれます。戦争は西側の米欧日・資本主義国家権力と東側の中露・国家資本主義権力との激突という形にエスカレートしています。
 この「民主主義と権威(専制)主義との対立」は独自の形でアメリカ社会にもあらわれているのです。それが公聴会の本質です。