[265](投稿)コロナ対策で抜け落ちている重要なこと

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ペンギンドクターから

皆様

東京都はじめ各地でCOVID‐19感染者が連日最高を記録しています。

菅総理も、総理になった途端に目が死んでしまって、コロナ禍の政権運営の難しさを象徴しています。一方、政権を放り出した安倍前総理は生き生きとして、潰瘍性大腸炎の悪化はどこに行ったのか、責任のかけらも感じていないようで、馬鹿々々しい思いです。危機における今の日本のトップには何が何でも生き抜く逞しさが感じられません。

 私が子供の頃、戦争帰りの知らない小父さんに、「お前たちは弱弱しい、一度軍隊に入って根性を鍛え直した方がいい」と言われたことを思い出します。修羅場をくぐった経験のない戦後の人びとでは、私も含めてですが、アメリカ・中国・ロシアと対抗していくことは出来ないように思います。対抗する必要もないと割り切れば、むしろいいのにと私は思っていますが。


 さて、転送する以下の文章は、的を射た提言だと思います。要するに現場の誠実で熱心な一人の医師の思いが感じられる文章です。お読みいただければ幸いです。

 その前に、COVID‐19に関する一冊の本を紹介します。今最も信用でき、かつ役立つ新型コロナに関する本だと思いますので、光文社の回し者と言われるのを覚悟で宣伝させてもらいます。私は11月18日(水)に購入し、二日ほどで読了しました。

 岩田健太郎著『丁寧に考える新型コロナ』(光文社新書2020年10月30日初版第1刷発行)です。

 裏表紙の彼の略歴をそのまま記載します。

●岩田健太郎

 1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学神戸大学都市安全研究センター感染症リスク・コミュニケーション研究分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療分野教授。著書に『「感染症パニック」を防げ!』『予防接種は「効く」のか?』『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』『1秒もムダに生きない』『99.9%が誤用の抗生物質』『サルバルサン戦記』『ワクチンは怖くない』(以上、光文社新書)、『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)、『絵でわかる感染症withもやしもん』(講談社)など多数。


 目次の大項目のみを示します

はじめに

ファイル1 なぜ国ごとに差が出たのか。そして第二波がどうなるか。

ファイル2 検査について

ファイル3 マスクについて

ファイル4 緊急事態宣言の考え方

ファイル5 プール、温泉・・・・・・そして、「専門家」と「信用」の基準

ファイル6 楽器、音楽、コンサート――リスクヘッジの方法

ファイル7 治療について

巻末特別対談 「西浦博先生に丁寧に聞く」西浦博×岩田健太郎


 西浦博というのは、例の「8割おじさん」です。北海道大学教授から京都大学教授に移った「理論疫学」「数理モデル」による新型コロナウイルス感染症の流行を予測している時の人です。この特別対談が最も面白く思いました。

 岩田健太郎氏は、わかりやすく言うと、決して厚労省の委員になることはない感染症の専門家です。つまり、忖度とは無縁の人です。もちろん、野党側に立つこともありません。要するに党派性・政治性とは無縁の臨床医です。野党側の証人になった、私がしばしば言及した児玉龍彦氏や上昌広氏は医師ではあっても感染症の専門家ではありません。そのことは皆様にもお話しておきました。だから彼らの発言は本当の現場を知らない付け焼刃です。しかし、COVID‐19に関してはその実態がわからないので、だれでも言いたいことを言うことが可能です。学術論文も百家争鳴の状態です。そのこともお話しました。その素人コメンテーターのなかに、やっと専門家らしい人の本が登場してきました。ただしこの本の内容は6月末時点での状況を素材にしています。校正の時期の8月末に直近のコメントが出ていますが、それでも3ヶ月前です。その後の変化もありますが、基本的な考え方は的を外していません。

 岩田健太郎氏についてのエピソードを一つ。

 著書に『99.9%が誤用の抗生物質』があるように、彼は一部の製薬会社とは「敵対関係」にあります。また「日本感染症学会」の幹部の相当部分に排除されています。私がこの岩田健太郎氏に興味を持ったのは、日本感染症学会においての些細なエピソードからです。

 一般に学会が行われるときには、その専門領域の先生方に販売するために、医学書関係の出版社がコーナーをもらって販売活動をします。その際、愚かなその時の学会長が、岩田氏の著書を販売させないように圧力をかけたというニュースが医療者ネットワークに登場したのです。日本感染症学会の内情がわかると思います。


