[287](投稿)医療の現場から /「いまや意味のない濃厚接触者認定を漫然と続けていることの弊害 」

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ペンギンドクターより

 皆様もご存じと思いますが、大阪市内の医療体制が危機的状況に陥っています。
大阪市コロナ専門病院「もたない」 看護師14人が退職 地域 2020年12月2日配信 朝日新聞

新型コロナウイルス感染者の急増で、大阪市内の医療体制が逼迫(ひっぱく)している。全国初のコロナ専門病院となった大阪市立十三市民病院では、医師や看護師の相次ぐ退職でコロナ患者を計画通り受け入れられず、他の市立病院などから医師や看護師の応援派遣を受けて急場をしのぐことになった。ただ人手不足は常態化し、現場からは「さらに職員が減ればもたない」とコロナ専門病院の返上を求める声も上がる。  
十三市民病院は元々、18の診療科を持つ総合病院だった。緊急事態宣言下の4月14日、松井一郎市長が十三市民病院をコロナ専門病院とすると表明。当時は、重症者の治療に必要なECMOがある医療機関で中等症患者も抱え、重症者の受け入れを難しくしていた。中等症専門となった十三市民病院は、「医療崩壊させないための砦」(松井市長)と位置付けられた。  
だが、コロナ専門病院化は痛みを伴った。4月16日から外来診療や救急診療、手術を順次休止させ、約200人いた入院患者全員を転退院させた。元々あった結核病棟で20人近くのコロナ患者を受け入れていたが、他のフロアで感染防止の仕切りや床の張替えなどの工事を進め、5月から90床での受け入れを始めた。  
だが、コロナ患者が一時的に減った6月頃から、医師や看護師らが次々と辞めていった。10月までに医師4人、看護師14人を含む25人ほどの病院職員が病院を離れた。職員全体の7%を占めた。背景には本来の専門分野の患者を診られなくなったことへの戸惑いなどがあり、分娩に立ち会えなくなった産科の看護師も辞めた。  
病院では、離職を防ごうと、7月から産科以外の外来を再開したが、利用者はコロナ禍前の半分程度にとどまる。新型コロナ以外の入院患者も以前の2割に満たず、退職者が続いた。  
また、コロナに感染した入院患者の約半数は80代で、食事や排せつの介助が必要な人が多く、看護師不足に拍車をかけた。他の医療機関からの医師や看護師の応援もなく、11月に入って感染者が増加しても、コロナ患者の受け入れは60人程度が限界だった。  
病院を運営する地方独立行政法人大阪市民病院機構や市などは11月26日、市立総合医療センターなどから、看護師や医師を十三市民病院に派遣することを決めた。計画通り90人の受け入れを可能にするためだが、この影響で、同センターのがんなどを患うAYA(思春期と若年成人)世代の専用病棟が一時閉鎖されることになった。  
十三市民病院の西口幸雄院長は「精神的な負担を考えると、離職を防げないかもしれない。やっていけるのかという不安は変らない」と話す。

