新型コロナの診療に関わる医療従事者の精神的な負荷について
忽那賢志 | 感染症専門医
11/28(土) 18:52
ツイート
新型コロナウイルス感染症の新規患者数が増加を続けており、入院患者数や重症者数も過去最高を更新し続けています。
入院患者数や重症者数の増加によって医療崩壊が懸念されていますが、同時に医療従事者の精神的な負荷も大きな問題となります。
新型コロナ患者数は増加の一途を辿っている
11月上旬からの第3波は現在も収まる気配がなく、新規患者数は増加を続けています。
それに伴い、全国の入院患者数も増加しており、全国の入院患者数は第2波をすでに超えています。
第2波は感染者が若い世代に多かったことから重症者数は第1波を超えることはありませんでしたが、60代以上の重症化リスクの高い感染者の比率が高い第3波では重症者数の増加も著しく、すでに重症者数が第1波を超えています。
重症者数は新規患者数よりも少し遅れてピークが来ることから、重症者数はまだしばらくは増加し続けることが予想されます。
新型コロナを診療する医療従事者にかかる精神的な負荷
新型コロナの入院患者、重症者が増加することによって、本来提供できるはずの医療が提供できなくなる医療崩壊が懸念されていますが、「医療従事者の精神的な負荷」も大きな問題です。
すでに約1年に渡ってほとんど休む間もなく医療従事者は新型コロナに対応してきました。
実際には新型コロナの患者が多い時期と少ない時期とがありましたが、私自身の感覚では精神的に少しゆっくりできたのは第1波が終わった5月下旬から6月下旬くらいまでの約1ヶ月くらいで、それ以外の時期は常に緊張感・焦燥感を抱えながら診療に当たっています。
新型コロナ患者を診療している医療従事者の多くは、
・自分が新型コロナに感染するのではないか
・自分が新型コロナで死ぬのではないか
・自分から家族や同僚に感染させてしまうのではないか
・自分や家族が周囲から偏見を持たれるのではないか
という不安を抱えて診療に当たっています。
私なんかは肥満、高血圧があり感染した場合は重症化リスクが高いことから、感染したらガチで死ぬ可能性があります。
また直接患者さんを診療する以外にも、私のような中途半端な立場にある者は新型コロナの診療に関する院内外の他部署との調整に心が折れることもしばしばであり、毎日仕事を辞めたいなと思っています(突然の告白)。
さて、新型コロナ診療に従事する医療従事者にかかる精神的な負荷については、多くの調査が行われています。
一例として、流行のピーク時、中国やイタリアで新型コロナ患者の診療に当たった医療従事者の精神的な負荷について調査したところ、
不安:12~20%。
抑うつ(気分の落ち込み):15~25%
不眠:8%
心的外傷後ストレス障害(PTSD):35~49%
の頻度で精神的な負荷がみられたと報告されています。
ちなみに私も不眠(入眠障害・中途覚醒)になり、飲酒量が増えています(突然の告白その2)。
医療従事者の精神的な負荷の関する39の研究をまとめたメタ解析によると、こうした精神的な負荷がみられやすい条件として、
・診療する新型コロナ患者数の増加
・隔離病棟・病室での長時間の滞在
・組織的な支援がない
・医療従事者に対する世間からの偏見・差別
が挙げられています。
一方で、
・個人防護具が使用できる
・十分な休息時間
・精神的・肉体的なサポート
・上司からの明確なコミュニケーション
・サポートしてくれる同僚
によって負荷が軽減されることも分かっています。
日本の医療従事者にも精神的な負荷が
日本からも新型コロナ診療を行う医療従事者の精神的な負荷について報告されています。
流行初期から新型コロナ診療に当たっている聖路加国際病院の医療従事者のバーンアウト(燃え尽き症候群)についての調査によると、第1波の頃に、
・31%の医療従事者がバーンアウトを経験し、特に看護師で多かった(46%)
・経験年数が少ない、個人防護具に慣れていない、睡眠時間が少ない、仕事量が多いと感じている、リスペクトされていないと感じている医療従事者で多かった
とのことです。なお、バーンアウト(燃え尽き症候群)とは「それまでひとつの物事に没頭していた人が、心身の極度の疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなること」と定義されています。
また、日赤医療センターの848名の医療従事者の調査でも、
・10%に中等度から重度の不安障害
・27.9%に抑うつ
が第1波の頃にみられたとのことで、海外の報告と同等の結果が示されています。
入院患者数や重症者数が最多となっている第3波では、より多くの医療従事者が精神的な負荷を抱えることになる可能性があります。
医療従事者への精神的なケアについても十分な対策が求められます。
医療従事者の精神的な負荷を減らすためには
新型コロナ診療に従事する医療従事者の精神的な負荷を減らすためには「医療機関における精神的なケアのサポート体制の充実」「個人防護具の十分な配備」などがあり、行政や自治体にはこうした医療従事者への支援を求めたいところです。
しかし、医療従事者への最大の支援は「感染者を減らすこと」であることは間違いありません。
医療現場への負担を軽減するためにも今一度、
・屋内ではマスクを着ける
・3密を避ける(特に職場での休憩時間や会食)
・こまめに手洗いをする
といった、基本的な感染対策について徹底しましょう。
新型コロナの診療をしている、一医療従事者から皆さんへのお願いです
2020・11・28のyahoo japan ニュースから引用しました。(感染者数の推移を示すグラフは省略)
※※※ 石川木鐸(ぼくたく)のコメント
新型コロナ感染の拡大が、「医療崩壊」を招くかもしてないと思う中、確かイタリアの医師が「自死」したと聞きました。おそらくは医療関係者の「うつ病」も増えていると想像されます。今まで、サーズやマーズなどの世界的感染拡大に飲み込まれた国々の多い中で、幸いにもそれらの感染症に見舞われなかったのが不思議なくらいですが、逆に、世界的な感染拡大に巻き込まれなかった分、対策が甘く、専門家が早くから、秋・冬の感染拡大に対して警鐘を鳴らしていましたが、それに対する十分な措置・準備を怠ってきたつけが回ってきています。諸外国と比べると、今でもPCR検査が少ないと言われています。
また、新型コロナウイルス専用の病床数も不足しています。これまでのICUを新型コロナウイルス専用に転換するくらいしかできていません。しかも、新型コロナに対して訓練を受けた医療スタッフの少なさも、準備不十分できていません。忽那氏が指摘していることを、今からでも最速で実現していかなくてはならないと思います。種々の防護用具や消毒薬、エクモを稼働させられる力を持った医師やスタッフ。体位交換をすることができる多くのスタッフ…が必要です。今からでも育成していくことが必要です。前にも同じことを言ったと思いますが、寸刻を争う事態だと思います。
一方で、知人の開業している医師は、必要不可欠な、小児に対する定期的なワクチンンをコロナの感染を恐れて敬遠する家族が多いと言っています。麻疹(はしか)など必要な、定期的接種は受けないでおくと大人になってから罹患すると重篤になる可能性が極めて高いそうです。予約などで、社会的距離を取りながら(ソーシャル・ディスタンス)、受診した方が良いようです。
読者の皆様には、できるだけ「Go To事業」は避けて、他人(ひと)に感染させないようにして、高齢者の危険性を減じ、また医療スタッフの多大なる負担も軽減してあげて欲しいと希望いたします。