[93](投稿)医療裁判冤罪判決に抗議

今回はペンギンドクターが東京都保険医協会の抗議声明を転送してくれましたので掲載します。

管理人から読者のみなさんへ一言。
7月15日、東京高裁は乳腺外科「準強制わいせつ被告事件」に関して東京地裁の無罪判決を破棄し2年の実刑判決を被告に言い渡しました。
この判決は背後に何らかの恣意が働いていると、小生は感じます。科学的見解を意図的に無視ないし非論理的に退けているようです。
ところで新型コロナ問題についても専門家の意見が疎んじられています。 GO TOなど科学的根拠に基づかない政治判断と政策によって感染症が拡がっています。
行政も司法も反動化しており、警戒しなければならないと思います。(ブログ管理人 )


ペンギンドクターから

皆様
 以前「乳腺外科医裁判」における地裁での無罪判決については詳しくお伝えしました。今回、その高裁判決が出たことはテレビ・新聞等でご存知と思います。判決は地裁の無罪判決を覆し、懲役2年という実刑でした。裁判官は定年のため退職したので、代読とのことでした。この判決に対しては、新任の日本医師会長も「身体が震えるほどの怒り」という声明を出しています。なぜ医師がこぞって怒っているかというと、すべての医師にとって「明日は我が身」だからです。
 ペンギンドクター

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東京高裁 第10刑事部の乳腺外科医裁判逆転有罪判決に対する声明

一般社団法人 東京都保険医協会 会長 須田昭夫
(文責)同協会 勤務医委員会担当理事 佐藤一樹

2020年7月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp

東京高等裁判所第10刑事部(朝山芳史裁判長 本年5月2日定年退官)は、本年7月13
日、いわゆる乳腺外科医裁判控訴審平成31年(う)第624号 準強制わいせつ被告事
件)において、東京地方裁判所刑事第3部の無罪判決を破棄し被告人に懲役2年の実刑を言い渡した。
原審では、乳腺腫瘍摘出術後の女性患者の診察時に、執刀医が健側の胸をなめ回し、二度目の診察時に自慰行為をしたという事件があったとするには、合理的な疑いを挟む余地があると判示していた。

控訴審判決における1非科学的誤謬、2反医学的判断、3非当事者対等主義による人権侵害、4「疑わしきは被告人の利益に」の原則否定などは、医師団体としても一般市民としても絶対に許容できない。当協会はこの冤罪判決に強く抗議する。以下上
記4項目についての当協会の見解を述べる。

1.非科学的誤謬:
科捜研の鑑定は、採取資料を証拠物として保存せず廃棄し、呈色反応結果を撮影せず、検査結果を消しゴムと鉛筆で数回にわたって修正するなどしており、科学的検証が行えないものである。再現性のないものには、科学的信用性もない。しかし、裁判所は、そのような科捜研のアミラーゼ活性検出試験結果やリアルタイムPCRによるDNA型検出検査結果と検証実験結果を基に、舐めた場合の唾液量と飛沫の唾液量の比較定量評価を行っている。これでは、非科学的誤謬があると言わざるをえない。
さらに、裁判所は、これらのアミラーゼ鑑定とDNA鑑定に関する、検察側証人である元科捜研職員の原審証言を弾劾した、DNA鑑定の専門家医師の証言を根拠なく排斥している。

2.反医学的判断:
有罪の根拠とされた原告の証言の真実性の評価を左右するせん妄について、学術的に世界共通認識であるせん妄の診断基準を根拠にした延べ3人のせん妄の専門医(精神科医2人、麻酔科医1人)の証言を排斥し、反医学的判断をしている。具体的には、プ
ロポフォールなどによるせん妄状態での性的幻覚出現の可能性が高い点、LINEメッセージ送信は、せん妄状態であっても「手続記憶による行動」で可能である点などを根拠なく否定していることがある。これに対し、裁判官が依拠する医師証人はせん妄
の専門家ではない司法精神医学の専門家であり、本訴訟の証人としてふさわしくない、いわば「検察お抱え医師」である。

3.非当事者対等主義による人権侵害:
一審で証言した看護師証言を完全に排斥し、カルテの記載事実を実臨床に即さない恣意的解釈で評価している。例えば、「不安言動は見られていた」と記載があるのに「せん妄である旨の記載はない」ことを理由にせん妄症状ではないと判断している。
看護師が実臨床において、医師のように診断して診断名をカルテに記載しないからといって、症状が存在しなかったことの証明にはなるはずがない。
なお、客観的な立場にある病室患者の証言について何も判示していない。

4.「疑わしきは被告人の利益に」の原則否定:
証拠調べを尽くして事実の存否が明確にならないときは被告人の不利益に扱ってはならないという刑事訴訟法の原則を無視している。「原判決は、合理性の観点から疑問を入れる余地がある」「DNAは、被告人の口腔内細胞を含む唾液に由来する可能性が
高い」などと疑問を残したり絶対的真実性が存在しないのに、明確な根拠もなく被告人の不利益になる判断を行っている。
また、せん妄に幻覚が生じるのは、原審証拠30%程度、控訴審証拠で20から50%あることを認めながら、性的幻覚体験の出現を完全に否定している。
なお、原審では被告人が自慰行為をしたという患者の証言の信用性を徹底的に否定しているが、控訴審判決では判決結果に不都合となる事柄について何の判示もされていない。

総じて、本控訴審判決では、明確に判示できない判断根拠については何の論証もなく唐突に「論理則、経験則等に照らして」という文言が随所に見られ、飛躍した結論を導いている。これは、有罪を支えようとする恣意的判断を論理的には説明ができない
ために、誤魔化しているとしか考えられない。ある著名な法律家が、「東京高等裁判所は、東京地検公判部東京高裁出張所の後ろ盾である」と評した通りである。

現在、世界的COVID-19の感染拡大によって、一般国民であっても会話時の飛沫の動態や、PCR検査の評価方法や、各検査間の感度や特異度の相違などの医学的基礎知識が高まり、サイエンスリテラシーやメディカルリテラシーのレベルが上がっている。そ
のような背景において、「検証可能性の確保が科学的厳密さの上で重要であるとしても、これがないことが直ちに本件鑑定書の証明力を減じることにはならないというべきである。」と嘯く傲慢な姿勢は、医師や医療者だけでなく一般国民からも批判を浴
びている。誰が読んでも、常識から大きく乖離した冤罪判決である。
裁判官は科学の専門家ではない。だからこそ、科学技術の専門家証人の意見に公正に耳を傾けねばならない。本控訴審判決で真の専門医の証言を排斥し、科学的証拠の認定よりも裁判官の経験則を優先したことは、医療界を愚弄し、日本の刑事司法への絶
望感を増長するものである。
最高裁においては、誤った原判決を破棄のうえ被告人を無罪とするか、あるいは原審裁判所へ差し戻して、被告人とされている医師を冤罪から救済しなければならない。

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http://expres.umin.jp/mric/mric_kitei_2020.pdf

MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp

MRIC by 医療ガバナンス学会

引用以上
ペンギンドクターより