●いかがですか。朝日新聞の記事ですので、さらりと事実が書いてあります。 
医者のネットワークでは以下のような意見が見られました。大阪維新の会橋下徹(元大阪府知事大阪市長)の責任を挙げています。医師の反応では、大阪の政治家の愚策を批判するものが殆んどですが、あまり働かない公的病院に対する批判も少しありました。
◍「大阪維新プログラム」で府内の医療機関を徹底リストラ
◍赤字の施設は廃止、黒字の施設は民間へ
◍府立病院の予算を大幅削減
◍千里救命救急センターへの補助金3億5000万円を廃止
◍大阪赤十字病院への補助を廃止
◍府立健康科学センターも廃止
◍府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所を統合縮小 
感染症予防の研究および対策を担当する部署をリストラ)→→これが、大坂の医療崩壊の原因!!  
大阪府大阪市をひとまとめにして大阪都構想を推進しようとした大阪維新の会ですから、上記の医療機関のリストラ構想は上記の医師の言う通りでしょう。COVID‐19がなければ、それなりに無駄を省く「目玉の施策」だったのではないでしょうか。  
しかし、公的病院に対する大阪府大阪市の政策は、日本全体のもの、つまり厚労省の政策でもあります。「無駄を省く」と称して、公的医療機関を民営化する構想です。昨年末でしたか、424病院の公的医療機関の実名を挙げて、整理統合を促していたのが、国でした。公務員の削減(特に現場の公務員)、保健所の統合、国立病院や市立病院の独立行政法人化とともに赤字病院を廃止あるいは民営化する方向などなどです。  
以前にも言ったことがありますが、「国」「国家」の役割とは何か。 
最低限の「国家」の役割とは「徴税」そして「軍事」と「外交」でしょう。次に「自治体」すなわち「公的な機関」の役割となると、「医療・教育・福祉」さらには道路・港湾などの「インフラの整備」でしょうか。私としては「鉄道」も本来公的なものだと思うのですが。 
「医療」はどうみても「公的なもの」です。本来なら「病院」は「公的な機関」であるべきです。つまり利潤を追求すべきものではありません。しかし、江戸から明治・大正・昭和初期の時代において、医療は公的なものではありませんでした。唯一の例外が「陸軍病院」後の「国立病院」です。要するに傷ついた兵士を再び戦場に送るための施設が日本の公的病院の始まりと言っていい。そしてもう一つの公的病院が兵士に蔓延した結核に対する病院「国立療養所」でした。全国に500前後あったこれらの国立病院や国立療養所を如何に廃止していったか、厚労省の苦労をいろいろ聞いています。  
私自身は日本の病院の現状は理解しています。 
「公的病院」の前近代性・保守性は理解していますが、新型コロナウイルスの蔓延の今、もう一度本来の医療のあり方について考える必要があると思います。  
それはそれとして、皆様は十三市民病院を退職した人々をどう思われるでしょうか。もし私が十三市民病院の医師だったら、やはり辞めていたと思います。つまり、突如、大阪市長が4月14日より「十三市民病院はコロナ専門病院」にすると宣言したとしたら、私がガンの外科医として手術し、術後外来を連日苦労しつつやっていたことは無意味になりますから・・・・・・。当然整形外科医や産婦人科医も辞めたくなるでしょう。「内科医」とくに呼吸器内科医なら、感染症についての濃淡はあれ、患者さんに対する対応の経験があるはずです。つまり、日本の現状では、ベッドを確保しても実際にコロナ対応の医師・看護師・その他の現場で対応できる医療従事者の確保は不可能なのです。
 正直なところ、私は今はパート医であり、本当のコロナの現場にいないことにホッとしています。
 岩田健太郎教授が厚労省の人びとの「嘘」についても先日紹介した本で言及しています。  
以下の転送する内容は、真面目な開業医の切実な思いの一つです。では。

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MRIC Vol.240
いまや意味のない濃厚接触者認定を漫然と続けていることの弊害

わだ内科クリニック和田眞紀夫
2020年12月1日
MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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濃厚接触者とは何なのか。何のためにこのような概念を設けて行動自粛を強要しているのか。当たり前のようで当たり前ではない。この答えを書く前に具体的な事例について説明しておきたい。
先週末に当院にプロの音楽家の方が来院された。その日の朝に37.1℃の微熱があって倦怠感があるという。連日のライブ演奏を控えている状況で、もしコロナであったら多くの人に感染させてしまうという懸念から早急のコロナの検査が必要だった。

