[377](投稿) 菅(かん)総理から菅(すが)総理へ、失敗の歴史は繰り返されるのか ~有事における医療体制と感染対策への提言~

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ペンギンドクターより寄稿がありました。


皆様
 明日からは2月です。今年は節分が2月2日らしく、立春も間近ですが、寒い日々です。いかがお暮しでしょうか。
 転送する文章は、つくば市で日々第一線の医療を続けながら、内容の濃い問題提起をされている坂根医師の文章です。以前にも何度か転送しました。彼女の提言とは異なり、私のようなパートの無責任な老人の繰り言を綴るのも気が引けますが、菅直人菅義偉という名前が登場していますので、思い出す事などを述べてみます。
 菅直人ですが、彼は私たちより年上で山口県宇部の出身です。私の大学の同級生のS君が高校の同級生だったとかで、以前からかなり酷評していました。まだ総理大臣になる前のことです。当時私はS君の評価に反発していました。要するにS君は、菅直人という男は市川房江さんなどの市民運動家を利用してのし上がってきたやつである、等々の「政治屋」的な側面を強調していました。一方、私は菅直人をよく知りませんでしたから。
 その後、私は菅直人の行動を見るにつけて、徐々に評価が下がってきました。東日本大震災時における菅直人総理については、いろいろ言われていますが、その後の自民党の総理大臣などを見るにつけ、同じ場面に遭遇した場合、適切な対応ができたか疑問だと思っています。ただ、原発そのものは自民党自身が推進してきたので、自民党の総理の時に福島原発事故が起これば、原発問題のその後の状況は変わってきたかもしれないと思い、菅直人に同情する気持ちは今も少しあります。
 それはそれとして、菅直人についての私の評価を決定的にしたのは、彼が民主党の代表から降りた後の行動です。確か埼玉県の選挙区だったか、菅直人の同志の女性が衆議院議員選挙に立候補した時、民主党公認を得られず、無所属で立候補したのですが、菅直人民主党の代表経験者であるにも関わらず、その民主党公認の候補と競合する自分の子飼いの女性を応援したのです。自らも無所属になってから応援するのなら、立派とも言えますが、彼が筋の通った政党人ではないことがよく分かりました。自分がそのトップを務めたのですから、その政党の機関決定を尊重すべきです。
 また、総理を辞めてからも、一時四国八十八カ所のお遍路の「一部」を廻ったりしていましたが、そんなことは、総理経験者であり衆議院議員の年金も十分あるはずですから、さっさと政治家そのものを辞めて、数か月かけてじっくり八十八カ所を廻ればいいのにと、スタンドプレーに不快な感じを持ったことを覚えています。

 マックス・ウェーバーの「職業としての政治」に次のような文章があります。・・・・・・政治家にとっては、情熱ー責任感ー見識という三つの性質が特に大切と言えるでしょう。情熱とは、「現実性」という意味の情熱、「現実」への情熱的献身、現実を司る神やデーモンへの情熱的献身のことであります。・・・・・・(『世界の大思想23 ウェーバー政治・社会論集』「職業としての政治」(清水幾太郎・清水禮子訳)418ページより引用しました)(1919年ミュンヘン大学での講演)

 さて、菅義偉総理です。私はまだ、この人を云々する気持になれません。「目が死んでいる」と言う評価は既にしています。しかし難しいコロナの時代に誰がリーダーとして闘えるのか、与党にも野党にも今のところ相応しい人がいるのかいないのか、私にはわからないので、私は巣ごもり生活を続けるだけです。
 ただ、駅ビルの書店には菅義偉の新書が平積みになっています。まだ私は読んでいません。自民党が野党であった時代に出版されたものの「焼き直し」のようですが、公文書の保存云々の都合の悪い部分は削除したという報道がありました。堂々と正論を述べて、正論には時代による変化があると言えばいいのにと私は思います。

菅直人菅義偉、ともにマックス・ウェーバーの職業としての政治を行なう人に必要な「情熱・責任感・見識」には合格しないような論調で語っていますが、今直面している新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)に対する日本政府の対応について具体的に私が感じた違和感をちょっと述べて、坂根医師の文章に移行します。

 私が当時も今も感じている違和感です。
 昨年3月でしたが、当時の加藤厚労相が、新型コロナウイルス感染症PCR検査を「保険」で行うことを可能にする、価格は1万8千円前後になるとかならないとか・・・・・・と語った内容です。 「保険で検査する」という意味が私にはわかりませんでした。保険でやるとかやらないとかいう問題ではなく、これはすべて国がやるという問題だろう。保険ということは3割自己負担・・・・・・ということなのかな、と思いました。その裏にはPCR検査をやる余裕が全くないという現実が隠されていたわけですし、それが4月初めのこれこれの場合はPCR検査はしなくていいという学会の見解につながっているのでしょう。
 皆さんはどう思われますか。コロナ危機を含めた医療を「国家」はまったく他人事としか考えていないという見本が、この一年のコロナ対策で表面化した日本の姿であると思います。第一線で頑張っている坂根医師の悲痛な思いが伝わってきます。岩手県が感染ゼロだとマスコミが騒いでいたのも変ですし、最近では突如広島市の全市民にPCR検査をすると地方自治体が発表するというのも変です。
 以下の文章の曽野綾子さん関連のエピソードも興味深い。現実の医師ネットワークでも似たような馬鹿々々しい議論があります。私の方はここまでです。

