[363]トランプからバイデンへ、危機は去らず

f:id:new-corona-kiki:20210125123327j:plain
管理人より
1月20日アメリカでは民主党のバイデンに政権が移行しました。バイデンは、大統領就任演説でアメリカ国民に結束(unity)を呼びかけ、「トランプの反乱」によってあらわとなったアメリカ政府・支配階級の民主主義的統治形態の危機をのりきることに協力することをうったえました。

大統領選ではトランプとバイデンの得票数は拮抗し、トランプは約7400万人の支持をえました。1月8日、選挙に不正があったと抗議するトランプ支持者の連邦議事堂占拠行動はアメリカの労働者民衆の貧困を物質的基礎とした不満と不安の爆発としての意味をもっており、支配階級内の対立と抗争が沸点に高まったことを意味しています。

註:「[338]トランプの反乱」を参照してください。

資本主義の盟主を自認するアメリカの政府は、貧窮と病のなかで閉塞しアメリカファーストを叫ぶ“強い指導者”を待望する労働者の広範な声に直面しています。バイデンは、先鋭的な右派グループの反乱的行動と共和党支持者の半分以上と言われる反乱支持層を目の当たりにして、国民に民主主義をまもるための「結束」を呼びかけたのです。

トランプへの期待を生みだした失業と貧困

グローバル化しカジノ化したアメリカ資本主義のなかで労働者階級の貧窮は進行しています。FRB(米連邦準備理事会)の2018年調査では、富裕な上位10%の人々が全米家計資産の70%を握り、更に上位1%の人々だけで32%を握っています。下位50%の人々は合計しても全資産の1%をもっているにすぎないのです。2021年のこんにちはこの格差はさらに大きくなっていると思われます。

アメリカ経済のグローバル化によって国内経済が空洞化し、ラストベルトに象徴される白人中産階層は失業と貧困に苦しんでいます。自分たちの生活を脅かしているのは資本家階級であるにもかかわらず、移民労働者が職を奪うと錯認させられトランプに移民を排除することを要求してさえいるのです。
アメリカ全土に広がる貧困化した中間層がアメリカ第一主義イデオロギーを掲げるトランプをかつぎあげ、ファシズム的統治形態を構築する過渡を下支えする役割をになっているのです。

 アメリカの労働組合は指導部によって民主党支持の運動に収れんされていますが、2016年選挙では半数の組合員が共和党に投票したといわれています。今回も組合員の投票行動の内容に大きな変動はないと思われます。1990年代以降資本のグローバル化による工場閉鎖によって解雇が増え、賃銀も抑制されたにもかかわらず労働運動は低迷したため多くの労働者とその家族は路頭に迷いました。格差は拡大していきラストベルトの労働者は貧窮に追いこまれました。
中間層の労働者は、悲惨な状況の打開をアメリカファーストを掲げたトランプに託さざるをえなくなったのです。これは悲劇です。

バイデンが演説でうったえたこと

バイデンは演説の冒頭で 次のように言いました。

「今日、私たちは、大統領候補者の勝利ではなく、大義の、民主主義の大義の勝利を祝福します。」「民主主義は大切であることを改めて学びました。民主主義は壊れやすいものです。皆様、今この時、民主主義は勝利したのです。ほんの数日前には暴力が連邦議会の礎を揺るがそうとしました。そして今、その神聖な地で、私たちは神の下、分け隔てられることなく国家として一つになり、私たちが2世紀以上にわたってしてきたように、平和的に権力を移行します。」

この演説でバイデンは、トランプ支持者による議事堂占拠行動にたいして民主主義の勝利をうたっています。バイデン演説が意味するものは、内戦の末の権力移行ではなく「平和的に権力を移行」することができたとあえて言わざるをえないほどに「反乱」の根っ子は強く、深く広いということなのです。

「結束」をくりかえすバイデン

「100年に1度のウイルスが静かにこの国にはびこり、第2次世界大戦で失ったのと同じだけの米国人の命を、1年間でうばったのです。数百万の雇用が失われ、数十万もの企業が廃業しました。約400年にわたる人種差別にたいする正義の叫びが私たちを突き動かします。」「いま、政治的過激主義や白人至上主義、国内テロが台頭しています。」「これらの課題を克服し、米国の魂を回復させ、未来を取り戻すには言葉以上のものが必要です。民主主義の中でも最も定義が難しいものが必要とされています。結束。結束なのです。」「全ての米国民に、この大義に加わってくれるようにお願いします。」

ここでバイデンは生起する諸問題に立ち向かうためには結束しかないとうったえているのです。「反民主主義」の・厚い社会的岩盤にも結束を呼びかけているのです。

バイデンはつづけていいます。

「直面する共通の敵と戦うために結束します。つまり、怒りや恨み、憎しみ、過激主義、無法、暴力、疫病、失業、絶望のことです」「結束について話すことは、いくぶん愚かな空想に聞こえるかもしれないのは分かっています。私たちを分断する力は深く、現実にあることを知っています。」

バイデンはトランプ派を「私たちを分断する力」として認識し、「国家なしでは、混沌とした事態だけとなります。」と国家権力のカバナビリティの低下にたいする危機感を語っているのです。
バイデンは就任演説で国外の敵ではなく国内の敵にたいして国民の結束をよびかけました。しかし反乱の根は深く、新型コロナ感染症のまん延のなかで企業倒産と解雇は止まらず、アメリカ労働者階級の生活と生存の危機は進行しています。それはバイデン政権のもとでもとどまることはないでしょう。
カジノ化した資本主義のもとで巨額の富をえてますます肥大化しているアメリカの資本家階級の階級的支配の一形態てある民主主義的統治形態は岐路に立っているのです。トランプはアメリカの民主主義を壊し、いわばトランプ式ファシズムに向かって労働者民衆を扇動し、支持者をして議事堂占拠するまでの行動にいたらしめたのです。
アメリカではすでに「反ファシズム」運動が草の根的につくられています。注目しなければなりません。

特措法、感染症法への罰則規定導入は憲法改悪の布石

日本の地ではコロナ対策に罰則を導入する案が国会で強行的に立法化されようとしています。菅政権は自身の愚策・無策によって感染症が爆発的に広がったことを何ひとつ反省することなく、労働者市民の行動を強権をもって規制することによって感染の広がりを抑えこもうとしています。
時短営業要請に従わない事業者にたいして政府の独断で予防的に罰則を強制する法改悪も準備してさえいるのです。
憲法に緊急事態条項を創設しようとしている政府自民党は、感染症にかぎらず「社会的危機」発生と認めた際に、国民の行動を予防的に規制・弾圧できるようにしたいという思惑があることを見のがすことはできないと思います。