[427]パクスなき世界は「夜明け前か」

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管理人より

「〔415〕パクスなき世界」のつづきです。


「パクスなき世界」 <夜明け前 1>


日経新聞は転機にある世界を「パクスなき世界」(平和と秩序の女神なき世界)と表現し、「夜明け前」というサブタイトルで5回にわたって記事を連載しました。
はたして2021年2月の世界の現状を「夜明け前」ということができるのかどうか、私も考えていきたいと思います。


「民主主義と資本主義という価値の両輪は深く傷ついた」(日経新聞

1月6日のトランプ支持者による米連邦議会議事堂占拠事件の翌7日、欧州連合EU)トゥクス前大統領が「トランプはどこにでもいる」と世界に警鐘を鳴らした、と日経新聞は報じています。
確かにあの事件は単に一部の右翼の反乱としてかたづけるわけにはいかない深刻な問題をはらんでいると思います。のちにトランプは自分が扇動したのではないと言い訳していますが、「選挙が盗まれた」というトランプのアジテーションに呼応した共和党支持者によってひきおこされたものでした。トゥクス前大統領は反「民主主義」の行動が大きな力をもちはじめたことに危機感をあらわにしたのです。

資本制的生産がおこなわれる世界の多くの国の支配者階級は議会制民主主義的統治形態をもって国家を統治しています。数百年前ブルジョア資本家階級は封建君主の支配下にあっては圧迫された身分でしたが、「大工業と世界市場とが建設されて以来、ブルジョア階級は近代的代議制国家において、ひとり占めの政治支配を闘いとった。近代的国家権力は、単に、全ブルジョア階級の共通の事務をつかさどる委員会にすぎない」とマルクスは言いました。(1848年マルクス共産党宣言岩波文庫41頁)たとえば太平洋戦争は国家権力の本質を浮き彫りにしました。
トランプとその支持者の行動はこの議会制民主主義を破壊し、強い大統領権限を活用しながら「アメリカファースト」のイデオロギーでさらに強権的で軍事的な支配体制をつくりだし全体主義的な統治形態を模索しはじめているという意味をもっているのではないでしょうか。(この事件については当ブログ「〔338〕トランプの反乱」、「〔363〕トランプからバイデンへ、危機は去らず」を参照してください。)

トランプは大統領をやめる前に、イラクイラク人殺害に関与した米民間軍事会社の4人を恩赦しました。国家による戦争行為を議会で承認しもって国民を戦争に動員することは戦慄すべきことですが、トランプはこの恩赦で民間会社による金儲けのための殺人行為を大統領として認めたということです。これは既成の民主主義の羈絆からはずれているので国連の専門家グループは「正義への冒とくだ」と非難しています。

ドイツでも

さらに昨年8月ドイツでは政府のコロナ対策の行動規制に反対する4万人のデモに便乗して極右勢力「ドイツのための選択肢(AfD)」支持者たち400名が議事堂正面の外階段付近でドイツ帝国時代の黒、白、赤の3色の旗を翻し気勢を上げました。この3色旗はドイツ帝国時代の国旗で、法律で禁止されたナチスハーケンクロイツかぎ十字)に代わって極右勢力に使われることが多い、いわば反「民主主義」の象徴だといわれています。

これから政府のコロナ感染症対策によって企業の倒産、失業がさらに増加するという事態が進行すれば、労働者階級の解雇反対をはじめとした生活を守る要求を掲げた運動がおこるでしょう。それに乗っかって8月事件のような動きもあらわれてくる可能性があるのです。

オランダでも

オランダでコロナ対策で夜間外出禁止に反対するデモが起こりました。また、自由の侵害だと抗議するグループが、外出禁止令の見直しを求めて裁判所に訴えました。

この事態を朝日新聞デジタルは2月18日に次のように伝えました。

 「新型コロナウイルス対策としてオランダ政府が1月に導入した夜間外出禁止令について、同国の裁判所は16日、ただちに解除するよう政府に命じた。同国では規制に抗議する大規模なデモが相次ぎ、数百人の逮捕者が出る事態になっていた。市民の自由を罰則付きで制限する措置が欧州各国で導入されるなか、司法当局が外出禁止令の解除を命じるのは異例だ。
 問題となったのは、1月23日に導入された措置。変異ウイルスへの警戒感が高まるなかで、午後9時から翌朝4時30分までの外出が原則禁止とされ、違反者には95ユーロ(約1万2千円)の罰金が科された。
 報道によると、同国で外出禁止令が出されたのは第2次世界大戦以降で初めて。飲食店の店内営業の禁止などに加え、罰金を伴う夜間外出禁止令が出されたことに市民が反発し、各地で抗議デモが発生。警察が催涙ガスを発射するなど市民との衝突も起き、地元警察は『過去40年間で最悪の情勢不安』としていた。」 

 日本では

 日経「パクスなき世界」は日本の状況は報じていませんが、1月7日に首都圏と6府県に緊急事態宣言がだされ、2月はじめに改訂コロナ特措法が国会で成立し緊急事態宣言下でなくても飲食店の時短を自治体当局が命令できること、違反には行政罰(過料20万円以下)を課すことが可能になっています。(蔓延防止等重点措置法)

 日本ではオランダのようなデモは起きていません。現憲法に抵触するような強制措置がとれるようになりました。蔓延防止等重点措置法は最大野党立憲民主党の賛成も得たうえで国会を通過したのです。

 私は、野党の翼賛政党化を危惧しています。日本ではすでに2014年の集団的自衛権の行使を容認した閣議決定以降、国家の安保・軍事政策にかんしては日本版国家安全保障会議NSC)専決体制が確立し、議会制民主主義は形骸化しています。反対運動の体制内化に支えられ日本型の新しいファシズム的統治形態が完成しているのではないでしょうか。

 パクスを失った世界は脱出不能な経済的危機に沈んでいます。新型コロナ危機以前から危機のなかにあった世界の資本主義は、米・中の相互依存と相互反発を軸として、揺動してきました。2016年のアメリカトランプの登場はアメリカ労働者階級民衆の貧困化を物質的基礎としたアメリカの危機を象徴しています。労働組合員の多くがトランプを支持したのです。そしてそれはグローバリズムの破綻を鮮明にしました。

「パクスなき世界」の危機の犠牲を労働者階級に転嫁する政府・資本家

新型コロナにたいする各国政府の対応は、企業危機と失業を促迫しています。危機の犠牲は労働者階級に転嫁されているのです。

直接的にはコロナ危機の根拠は各国政府の医療政策にあります。日本でも公的病院の合理化・統廃合が進み、政府の医療費削減政策は医療体制を破壊しました。感染症対策は罹患の疑いのあるひともふくめ検診、治療できる医療施設を確保することに尽きると思います。現医療体制のもとでは感染を広げないことは必要です。しかし政府は自粛せよ、命令違反には罰金を科すといって行動規制をかけるのみです。医療体制の確立は後手後手であり、もうからない病院は今後もつくらないでしょう。

 私たちは政府に医療体制の確立をあくまでも要求していかなければなりません。

日経新聞は、いまをパクスなき世界の「夜明け前」といいますが、私はそうは思えないのです。私たちの闘い如何だと思います。