 岩田健太郎氏は、逞しい人です。上記の8割おじさん西浦氏もそうです。西浦氏は宮崎医科大学卒です。二人とも外国に出て行き、キャリアを磨いてきた人です。岩田氏は毀誉褒貶の激しい人ではありますが、よく勉強しています。私は信頼できる臨床家、現場の本物の感染症専門家と考えています。購入を薦めます。960円+税です。

 ではまた。

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国や都道府県のコロナ対策でまったく抜け落ちている重要なこと


わだ内科クリニック

和田眞紀夫


2020年11月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp

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これまでの投稿記事で何度も指摘しているのが、封じ込めができない新興感染症は少なからず蔓延していくので、その感染拡大を阻止することは第一目標ではなくなること。


新型コロナウイルス対策で大切なことは、やみくもに感染の拡大を抑えるのはなくて、肝となる最重要事項に焦点を絞って徹底的に対策をとることである。


1)コロナ感染で命を落とす人を最小限に食い止めること

何のためにコロナウイルス感染の拡大を抑えようとしているのか、その原点に立ち戻ることが大切で、コロナウイルスに感染して重症化して命を落とす人の数をいかに減らせるかということが究極の目的のはずだ。最近になって明らかになりつつある様々な後遺症の問題はあるにせよ、重症化という観点から考えると、最も影響を受ける高齢者や合併症を抱えている人たちを守っていくことが最重要課題だ。

高齢の方々でも自立して生活している人は、自分で判断して感染源となりやすい若い人との接触をなるべく避けるなどの感染対策をとることができるが、特に問題となるのは高齢者施設や福祉施設で生活している人たち、療養型の病院に入院している人たちなど、若い人たちの助けがなくては暮らしていけない人たちで、皮肉なことにこれらの施設にウイルスを持ち込むのは彼らをサポートする医師、看護師、介護職従事者なのだ。

欧米でコロナウイルスが猛威を振るって多くの方が命を落としたが、実はその半数以上が高齢者施設や福祉施設で暮らしている人たちであることが明らかになった。日本で亡くなられた人の情報は残念ながらほとんど公表されないが、東京都の唯一の報告でも院内感染や施設内感染の割合が高かった。

11月の今になってもネット記事では「神奈川県で最多の137人感染を確認、川崎市の市立病院クラスターで5人感染、2人死亡(11月7日付け東京新聞)」、「北海道、病院のクラスター相次ぐ 1人死亡153人感染(11月8日付け産経新聞)」という痛ましい記事が並ぶ。

必要なことは、高齢者や基礎疾患を抱える方が多く入院している病院や高齢者・福祉施設に勤務する職員に対して、監視目的のPCR検査を繰り返し実施して感染の芽を摘んでいくことである。PCR検査は重症患者さんだけに限定して無症状のエッセンシャルワーカーの検査は行わないという政府の方針では、完全に重要な対策が抜け落ちている。


2)個々人に対する感染対策や指針はあっても、「組織・集団」に対する指針やマニアルを作らないことが社会の混乱を招いていること

会社の同じフロアーでコロナの陽性者が出た場合どうしたらいいか。感染者には当然保健所が介入して自粛要請(自宅、ホテル、入院)し、濃厚接触者にはコロナ検査を要請する。しかしここで問題となるのが、感染者の近くに寄って話をした人であってもそのほとんどは濃厚接触者とは認定されないことだ。それは最近になって濃厚接触者の認定基準を改定してよほどの条件を満たさない限り濃厚接触者とは認定しないようにしたためだ。

実際、このような状況でも濃厚接触者とは認定されなかった方が不安になって当院を訪れて、PCR検査で陽性と出たケースが少なからず存在する。つまり今の国の方針では本気ですべての感染者を見つけ出そうという意図はなく、感染症法に基づいて行うべきクラスター調査が形骸化してしまっている。

疑わしい人には徹底的にPCR検査をしていくことが一番大切だが、少なくとも「ある集団内に感染者が発生した時にまわりの人はどうしたらいいか」「会社の管理者や責任者は部下にどのような指示を出したらいいのか」についてなど、誰かがそういうときのための指針・マニアルを作って指導すべきであるのに、国を始め感染症関連学会、医師会なども個々人に対する感染対策や指針は出しても、「組織・集団」に対する指針やマニアルをまったく示していない。それぞれの組織が自分たちで考えるようにというスタンスだ。

このために国じゅうの様々な組織のそれぞれが四苦八苦して対策を練っていて、社会の混乱を招いている。ここでいう「組織・集団」には具体的にはどういう組織が含まれるかというと、クラスターが多発している病院や福祉施設はもちろんのこと、学校、公共施設、企業をははじめとする様々な職場、スポーツ・芸能の団体から娯楽施設などありとあらゆるものが含まれる。

