[243](投稿)ワクチン未完成の現在、感染拡大を防止する手立てはない

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ペンギンドクターより

 新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)関連情報をひとつお知らせします。



 COVID‐19対策が困難な9つの要因【第61回臨床ウイルス学会】

 順天堂大学大学院・堀賢氏が講演

m3.com編集部 2020年11月2日(月)配信



 順天堂大学大学院感染制御科学教授の堀賢氏は10月3日、ウェブ上で開かれた第61回日本臨床ウイルス学会学術集会のシンポジウムで、医療施設における新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)対策のポイントについて講演。COVID‐19対策が困難な9つの要因を紹介し、「院内感染対策のために、今後も講習会やオリエンテーションを重点的に開催すべき」と述べた。以下ほぼ原文通りです。


●ワクチン未完成の現在、感染拡大を防止する手立てはない


 堀氏はまず、COVID‐19の対策が困難である要因は大きく以下の9つに分類できるとし、それぞれに解説を加えた。

1、潜伏期間が長く、感染可能期間が不明であった

 新型コロナウイルスSARSCoV‐2)の感染可能期間は当初、14日間に設定された。これは、未知の感染症に対する潜伏期間のルールを適用したためであるが、この値がなかなか縮まらなかった(現在も10日間の隔離措置)。そのため、患者を隔離するための個室が不足したり、濃厚接触したスタッフが長期間の自宅待機を強いられたりと、医療体制に負荷がかかった。

2、不顕性感染が少なからず存在し、感染を拡大させた

 不顕性感染は他の感染症でも起きるが、COVID‐19の場合、不顕性感染者でも感染源としての能力が強く、症候性感染者と同程度の感染力を持つことから、症候性感染者の隔離だけでは拡大を阻止できなかった。 

3、発病前から感染可能期間が始まっていた

 SARSCoV‐2 RNAは症状発現の1-3日前から検出され、上気道のウイルス量は感染の最初の週にピークに達する。これは麻疹ウイルスにおける感染可能期間(発疹出現の前後2日間)に類似しており、ワクチンがなければ感染の拡大を制御することは不可能であることを意味している。

4、新しい感染経路として、マイクロ飛沫感染が初認識された

 屋内の密閉空間でのクラスター発生報告により、飛沫伝播だけでなく、エアロゾル(マイクロ飛沫)の可能性が示されている。

5、診断法がPCR検査しかなく、実施可能な検査機関も限定的であった

 PCR検査可能機関が少なく、感染拡大初期の2月12日には、全国で1日300検体の検査しかできなかった。その後、検査体制は整えられたものの、保健所での対応がボトルネックとなり、実施件数が伸び悩んだ。

6、PCR検査の感度が30-70%にとどまり、偽陰性が不可避であった

 PCRの感度不足を補うため、当初、隔離解除の基準として2回のPCR検査を実施しなければいけないという”謎ルール”があった。このように、「罹患していない証明」が困難であり、多くの医療機関で疑い症例を多数・長期に抱えることとなり、医療ソースが圧迫された。

7、有効な薬剤がまだないため、接触後の発病予防手段がない

 インフルエンザにおけるノイラミニダーゼ阻害薬のような、接触後の発病予防手段がないため、濃厚接触した医療スタッフは14日間の自宅待機と健康観察を行う必要があり、医療スタッフの不足問題が露呈した。大都市ならまだしも地方病院では代替要員がいないため、一般診療にも大きな影響をおよぼした。

8、国内にPPE(個人防護具)の備蓄が少なく、生産拠点もなかった

 世界のマスク生産のほとんどは中華圏内で行われている。今回のパンデミックの中心地が中国であったため、中国国内でのマスク需要急増と生産の大幅低下により、マスクの輸出が激減、世界中でPPE(個人防護具)の枯渇を招いた。

9、再感染する可能性が指摘されている

 中国・武漢で行われたCOVID‐19発病者の追跡調査では、抗体価が短期間で低下することが報告されている。また、8月下旬には、香港人、オランダ人、ベルギー人が再感染したという報告が相次いでなされた。


●COVID‐19診療は今後も数年スパンで続く

 COVID‐19が持つこれらの特徴を基に、今後の感染対策上のポイントをまとめた。COVID‐19の感染可能期間が発病前2日間および発病後10日間であることから、ワクチンがまだ完成していない現在では、感染拡大を防止する手立てはないことを常に念頭に置くことが重要である。また、ステロイドを長期間服用しているなど、重症化しやすい人は、発病後10日を過ぎた後も最長20日間まで慎重に観察を続ける必要があると強調した。

 その上で、COVID‐19診療は今後も数年スパンで続くと予想されるため、今の臨時体制を続けるのではなく、以前の通常体制に徐々にCOVID‐19対策を組み込んでいくことが重要だと指摘。そのために、COVID‐19の診療スタッフは特定の人員ではなく全員体制としたうえで交代制とし、スタッフの補充を常に積極的に行うことで、スタッフが過度に疲弊しない環境を作ることが必須である。また、可能であれば、自施設での検査体制を確立すべきである。外注検査だと、どうしても結果が出るまでに時間がかかってしまい、施設のリソースを圧迫してしまうためである。

 また喫緊の課題として、スタッフによるウイルスの持ち込みを防止することの重要性を周知させることが大切だと指摘。スタッフが日常生活で感染し、院内に持ち込むというリスクは意外に高い。スタッフ、特にまだ経験の浅い今年度の入職者に「新しい生活様式」を学ばせるために、院内感染対策講習会やオリエンテーションを重点的に開催すべきだと述べ、講演を締めくくった。



 いかがでしょうか。医療従事者向けのCOVID‐19のまとめですが、私はよくまとめられていると思いました。PCR検査の感度が30-70%というのは、低過ぎると思われるかもしれませんが、検体の採取時期や採取場所、採取方法、採取技術など、様々な要因が絡んでいるので、他にPCR検査より優れた診断の手段がない以上、臨床症状と合わせて、いかに医療機関の疲弊を防ぐか、常に状況に応じて対策を変えていくことが必要でしょう。この講演のように、これからも適時「歴史」を振り返ってみることが必要だと思います。日本人は「過去のことは水に流す」傾向が強いのですが、新たな出発のためにも、専門家の人々には、その都度過去を振り返って今後の対策への提言を期待したいと思います。

 今日はこのへんで。