[402](投稿)病気でありながら、主治医がいないコロナ患者

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ペンギンドクターより
皆様 新型コロナ感染症(COVID‐19)で大変な思いをしているのに、森さんの発言に加えて、昨夜のマグニチュード7.3の東日本大震災の「余震」までおこり、踏んだり蹴ったりの日本国の状況です。昨夜11時過ぎですが、勿論私はすでに寝ていました。朝は4時半ぐらいに起きるので、当然就寝時間は午後9時過ぎということになります。ラインで娘たちから安否確認の連絡があったり、大阪の知人からSMSのメールがあったりしたものの、一応返事を書き、テレビで震度6強ということを確認して再び寝床に入りました。 
オリンピックの森さんにしても川渕さんにしても、まったく世界の状況が分かっていない。女房曰く、「80代の男性にはどうしたって今の日本の置かれている状況は理解できないはずだ」と言っています。「本音」と「建前」というのは極めて日本的考え方であって、「本音」が出るのが、老人の証拠です。森さんはいい人なのです。川渕さんもいい人なのです。川渕さんは一応サッカーやラグビー協会のチェアマンとやらを歴任していますが、最後の大仕事が廻ってきて嬉しかったのでしょう。「民主主義」や「ジェンダー」という言葉を彼らに理解させようとしても無駄です。70代の一部も同様です。 
要するに世界が相手のオリンピック関連の人事ですから、それにふさわしい人を選ぶ必要があります。森さんがいい人であろうとなかろうとどうでもいいことです。根回しが必要だということは当然ですが、トップになれば最終的な決定はトップがやるしかない。医師のネットワークでも森さんを弁護する論調は多いのですが、それこそが、日本の医療の現実を象徴しているように思えます。つまり男尊女卑は日本の医療人の現実です。
しかし働き方改革には男女が協力して参加するしかなく、女性の医師が、子どもを夫婦で育てながら、キャリアアップをしていくしか未来はありません。これは異常だった私たちの世代の働き方を否定して成り立つことです。私もよく働きましたが、時間の無駄でもありました。このままでは、日本のビジネスの生産性はますます低下していきます。
 マグニチュード7.3の余震のことです。ちょうど今、磯田道史『天災から日本史を読みなおす 先人に学ぶ防災』(2014年11月25日初版 中公新書)を読んでいました。磯田道史という人はご存知のようにNHK「英雄たちの選択」においてもメインキャスターを務めています。歴史人口学の祖・速水融氏の弟子であり、信頼できる人です。菅総理が購入した『感染症の日本史』が2020年9月20日文春新書として出版されていて、私も昨年読みました。駅ビルの書店にもこういう本はあるので、週に一度は仕事の帰りに駅ビルで購入しています。そこに余震ですから、いいタイミングでした。当時の民主党政権を批判するだけだった安倍政権がコロナ対策で行き詰まり、悪化した「持病」で敢え無く崩壊した事実を繰り返さぬよう、菅政権の総力を挙げて、政権維持など考えず、先手先手と危機管理をやってほしいと思います。そうすれば、おのずから政権に対する評価がアップするはずです。
 今年のオリンピックはどうせ無理なのだから、世界の流れのさらに先を行くぐらいの、女性の会長を押したてて小池都知事とコンビを組んでもらって、対応するぐらいの英断がいくらでも出来るように思うのですが。
 さて、COVID‐19です。私の水曜日の仕事場の他の常勤医の奮闘ぶりを報告しておきます。
 クラスターの起こった有料老人ホームでのCOVID‐19治療(具体的な治療ではなく見守りというべきか)に私の仕事場のクリニックが関与していたのです。 
その介護付き有料老人ホーム(全室個室)の経営母体は40年近い経験のある特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人です。良心的という評判です。介護付き老人ホームの入所の料金は高額だという話で、看護師が3人他のスタッフも訓練されていて、入所者の面倒見もいいホームです。入所者の身なりも上等ですし、清潔です。私の仕事場のクリニックにはちょっとした風邪のようなものでも、スタッフがついてきて熱心に面倒を見ています。入所者は高齢ですから女性が多く認知症も多い施設です。「どんな状態ですか」と聞くと、本人は答えられないことが多いのですが、スタッフがきちんと状況を教えてくれて頼りになります。私も多くの入所者およびスタッフとコンタクトがありました。
 その施設にクラスターが発生したのです。発端は職員の感染からだったようです。当然、入所者の外来受診はなくなり、薬は電話受診で状況を聞き、適時処方箋を発行していました。高齢・超高齢が多い施設ですから、重症者も出てきます。私以外の医師が往診することも多く、結局38人の入所者のうち20人が感染し、4人が死亡、3人は施設内で死亡、1人が転院して亡くなったとのことでした。本当はすべて施設内で最後まで面倒を見たかったのだが、家族が転院を希望したのでやむを得なかったと院長は言っていました。死因は強いて言えば「コロナ関連死」かなと言っていました。要するに、超高齢でいつ死んでも不思議はないような人が、コロナをきっかけに亡くなったということだと言っていました。 
PCR検査陽性であることは勿論ですが、「肺炎」の有無は、市民病院において胸部CTを含む、検査をしてくれています。入院までは引き受けられない(要するにもっと優先されるべきコロナ感染者がいるということ)が、検査ならいつでも引き受けてくれたので、助かったと言っていました。それでいいのです。私の経験でもインフルエンザの場合も同様でした。人工呼吸など無意味な場合もあるのです。
 一番大変だったのは、「認知症」なので、スタッフがマスクをし防護具をつけ、フェイスガードなどすると、患者は馴染みのスタッフであっても、それとわからず、興奮し暴れ言うことを聞かない、日常の生活ができず施設全体が不穏状態だった。落ち着いた今は楽になったとのことでした。
 「スタッフで辞めた人はいたの?」と聞くと、「誰も辞めていない。3人の感染したナースももう2人は戻ってきたし、あとの1人も復帰するはずだ」と言っていました。いいことです。それだけ、スタッフは優遇されているのでしょう。給与もいいのでしょうが、スタッフも質が良いうえに大事にされているのでしょう。それだけにこの施設の入所費用は高いということかもしれません。
 以下の自宅療養の感染者の件とちょっと異なりますが、在宅医療の経験が十分にある医療従事者と、在宅療養の意味を十分理解している感染者であれば、自宅療養も対応が可能なのではないかと素人ですが感じます。
では、以下の和田先生の問題提起をお読みください。            

