[238](投稿)NHK『エール』に思う

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 私は、出勤前にNHK朝ドラ エールを見ています。作曲家古関裕而をモデルとした物語です。彼は、日中戦争前は、船頭可愛や、紺碧の空(早稲田大学の応援歌)を創り、戦争中は露営の歌や若鷲の歌(予科練の歌と知られている)などの戦時歌謡 をつくります。
 しかし、インパール作戦下のビルマに、従軍作曲家として訪れたことが人生の転機となります。最前線への慰問で、恩師の死に直面し戦争の悲惨を体験したことから、自分の歌が若者を戦争にかりたてていることに良心のうずきを覚え、終戦後歌がつくれなくなります。
 依頼された長崎の鐘の作曲にあたっては、被爆者治療後寝床に臥す永井博士を訪れています。彼から、絶望の底に何があるかという問いに答えがだせず、苦しみます。博士からそれは大地ですと教えられ勇気づけられ、あの歌が完成します。ここまではエールのあらすじです。
 藤山一郎の歌う長崎の鐘は確かに平和の歌です。いい歌だと思います。古関は、後にある歌謡番組に出演し、当時の自分の胸の痛みを告白し、長崎の鐘には自分の歌がきっかけとなって戦死した人びとへの鎮魂の意味が込められていると語っています。それはうそ偽りではなく真実だと思います。
 ただ、彼は、戦争を遂行した国そのものに対する否定感はないようです。戦後、日本国憲法で戦争を放棄したにもかかわらず、朝鮮戦争の戦争特需で潤い、軍隊を復活させた政府への批判はありません。 
 いま、日本では、集団的自衛権の行使が合法化され、米軍と自衛隊の合同軍事演習が恒常的に行なわれています。私は、彼に、黄泉の国から、平和の歌、ナショナリズムを超える歌を創って地上に届けてほしいと願っています。

大岡翔太