[333]緊急事態宣言のまえに考えていること

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政府は7日中に緊急事態宣言を出す腹を固めました。こんにちの状況をつくりだしたのは菅政権の場当たり的な「感染防止と経済対策」の両立政策です。

ウイルスは生きのびるために存在しています。ウイルスを絶滅することはできませんが、予防や治療はしなければなりません。しかし政府は感染の拡大を手助けするようなことをやってしまいました。GoToトラベル・イートキャンペーンが拡大に拍車をかけたのは明らかです。菅首相はなすすべがなくなり、四都県の知事の要請を渡りに船と強権発動にふみだすのだと思います。



朝日川柳から一句引用ます。

知事要請なければ総理どうしたの

(愛知県 伊藤 久美)

各方面から遅すぎるという声があがっています。しかし、私はここでよく考えてみなければならないと思います。当ブログ〔332〕の骨川さんの投稿を読んでください。1930年代、戦争と巨額の戦後賠償と失業という緊急事態に直面したドイツは、ヒットラー政権を誕生させました。その過程が紹介されています。

緊急事態宣言を出すのはGoToトラベル、イートで感染を広げた菅政権です。(コロナ)特措法を改訂して罰則付きの緊急事態宣言を出すといっています。営業時間を制限された多くの飲食店舗で経営が立ちゆかなくなり、店を閉めるところもあるでしょう。関連事業も影響をうけ、多くの労働者が失業します。わずかばかりの休業補償は気休めにもなりません。

それを承知の上で強権的措置をとるために法改正の準備をしているのが自公政権です。立憲民主党は行政罰ならいいと賛同する方向に向かっています。共産党は菅政権が緊急事態宣言することをやむをえないと発言しました。連合指導部は6日現在意見は述べていませんが、昨年4月の宣言時には「重く受け止める」といって賛成しました。今回も似たような対応をするでしょう。緊急事態宣言で生産流通活動が止まり多くの労働者は生活の危機に追いやられます。

緊急事態宣言下では集会の禁止も可能です。労働者は解雇、雇止めにあえば生活ができなくなります。生活の保障はわずかにしかされないでしょう。菅政権は労働者がやむにやまれず解雇反対の集会、デモをおこなえば弾圧するのは明らかです。菅政権は学術会議に推薦された・政権の安保政策などに反対する6名の任命を拒否し理由を問われても回答を拒みつづけています。逆に政府の組織である学術会議を政府から切離し法人化するという脅しをかけています。菅首相はこの機に乗じて内閣専決体制を強化し政権に反対するものを強権的に取り締まっていくでしょう。


憲法改悪のための地ならし


自民党憲法改正案には九条平和条項改訂のほか緊急事態条項があります。この改憲案は首相が緊急事態を認定しさえすれば、内閣が議会を経ることなく法律と同様の効力をもつ政令を発することができ、国民はこれに従わなければならないというものです。

「第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」

「第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。」

 これで憲法上では首相が緊急事態を宣言し反対運動を根絶やしにして日本を戦争のできる国へと転換させることができるようになるのです。安倍の悲願であった平和憲法の改悪を菅政権が継承しようとしています。

自公政権は今年中にも国会で憲法改定国民投票法を決定しようとしています。

今なされようとしている緊急事態宣言は改訂新型インフルエンザ特措法(通称コロナ特措法)にもとづく感染症に対応するものです。自民党改憲案は緊急事態の判断を「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱」にまで対象を拡大するものです。自民党案緊急事態条項は骨川さんの投稿〔332〕に書いてあるように、ヒトラーが全権委任法によって独裁を固めるに至ったその憲法的根拠となったワイマール憲法の緊急事態条項と同様のものなのです。

7日に発令される緊急事態宣言は菅首相の心中では改憲の地ならしとしての意味をもっていることは明らかだと思います。警戒しなければなりません。
野党も労働組合「連合」もこういうときにこそ冷静に菅の強権発動に警鐘を鳴らすべきなのですが、唱和してしまっています。

私たちは改憲の地ならしとしての緊急事態宣言に警戒心をもって、宣言発令による倒産・失業に十分な補償を行うことを菅政権に要求する必要があります。


「人を狂わせるような熱量で襲いかかってくる『正しさ』のなかで」


朝日新聞「オピニオン」欄に小説家金原ひとみさん(1983年生まれ)のインタビューが載っていました。小生、この作家の小説は読んだことはありませんが、こういうことを語る人が書く小説は読む人をひきつけるものがあるだろうと思いました。金原さんは2020年5月に『アンソーシャルディスタンス』という小説を発表しました。

彼女は「恋愛はコロナ禍の中での『聖域』であるはず。私はそう思っていました。さまざまなことがオンラインに切り替わり、『人に会うな』『マスクをつけろ』といわれるなかでも、恋愛相手となら直接触れあうことが許されるはずだと。」思っていたという。ところが家族だけが聖域と考える人が多いことに気づかされ、小説に恋人と出かける息子を批判する母親が出てくるといいます。

金原さんは「オンラインで代替えすることが新しい社会のあり方だという空気のなかで私はセックスに引きずられる人たちのことを、いまこそ書きたい、と感じました。芸術や映画、ライブ。生きるためにはどうしてもそれが必要だ、という人もいれば、不要不急だと思う人もいる。大切なことが禁止された人たちの苦しみは、はかり知れません。私自身の中にあった、閉塞感への反発が、この小説に向かわせたところもあります。社会全体がコロナをおそれ、正しさの圧力が強まるなかで、『みんなが苦しい思いをしなければならない』という社会への憤りを、まだ失うもののない若者の視点で描きたかった。」といいます。憤るほうが正しいと思います。
「正しさ」が金原さんにとってはそうではない。違和感をおぼえる「正しさ」の正体をつきとめる必要がありはしないか、と小生は思います。
マスクをする、三密を避ける、ソーシャルディスタンスを保つ、というのは感染を防ぐためには必要なことであり守らなければならないというのは正しい意見です。が正しい意見をいう人が守りたいものはみな同じではない。菅の守りたいものと労働者の守りたいものは同じではないと思います。政府・支配階級が守りたいものは自分たちの階級の利益ではないでしょうか。かつての戦争は資本家階級の利益を守るために軍事政権が労働者民衆を天皇イデオロギーで感化し、欲しがりません勝つまでは、と忍従を強いて戦争に動員したのでした。

資本主義社会は形を変えてきましたが、本質は変わりません。政府・支配階級は守りたいものが違うということを隠しながら「正しさ」をみんなのものであるかのようにみせかけるのです。

社会全体が新型コロナ感染症の恐怖で震撼させられています。こういう時にこそ労働者階級は理性を働かせ政府の欺瞞を見抜いていかなければならないと思います。