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菅(かん)総理から菅(すが)総理へ、失敗の歴史は繰り返されるのか ~有事における医療体制と感染対策への提言~

つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子

2021年1月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp



未曾有の大災害から10年経った。東日本大震災である。
あの時の筆者は開業から半年、被災地でもある茨城県つくば市震度6.5強の地震に遭遇した。幸いにも直後は停電せず、テレビでは、時の総理大臣であった民主党菅直人首相が「全力をあげて救助する」と声高らかに宣言していたので、当初は国がすぐ動いてくれるだろうと思っていた。本当は、地震発生の2:46から日没までが勝負だったのに。実際には地震後の大津波により、冬の冷たい海水に浸かり低体温で亡くなる方が続出した。
その後折に触れ、あの時なぜ、空から水と乾いたタオルと燃料が届けられなかったのか、繰り返し問うてみたが、まともに答えていただけたことがない。ある政治家は、戦時下でもない限り法的には困難、と答えられ絶句した。

かつて曽野綾子氏が、国を超えた人道支援に若手の官僚を連れて参加した時のエピソードを思い出す。現地で若手官僚が「(外国人医師が」医療行為をするのは法的に許されるのか?」と聞いて驚いたと。その場にいた外国人医師が言ったそうである「目の前に患者がいて医師もいる。他に何が必要だというのだ」。
事ほど左様に、日本人の有事の感覚はずれている。震災時も厚労省の保険局からは、Q&A形式での事務連絡で、震災に伴う様々な医療行為 が、「保険診療として取り扱うことができない」として羅
列してあった。日本は中途半端に先進国なために、かえって必要な支援が届かなくなっているということを震災の時に指摘されていたが、今回のコロナでも同じような事態に直面している。
命を救うためには、有事の優先順位で考えなければならないのに、少数の多様性のない管理者(要は高齢男性だが)が管理してきた日本は、相変わらずトップの頭の切り替えができないのだ。

1)医療体制への提言
医療体制については、日本は世界的に見てもベッド数が多いのだが、中小病院が多く、医療機関当たり、ベッド当たりのスタッフが極めて少ないのが特徴である。例えば、100床あたりの医師数は、イギリスが100人に対して日本ではたったの17名なのである。
(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/backdata/01-03-02-06.html) 加えて、日本は未だに個人情報保護の名の下、医療情報は紙運用でやりとりしているところがほとんどである。Faxがこれほど多用されている業界が他にあるのだろうか。行政がらみの無駄な事務作業が多く、サービス残業の多い超ブラック業界をコロナ禍が直撃したのである。コロナの流行地では、あっという間に医療体制は追い詰められた。
どうすべきか。
とりあえず、地域で一番設備の整った病院をコロナ対応の医療機関として、そこに人を集めるしかない。あちこちにバラバラに数床ずつのコロナ病床があっても効率が悪く共倒れになるだけである。その時同時に必要なことは、地域の医療機関をネットワークで結んで、医療者と患者が病院間を行き来できるようにすることである。この先を考えると、どのみち医療情報のネットワーク化は必須。少ない人数でこの難局を乗り切るには最優先でネットワーク化も進めていただきたい。その上で、元いる職場の身分を保証したまま、どっちの職場でも働けるようする緊急医療体制の構築が必要なのである。医師も患者も臨機応変に移動できるなら、患者も器が変わっただけで継続した医療が受けられる。
スウェーデンのカロリンスカ大学病院では、コロナの患者の流行に合わせて、ICUのキャパシティを5倍に増やして対応したという。そしてコロナ対応の医療者の給与は220%
にしたそうだ。https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3743
この「臨機応変」体制こそ有事の体制である。

もう一つは、自治体ごとに医療を区切っている弊害である。こんなに狭い日本でなぜ自治体毎の医療体制に固執するのか、オールジャパンで「困った時はお互い様」で県境を超えて協力し合わなければ今は乗り切れない。国は「地域医療構想」の名の下に各自治体に丸投げして済まそうとしてやいまいか。そもそも各医療団体は、医療機関の集約化については、傘下の病院が潰れるかもしれない事態であり積極的には取り組まない。地元の政治家も票が減るようなことには言及しない。その皺寄せは物言えぬ勤務医のサービス残業と過重労働となって現れていた。自治体の壁を越えるには、予算の他に、リーダーの強いビジョンと法的なバックアップがなければ現場は動けない。ここは国の出番でしょう。

