[502]東京女子医大医師100人が退職

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 4月20日の『東洋経済オンライン』は、ジャーナリストの岩澤倫彦氏のスクープを掲載しました。東京女子医大で3月までに100人を超える医師が退職したと報道しました。「スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職  一方的な経営陣の方針に抗議の意思表示か」という記事によると、実質上の賃金引き下げが退職の最大の理由のようです。

 『東洋経済オンライン』の岩澤氏の調べによれば、医師の基本給は「30歳の場合、東京女子医大25.9万円、東京医大31.1万円、日赤医療センター41.1万円、がん研有明病院49.7万円。(東京医労連調査部「賃金・労働条件実態 2020年度版」より) 病院によって資格手当などが加算されているので、あくまで参考値だが、東京女子医大の給与が低いことに変わりはない。」とのことです。

 東京女子医大の30歳の医師の基本給は25.9万円で、医師の平均的賃金から見ると低賃金です。そこで週に1日の「研究日」に「外勤」することが大学当局から認められていたそうです。この外勤によるアルバイト収入で生活費を補てんしていたところが、今年2月、この研究日が廃止されたのです。

この事態をスクープした岩澤倫彦氏(:ジャーナリスト)の『東洋経済』の記事を引用します。

東京女子医大の経営統括部が、教授ら管理職に対して配布した学外秘の資料を筆者は入手した。そこに記されたポイントを要約すると、次のようになる。

・「研究日」に医師の「外勤」をあてる慣例があったが、国が推進する「医師の働き方改革」に合わせて、今年3月末で廃止する

東京女子医大に勤務する医師は「週39時間」の労働義務を負う

・「外勤」を継続する医師には「週32時間」勤務の選択肢を用意するが、給与は相応の水準とする


 研究日の廃止によって、医師には2つの選択肢が与えられた。
 まず、「週39時間」勤務を選ぶと、外勤をしていた1日分を東京女子医大で働き、現在と同じ額の本給が支給される。ただし、外勤で得ていた1カ月あたり32万~40万円分がなくなるので、そのまま減収になる計算だ(あくまでも概算。医師の経験や技量によって、外勤先からの収入はさまざま)。

 一方、週1回の外勤を継続すると、これまでどおり1カ月あたり32万~40万円の収入は確保できる計算だが、毎週1日分は本給から引かれてしまう。

いずれにせよ、どちらを選んでも、現在より収入が大幅に減ることは間違いない。

研究日の廃止は、働き方改革に名を借りた、人件費のコスト削減が真の目的なのではないか?」引用以上

 これまでの週32時間労働が39時間に延長されました。基本給25.9万円が39時間労働になっても変わらず実質上の賃下げになったのです。希望する人は週一回のアルバイトはできるのですが、「給与は相応の水準とする」と決められました。どのように減額されるか定かではありませんが、ここで「週32時間勤務」を選択すると週7時間分の賃金がカットされるとして大体の試算をしてみます。
 月約21.3万円となり約46000円のカットです。一人当たり月46000円の賃金カットは病院経営者にとって大きな人件費コストの削減になります。ここで医師の60%が「週32時間勤務」を選択すると仮定して削減額を概算してみます。東京女子医大3つの大学病院の医師数は合計すると1322人です。退職した医師が100人として、単純計算で一年1222×46000×12×0.6≒約4億円のコスト削減となるのです。

 では「週39時間勤務」を選択した場合にはどうなるのでしょうか。基本給は25.9万円で変わりませんが、労働時間が7時間増えますから約21%実質的な賃下げになるのです。角度を変えていえば、「39時間勤務」を選択した医師労働者は従前と同じ賃金で21%多くの労働を義務づけられるということなのです。同大学は昨年も看護師のボーナスゼロ回答で問題になりました。厳しい賃金抑制を行っています。今度は医師の賃金カットで100人超を退職に追い込み、賃金源資を削減しただけではなく、残った医師に100人分の仕事をカバーすることを強いているのです。

 岩澤氏は研究日の廃止は、働き方改革に名を借りた、人件費のコスト削減が真の目的なのではないか?といっていますが、そのとおりだと思います。それと同時に「東京女子医大に勤務する医師は『週39時間』の労働義務を負う」とされたわけですから、通常の労働時間を7時間延長し、その時間に減員した医師の仕事を引き受けさせることができるようにしたというわけです。