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コロナ自宅療養者、問題は病気でありながら主治医がいない状態に置かれていること

わだ内科クリニック和田眞紀夫
2021年1月29日
MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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当院ではかかりつけ患者さん以外にも紹介で訪れる方のコロナ検査を広く実施していて、発熱相談センター、保健所、近隣の診療所などから連日多くの依頼を受ける。陽性例は保健所に届け出を済ませてその後の対応はすべて保健所に下駄を預けるシステムとなっているが、当院で陽性と判明した患者さんから引き続き電話相談が入ることがある。昨日もある患者さんから、自宅療養しているけど呼吸が苦しくなって来たという電話連絡を受けた。

保健所に何回電話しても全くつながらないので、助けて欲しいという訴えだった。 取り敢えず応急的に当院でできる対応として、いまの症状に対して処方できる薬を考えて薬局に処方箋をファックス、濃厚接触者の家族に取りに行っていただいた。肺炎の可能性があるので胸部CTとかで確認して肺炎なら入院が必要と考えたが、その業務ができるのは保健所しかない(保健所が都の入院調整本部と交渉する)。だから引き続き諦めずに保健所へ電話連絡するように指示した。聞くところによると、担当の保健所の人は決まっておらず、緊急の連絡方法も知らされていないとのことで、この事が大きな問題と思われた。

要するにコロナの自宅療養者というのは病人であるにも関わらず、主治医がいない状態に置かれているのだ。保健所の担当者が容態を聞いて必要なら入院の手はずを取るのだが、本来このような業務は主治医が行う行為であり、それを医師でない保健所の職員が行なっている事自体が異常なことだ。

健康調査を行っている保健師さんはさぞかし大変な重荷を背負わされていると思われるが、やはり、コロナと診断した後のことをすべて保健所が取り仕切るというこのシステム自体がありえないのであって、単になるキャパシティーの問題ではない。

保健所に陽性届を出した患者さんがその後、入院したのか、ホテルに行ったのか、自宅療養をしているのか、実はそのことさえ検査実施医療機関でさえ知らされていない。民間PCR検査センターは診療所との紐づけがないことが問題だというが、市町村のPCRセンターにしても保健所への届け出こそすれ、(診療所から検査を依頼した場合を除けば)患者さんとして医師がフォローアップするシステムなど存在しない。
やはり基本的には保健所というところはデータを集めるのが本来の仕事であって、もちろん患者さんを治療する組織ではない。だからデータを拾い上げた後は直接的には何もできないのである。

ではどうしたらいいのか。やはりすべての陽性者に対して必ず一人の主治医を決めて、その医師が診療の形でフォローアップすべきだろう。オンライン診療(あるいはせめて電話受診)という形で最低限病状の確認をする(オンライン診療だけなら何らかの理由でコロナ検査を実施できない診療所にも協力を仰げるかもしれない)。どうしても診察が必要なら在宅訪問診療を専門にしている診療所医師の協力も得られるかもしれない。しかしコロナに限っては、入院の手配、これだけは何としても保健所もしくはそれに変わる組織を作って一括して行う必要があって、残念ながら入院交渉というのは個々の医師ではできない。

そのような新たな組織を医師会の中に作ってもいいかもしれない。 入院先がないならどうしようもないのが、保健所のところで流れが止まってしまっているなら、代行業務を行う組織が絶対必要だ。正式な入院先が決まるまでの一時的な収容施設を作るということも考えられる。それは病院であることが望ましいが、最低限医師がいてくれるなら人工呼吸器装置がなくてもいい。そこは本格的な入院交渉を専門的に行うためだけの駆け込み寺にすぎないが、具合の悪い人が家で我慢しているよりはずっといいのではないだろうか。プレハブの野戦病院のような設定が考えられるが、ホテルを臨時の病院にしてもいい。これらはまったく理想的なものではないが、非常事態ならばそういう対応さえ考慮せざるを得ないのではないだろうか。

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