自宅療養中や隔離施設での医療行為ができないという問題も災害時について回るが一向に改善されない。急変して酸素飽和度が低下して苦しんでいる人が出ても、医療体制の逼迫ですぐには入院させられない。ではなぜ酸素吸わせてあげられないのか。入院や入所指示に従わない人には刑事罰が待っているのに、入院したくても搬送先がなく苦しんでいる人の酸素吸入が、この先進国の日本においてなぜ出来ないのか全く理解できない。「悪法といえども法である」という悪法問題である。医の倫理では、国内法より医の倫理が優先する。在宅酸素の手配や宿泊施設での臨時の酸素吸入は認められるべきであろう。政治家は速やかに「人の命を救うための行動(法改正)」を取っていただきたい、それがあなた方の仕事です。

PCRや抗原迅速検査も同様である。未だに必要な時に検査が受けられる体制になっていない。昨年6月からの緊急事態宣言で強力にコロナを抑え込んでいる間に一体何をしてきたのか、劇薬を使っている間に、次に備えていたのではなかったのか。
検査については、多くの開業医や介護施設では自分たちの検査を必要な時に無料で受けることさえまだできない。コロナはちょっとした風邪と全く区別がつかない。少しでも喉が痛かったら、少しでも怪しい接触があったなら、感染拡大防止の視点からも医療機関介護施設での検査は重要なポイントであるはずなのに、未だそれすら整備されていない。それどころか、筆者がSNSでこの問題を訴えると、やれ、自家診療は認められていないとか、休んで検査に行けばいいとか、現場を理解していない医療者から諭されること度々である。ため息が出る。そうでなくても検査で陽性が出れば影響は大きい。検査のハードルが高ければ、好き好んで検査しようとは思わないのも当然で、感染は水面下で広がっていくであろう。
看護師・介護士不足に対する一手もなかなか進まない。中でもコロナのために働いてくれるなら、130万円という扶養範囲内で働いている上限を一時的に撤廃すればいいという案は、すぐにでも実現可能と思われるが、ある国会議員によると「壁が厚くて」前に進まないと聞く。
こんなにたくさんの目詰まりが解消されず時間ばかり過ぎていくうちに、限界に近い医療現場がどんどん増え、苦しむ国民も増えてきた。政治家の有事における意思決定があまりに遅すぎる。

2)感染を抑え込むための提言
東京等の大都市圏では、PCR検査の陽性率が上がり、街を歩いていて、全く症状のない陽性者から次々感染してしまう「市中感染」が始まっている。こうなるともう手がつけられない。
テレビを見ない若者には、インフルエンサーを使ってSNSで情報を届けるしかない。しかも、症状が全くない若者がなぜ友人達と集まって楽しんではいけないのか、自分たちが死ぬような目に合うことはほとんどないのに、なぜ我慢ばかり強いられるのか、それを理解してもらうのはなかなか大変である。
流行地では、元気な若者たちの中にウイルスを持っている人がかなりの確率でいて、会えば知らぬ間に感染してどんどん広がってしまう。最新の検証では症状のないウイルス保持者からの感染はなんと59%にもなるという(JAMA Netw Open.
2021;4(1):e2035057. doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.35057)
そこから家族や高齢者に感染が広がり、身近な人を喪ったり、自身が(ようやく知られるようになってきた)後遺症で苦しんだりする人が増えてくる。感染者が多くなって医療機関がパンクすれば、再び感染をコントロールするために経済が止まり、仕事を失う人がまた増える、人は一人で生きていけない。必ず回り回って自分たちの問題として戻ってきてしまうのである。
筆者は、若者の共感を得やすいオリンピックに照準を当て、いつまでにどのレベルまで感染者を減らさないと、たとえ無観客でもオリンピックの開催は不可能になるということをもっと見える化してクリアーに伝えてほしいと考えている。ここはひとつ、オリンピック目指して日々トレーニングに励んでいるアスリートの方々にも発信の協力をお願いしたい。現状の感染のコントロールでは甘すぎてオリンピックの開催は極めて危うい。なんとかして開催してほしい、若者の夢を奪わないでほしい、というのは私たちにも共通の願いなのである。

3)まとめ
コロナ禍で長年の医療体制の不備のツケが噴出している。これは医療現場の人間がどうこうできる問題ではなく、国のシステムの問題である。
筆者は、東日本大震災でこの国の有事の対応に大きく失望し、意を決して一医療者として声を上げることを決断し、震災直後からこの国の医療が抱える問題を度々指摘してきた。(一部文末に掲載)
震災が人災で悪化したように、今の日本の医療現場の惨状は、長年のシステム改修を怠ってきた人災である。国のトップの強力なリーダーシップが必要なのである。
菅(かん)総理から菅(すが)総理へ、10年の時を経て同じ失敗を再び繰り返してはならない
(参考)
「角を矯めて牛を殺す」~日本の医療をどうしたいのか(2011年11月25日)http://medg.jp/mt/?p=1528
政治家は医療に対するビジョンを述べよ(2011月9月21日)http://medg.jp/mt/?p=1475
Vol.167 開業医にできる震災支援とは?(2011年5月14日)
http://medg.jp/mt/?p=1370

ご覧になる環境により、文字化けを起こすことがあります。その際はHPより原稿をご覧いただけますのでご確認ください。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp

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