東洋経済から一部引用します。

「東京・新宿区に位置する東京女子医科大学病院。「本院」と呼ばれ、国内最大規模の1193床、医師数は831人と公表されている。この本院に勤務していた内科の医師、約170人のうち50人以上が、今年3月末までに退職した。

内科の3割以上が去ったことで、残された医師は当直業務が一気に増えたという。当直後、そのまま翌朝からの診療を担当するので体力的な負担は大きい。これが長期化すると、通常診療にも影響がでてくる可能性が懸念される。このほか、外科の医師も10人以上が辞めている。

東京・荒川区にある、東京女子医大の東医療センターは450床。医師数258 人の2割にあたる、約50人の医師が退職した。

東医療センターは、足立区に新しい病院が建設され、今年度中に移転する予定だが、働く医師が足りなくなる事態も懸念される。

 千葉・八千代市にある八千代医療センターは、501床で医師数233人。救命救急センターなど、地域の重要な拠点病院だが、ここでも相当数の医師が退職していた。(3病院の病床数と医師数は公式HPから引用)

 東京女子医大3つの附属病院を合わせると、実に100人以上の医師が減った計算になる。今年度に採用した医師は、この数に到底及ばないという。」

東京女子医大経営者の反論
 
 『東洋経済オンライン』のスクープ記事はインターネット検索すれば見られます。この報道にたいして東京女子医大は2021年04月20日づけで反論をプレスリリースしました。


【患者及び本学関係者の方々へ】東洋経済オンラインによる本学に対する偏向報道について

              令和3年4月20日

患者及び本学関係者の方々へ


東洋経済オンラインによる本学に対する偏向報道について


東洋経済オンラインの報道において今年3月末に医師が大量退職し、本学の附属病院の運営に支障が出ているかのような報道がなされました。事実と全く異なる偏った内容の報道であり極めて遺憾であります。

3月の退職者数は、ほぼ例年通りの退職者数であり、特に診療に支障をきたすような事態が発生したという事実はございません。一般診療は通常通りおこなわれ、また、新型コロナウイルス感染症に対する診療も十分に対応できております。

関係者すべての方々におかれましては、偏った報道に惑わされることなく、どうかご心配のないようお願いいたします。


以 上


 26日のスポニチアネックスによると、同大総務部広報室は「事実と異なる偏った報道内容で誠に遺憾です」と報道内容を否定し、医師不足などが発生しているかどうかについて「不足はしておりません。診療には特に支障を来しておりません」と答えたと報じられています。

 『東洋経済』の岩澤氏の記事では、医師の一斉退職に関して、東京女子医大の広報室に質問状を送ったところ、「回答できない」という返事だったとのことです。

 東洋経済の記事は複数の関係者のインタビューによる諸事実が紹介されており、東京女子医大労働組合の顧問弁護士の大竹寿幸氏は賃下げは「不利益変更」と指摘しています。
 けれども医師労働者の賃下げに反対する運動が、労組からも医師個人からもつくられていないために100人退職問題はうやむやにされかねません。
 
大学経営者はまったく反省の色なし

東洋経済』にたいする先の大学経営者側の反論は「今年3月末に医師が大量退職し、本学の附属病院の運営に支障が出ているかのような報道がなされました。事実と全く異なる偏った内容の報道であり極めて遺憾であります。」というものです。
 運営に支障は出ていないにもかかわらず、支障が出ているかのようにいう報道は偏っている、というのです。
 しかし、実態は、経営者が医師労働者に長時間労働を強いて運営に支障が出ることをおさえこんでいるだけなのではないでしょうか。コロナ危機のなかで病院の医療スタッフが医師の人数を減らされ、長時間労働と労働強化に耐えて働いているから病院は何とか運営されているのです。東京女子医大労働組合のホームページに投稿している医療スタッフの現場の声をみると、経営者の賃金抑制の施策に怒りのマグマが沸騰しています。新型コロナ危機が深まるなかで、これからも運営に支障がでない保障はないのです。
 東京女子医大の労働者は、賃金削減・長時間労働・労働強化反対、「研究日」廃止反対、働くひとを犠牲にした設備投資反対を掲げて団結してがんばってほしいと思います。

日本労働運動の再生強化を願い闘う組合員より