[482]ミャンマーに経済進出する中国、クーデターを黙認

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「〔478〕ミャンマー緊迫」のつづきです。
 ミャンマーでは軍政にたいする不服従の運動が継続されています。しかし軍の弾圧はエスカレートしています。武力弾圧で4月8日までに598人が殺害されました。また、7日軍はクーデター政権に抵抗するチョーズアミン駐英大使を大使館から暴力的に閉め出しました。そしてSNSを通じてクーデターに抗議する俳優・歌手などの著名人100名以上を指名手配しています。
 アメリカ、中国をはじめ各国はそれぞれの思惑をもってこの事態に対応していますが、ミャンマーとの経済的関係を強めている中国の動きに注意しなければなりません。
社会主義国」を自称する中国は、ミャンマーのクーデターにたいして「静観」し、国軍が軍政反対の非武装のデモに発砲し労働者学生市民を虐殺していることにたいして「内政不干渉」を名目として事実上擁護してさえいるのです。

 今年1月、中国王毅外相がアウンサンスー・チー、国軍フライン司令官と会談、協力関係確認

 2月1日のクーデターの約3週間前、中国の王毅外相はミャンマーを訪問していました。王外相は、1月11日にミャンマーのウィン・ミン大統領、アウン・サン・スー・チー国家顧問と会談し、その翌日には、ミン・アウン・フライン国軍司令官と会談しました。
 1月11日の会談で王外相はミャンマーに30万回分新型コロナウイルスワクチンを無償供与すると発表しました。 そして12日、中国外務省は「中国はミャンマーの必要に応じて感染対策物資を引き続き提供する。一部のワクチンを無償供与し、ワクチン分野の協力に関する協議を継続する」との声明を発表しました。
 スー・チー、ウィン・ミン大統領との会談では、中国が「一帯一路」の一環に位置付ける「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」の推進を確認しており、またそれに先だつ前日の10日、両国は、鉄道計画の事業化調査推進の覚書を交わしています。ミャンマー第2の都市マンダレーと、ラカイン州チャオピューを結ぶ鉄道です。チャオピューには中国が主導して深海港や経済特区(SEZ)を建設する予定です。
 
治安での協力も確認
 ミャンマーの国営紙によると、1月の会談で両国は中国国境地帯での治安問題で協力するほか、国連での対応を含む連携も確認したと報じられました。 
 ミャンマーイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題で国際社会の批判を浴びています。昨年末を含む例年の国連総会で中国は、ロヒンギャの人権問題に関する決議に反対票を投じ、ミャンマー政府を擁護しているのです。中国外務省によると、ミャンマーのウィン・ミン大統領は「中国人の台湾やチベット新疆ウイグル自治区をめぐる問題について中国の立場を引き続き支持する」と話したといいます。
 
  王毅氏は1月12日にミン・アウン・フライン国軍総司令官とも会談
 
 王毅外相はミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官との会談で「中国・ミャンマー経済回廊」に対する軍の支援を求めました。(ロイター通信)
経済回廊には、輸送などのインフラ事業が盛り込まれているが、対象地域には、少数民族同士の対立や少数民族と政府軍の対立が起きている地区が含まれるからです。ミャンマー北東部の戦闘で避難民が中国に流入するケースも出てきています。
 
中国はワクチン外交を手段としながらミャンマーとの政治的経済的軍事的関係を良好に保ち「一帯一路」という戦略的構想の推進をはかってきているのです。

 しかし、2月1日国軍によるクーデターが勃発しました。
 
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語版)は1日、「ミャンマーの現政権と軍の両者と関係が良好な中国は、両者が妥協案を協議するよう願っている」という専門家の見方を紹介し、共産党の姿勢を示しました。
 
王毅外相は1月12日のフライン司令官との会談で、クーデタ―行動の感触を得ていたのは間違いないと私は思います。中国政府はどうすれば中国が得するのか事態の推移を見ることにしたと推測できます。
 ミャンマーの労働者農民学生たちは軍の弾圧に屈することなくたたかいを続けています。私はこの闘いを支持し支援する立場にたって、今やミャンマーを自国の利益を実現するための手段として利用する中国政府に抗議していかなければならないと思います。
現代中国とは何か、どのように変わってきたのか次回考えたいと思います。
 巷間、中国を「ネオ・スターリン主義」(スターリン主義の新しい形態)と呼んでいる向きもあるようですが、現代中国をスターリン主義の直接的延長線上で規定することはできません。スターリン主義とはマルクスレーニンの思い描いた社会主義のゆがめられた形態です。スターリン以降のソ連邦は一国社会主義建設可能論にもとづいてソ連型「社会主義」を地理的に拡大していくという路線をとっていました。いまの中国共産党は一国社会主義とはいえません。一帯一路戦略は経済的には中国資本をアジア・中東・アフリカ、欧州にまで広げていくことがめざされているのです。
 それは1920年代のソ連のNEP(新経済政策)のようなものとは異なります。当時のソ連社会主義への過渡期国家建設のために内戦で疲弊したソ連経済を立て直すことを目的として限定的に市場経済を導入したのです。中国は転向したスターリン主義党官僚にレギュレイトされた国家資本主義の発展を自己目的化しているのです。
つづく