日頃当院でも唾液のPCR検査を実施しているのだが、あいにくその日は連休初日の夕方。連休中は民間の検査会社が休みのためにPCR検査用の検体を採っても検査をしてもらえない(日・月曜日に感染者数の発表が少ないのはこのためである)。待って連休明けにPCR検査を実施しても結果が出るのは早くて翌日で、コロナかどうかがわかるのに4日も5日もかかってしまうことになる。
やむなく日ごろは実施していない、感度の劣る簡易抗原検査を実施してみたところくっきりと陽性のバンドが出現した。医療機関には感染者が出た場合速やかに保健所に届け出る義務があるが、保健所は連休中電話が通じない。こういう時のために東京都の緊急連絡ダイアルが用意されているのだが、何度電話しても応答がなかった。結果的には翌朝の日曜日にやっと連絡が取れたのだが、その後にこの患者さんは状態が悪化してしまい結局入院となった。
とはいえ発症から10日が経過して症状が改善していれば再検査はせずに普通の生活に戻っていいとの説明を受けた。 実はこの方の伴侶もプロの音楽家で、こちらの対応にこそ大きな問題が潜んでいた。この方も同日に抗原検査を実施したが、こちらの検査結果は陰性だった。速やかに感染者との接触を断つためにこの日の夜からホテルに滞在していただくことにした。
翌朝保健所の判断が下されて濃厚接触者と認定されたため、規則に従って14日間自粛の指示を受けた。 1回目の検査が陰性の濃厚接触者なら、あいだを開けてもう一度PCR検査を実施して2回目も陰性なら自粛解除でいいのではと保健所の職員にかけあったところ、「検査結果のいかんにかかわらず濃厚接触者は14日間隔離が今の原則」とはねつけられてしまった。
このように感染流行初期の基準がそのまま続けられているために多くの人が苦しめられているのだ。 例えば5人家族で同居の大学生が感染したら、働き手の父親は14日間仕事に行けなくなり、小中学校に通う兄弟たちも14日間も学校に行けなくなる。実際このような事例がネット記事に報告されていて、自分が感染したために家族に迷惑をかけたと後悔している若者の感想が語られていた。
大したことではないように思われるが、実際当事者になると事の重要さを思い知らされる。前述の音楽家の方は感染者が暮らす伴侶のもとを離れて14日間ホテルに缶詰めになることになり、14日間の演奏予定の共演者と興行施設すべてに連絡を取って出演できないことを伝え、世間には突然の公演中止の周知を流すなど、それは大変な事態になった。
感染者ならまだしも検査で陰性が確認された濃厚接触者に対してそこまでしなければならないのかとつくづく思い知らされた。
つまり奇妙なことに感染確定者よりも濃厚接触者のほうが自粛期間が長くなってしまっているのだ。感染者も当初は14日間の隔離後48時間開けて2回のPCR検査で陰性が確認されて初めて自粛解除とされていたのが、現在では自粛期間が10日に短縮されてPCR検査による確認も不要となっている。それにも拘わらず濃厚接触者の規定は改定されずにそのままのためにこのような逆転現象が起きている。
新興感染症が海外から入ってきた当初は、封じ込めをするためにネズミ一匹を逃さないような徹底した感染対策が求められ、感染疑いのひとを含めて厳しい隔離政策とる必要がある。クラスターの追跡という日本がとり続けている対策がそれで、濃厚接触者という概念を定義して、法律(感染症法の指定感染症2類相当)にのっとって検査と隔離を徹底する。
しかし現在のようにウイルスが日本中に蔓延して感染者自体ですら検査が受けられずにいるひとがあふれかえっている状況の中で、濃厚接触者だけを厳しく規制するのは全く時勢にそぐわないのは明らかだ。それにも拘わらず国はその根拠となっている指定感染症の内容を変更せずに継続すると決定した。
ところで濃厚接触者に関してはもう一つ大きな問題が起きている。それは感染者と明らかに接触している事実があるのに濃厚接触者に認定してもらえず、行政検査(法律にのっとって行う検査)という無料のPCR検査を受けさせてもらえない人たちがいっぱいいることだ。例えば前述のコロナ陽性の音楽家の方は伴侶の演奏会後の会食時に対面で話をした人がいたが、伴侶以外に濃厚接触者はいないと判定された。
どうしてこのようなことが起きているかというと、濃厚接触者の定義を変更してよほどの強い接触がない限り濃厚接触者には該当しないように改変したためだ。(濃厚接触と判断する目安を「2メートル以内の接触」から「1メートル以内かつ15分以上の接触」に変更)。さらに「行政が行う積極的疫学調査における対応については自治体ごとの判断に委ねる」としているので、自治体によってはマスクをしていれば接触とみなさないとして濃厚接触者に認定しない場合もある。その結果、感染者のそばに寄って話をした人でもほとんどが濃厚接触者の認定をうけない事態になっている。感染研の説明でも「感染しないことを保証する条件ではない」としている通り、濃厚接触者に認定されなくても感染している可能性は大いにある。となると、何のための濃厚接触者の定義なのか、この定義でクラスター追跡をする対象を線引きして減らしてしまっては、すべての感染疑いの人を封じ込める対策にはもはやなっていない。つまり、クラスター追跡というのはすでに形骸化してしまっているのだ。それにもかかわらず濃厚接触者と認定した人にだけ14日間の隔離を義務付けるのは全く行き過ぎで、ただただ法律に従うための意味しかない。 ひどいことには感染が急激に拡大している大阪では、濃厚接触者が1週間経ってもPCR検査をしてもらえない状況にあるとの報道があった。
となると濃厚接触者の定義を変更したことはPCR検査の対象者を減らすため、もしくは保健所追跡調査の作業を軽減するための措置と疑われても仕方がない。速やかに法律を改正してクラスター追跡をやめるか、せめて濃厚接触者だけに課している厳しい隔離措置は軽減すべきだ。繰り返しのPCR検査で陰性ならそれでいいはずで、法律の縛りがなくなれば検査も指定検査機関(都道府県と契約を結んだ診療所など)でなくてもいいことになる。国政にかかわる人の英断を期待したい。

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