[15]第一波の痕

管理人より
新型コロナ感染症の第一波は収まりつつあるようです。ヒトの細胞に入りこみ生き・増殖することにしか「関心」がないウイルスは、しかし、「望外に」そのヒトびとが生きる現代社会を震撼させています。私は、人間は自然の一部なのだということをあらためて感じさせられています。
しかし現実には人間は社会的存在です。社会のしくみ、在り様によってはウイルスによる病が社会に与える影響も違ってくるのではないでしょうか。いま私たちが暮らしている社会は、資本主義社会です。資本主義にたいするとらえ方は読者のみなさんの間でも様々でしょう。
ですが、私たちがその内で生きている資本主義社会は貧富の差が広がった社会になっているということは否定できないと思います。
第一波が社会的に残した爪痕は私たちの生活、仕事、心に深い傷をつくりました。これまで隠れていたことが、感染症の広がりとその社会的な対応という条件を媒介として一気に現象したといえると思います。資本主義社会のパンドラの箱が開けられたのです。その傷の広がりと深さは一様ではありません。 
自動車、鉄鋼などの大企業は生産削減、工場閉鎖をはじめました。労働者の解雇がはじまっています。観光、飲食業などの経営者は全く商売にならず倒産しはじめ、倒産した事業所で働いていた労働者はその日の生活に困ります。絶望し自殺する経営者の方がでています。会社が休業して賃金が支払われない労働者が苦境にたっています。
俳優などのフリーランス個人事業主)は公演が中止になると収入がなくなります。仕事を失っても失業保険はありません。政府が推奨する雇用によらない働き方をしているフリーランスは170万人いるのです。

医療関係も大変なことになっています。政府、自治体が病院・保健所の統廃合をすすめたため、コロナ感染症の検査体制はパンク状況になってしまいました。院内感染を余儀なくされたところもあり、クリニックをはじめ医療機関全体に、病院で感染するかもしれないという悪いイメージが広がって一人歩きし、患者は大幅に減ったといわれています。先日私はかかりつけのクリニックに行きましたが、いつもいっぱいの待ち合い室に患者さんはいませんでした。従業員を抱える医療機関は経営が苦しくなっています。 
詩人・辺見庸がブログでコロナ危機下の「社会の底」の情景を悲しくうたっています。
「……60すぎの失業者がスーパーでカップ麺をまんびきして捕まりました。81だかの無宿者が、野球部員たちに何百メートルも追いかけ回され、激しい投石をうけて死にました。ひとりぐらしの、少しニンチ入ったおばあちゃんが、アパートで飢え死にしてました。……」(辺見庸ブログ 2020年04月25日「まだまだこれからだよ ○巣箱」より抜粋)
辺見は社会の「底」の立場にたって、コロナ危機を見据えていると思います。


今日はがん医学者の黒木登志夫先生のコロナウイルスレポートからコロナ秀歌秀句を紹介します。5月17日(日)朝日歌壇・俳壇から

・ 新コロナ感染者担当のミッションを「赤紙」と呼ぶ医療従事者
(滋賀市)木村 泰崇

・ コンサートの警備なくなり子はマスク売り出しセールの警備に赴(ゆ)けり
松山市)宇都宮朋子

・ 街中で会う人会う人みなマスクどこの店でも売ってないのに
岡山市)後藤 次郎
〈管理人もいつも不思議に思っています。〉

・変なおじさん行方知らずや街おぼろ
川崎市)小関 新