それぞれ勝手に対策をとらせているから、対策がきちんとしているところとそうでないところができてしまい、感染対策が不十分なところでクラスターが発生する。当院が所属する練馬区にある順天堂練馬病院では7人の医師・研修医の感染から始まって看護師・患者さんを含む69人もの感染が報告された(2020年10月)。医療のプロである大学病院ですら初期対応を誤るとこれだけの大クラスターを発生させてしまうのだ。

さらに具体例を一つ挙げて説明しよう。筆者が学校医を務める中学・高校一貫校で濃厚接触者の疑いがある生徒が発生した。「いかに感染を防ぐか」という50枚にも及ぶ分厚いマニアルが文部科学省から配布されている(換気や手洗い・消毒について、給食や部活の活動指針など詳しい指示が示されている)にも拘わらず「濃厚接触の疑い」のある生徒が発生した時に、具体的にどうしたらいいかについては記載がない。

濃厚接触者の認定を受けた生徒は14日間の登校停止としているほか、ひとたび感染者が確認された場合は厚労省管轄の保健所の指示に従うことになっているが、このとき「学校がどういう対策をとるべきか」の的確な指示はない。「3日間ぐらい学校を休校とするのが一般的である」という曖昧な表現で終わらせている。あとは個々の学校で考えて対処して下さいというスタンスだ。

ちなみに筆者が経験した濃厚接触者疑いの生徒(同居の兄がコロナウイルスに感染)は、兄のコロナ陽性が判明した後もなかなか保健所のPCR検査の日程が決まらないため、業を煮やして当院で唾液のPCR検査を実施したところ翌日に陽性であることが判明した。この生徒は兄の検査結果を待っているあいだも登校を続けていて、「授業の合間の休み時間ともなれば友達といっぱい話をしていた」と話していたにも拘わらず、保健所は学校内の濃厚接触者ゼロと判定し、学校に対しては休校措置をとる必要はないという見解を示した。そもそも濃厚接触者の判定基準を見直すべきだが、感染リスクの捨てきれない生徒のPCR検査はせずに学校の休校措置も指示しないというのはクラスター発生のリスクを助長している。当院では学校医の判断で3日間の休校措置をお願いした。

ここでの問題はこのようなケースに対する指導をたまたまその時に対応した保健所の担当者に委ねていることで、感染拡大を防ぐための「組織・集団」に対する普遍的なマニアルを作成・提示していないことにある。社会の混乱を招かないようなきめ細やかな危機管理対策がいま求められている。


3)どの地域でどのぐらい感染が蔓延しているかの調査が行われていないこと

コロナの感染拡大についてまずいえることは、地域によって状況がだいぶ違うということだ。東京都内でさえ地域によって状況にかなり違いがあり、例えば筆者の実家がある東村山市などではほとんど感染者はでていない。地方のニュースを見るといまだに感染者が出ると大騒ぎで感染者の情報が詳しく報道されていて、感染初期の首都圏での状況が地方都市で繰り返されている。一方で感染拡大が先行した首都圏では感染が長引くにつれて個々人の対応ばかりか地上波テレビや新聞各紙の報道までかなり緩くなってきている。

コロナウイルスの感染拡大様式は人ごみの多いところで顕著となる傾向があり、そのことを考慮するとコロナは感染状況に応じて地域ごとにで対策を変えていかなければならない。人出の少ない地方都市や東京都下の感染者があまり多くない地域などでは、徹底的にウイルスを封じ込めるような新興感染症初期の対策が取られ続けているのは仕方のないことだ

このような状況を考えると、どの地域でどのぐらい感染が広がっているかを調査することがとても重要だ。アメリカ在住の日本人医師のコメントの中で、「アメリカでは数多くのPCR検査をしていることで各地域の感染状況を把握することができる」と指摘していた。日本においても季節性インフルエンザウイルスに関しては、全国に約5000の定点観測医療機関が指定されていて、毎年のインフルエンザの発生状況を報告している。この統計のおかげで経時的に各地域の感染状況がリアルタイムで把握できるほか、日本全体のインフルエンザの感染者数を推定値で割り出すことができる。コロナに関しては感染症法の2類相当にこだわるばかりに、感染状況を調べるための調査目的のPCR検査すら行われていない。

国や都道府県はただただマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスや行動自粛などを繰り返し国民に求めるだけでなく、具体的かつ実践的で役に立つコロナ対策を抜かりなく推し進めてほしい。

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