[515]国民投票法は憲法改悪の一里塚 その2

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ヒットラーはワイマール憲法の国家緊急権を使った

 自民党改憲案のなかには戦争放棄をうたった憲法9条の改悪とならんで緊急事態条項の創設が盛りこまれています。条文の一部を〔513〕で紹介しましたが、戦争や内乱、災害などの国家緊急時に内閣に法律と同等の政令を決定し施行するという強権を与えるという条項です。

 ヒットラーはワイマール憲法の国家緊急権を使って、共産党の議員を逮捕拘禁し、国会で全権委任法を成立させてあの独裁体制をつくっていったのです。緊急事態権を日本の憲法に明文化するのは行政権力の独裁に道を開くことに法的根拠を与えることになるのです。

 ワイマール憲法第一次大戦後にドイツ革命を阻止した社会民主党が中心になって1919年につくられたドイツ共和国の憲法です。主権在民普通選挙がうたわれており、資本主義国家の民主主義的憲法ですが、第48条に国家緊急権(大統領緊急措置令)が入れられていました。

 1930年代のドイツは戦後賠償の重圧と世界大恐慌の影響で経済危機におちいり解雇され失業した労働者は600万人になったといわれています。インフレが進行し労働者の生活は貧窮し社会不安が広がっていました。賃上げのストライキが頻発し共産党の影響も強くなり困り果てていた資本家階級は、ドイツ共産党の破壊と再軍備をめざしたのです。ドイツ資本家階級はヒトラーのナチ党をして、資本主義国家の統治形態を民主主義的議会制からファシズム的統治形態に転換せしめていったのです。1933年2月ヒトラーは国家緊急権の発動を切り口にして一ヶ月のうちにナチ党独裁体制をつくったのです。「ワイマール民主主義」の中から第48条国家緊急権の発動を通路としてファシズム独裁政権は生まれたのです。国家緊急権の発動は憲法に則ってなされたのです。

コロナ危機を奇貨として憲法改悪に進む政府

 政府の愚策によって感染症は広がっています。緊急事態宣言、まん延防止措置によって休業した中小経営者は給付金すら遅配となり、先行きが見えなくなっています。解雇された労働者は生活苦に追いやられ、「特例貸し付け」の申し込みが急増しています。朝日新聞によれば、貸付額は8429.5億円、申請件数は209.4万件(4月17日)になるといわれ、コロナによって貧困が広がっていることが浮き彫りになっています。それも9カ月で打ち切られます。

 菅首相憲法記念日の3日、改憲派の集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せ、新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、大災害などの時に内閣が国民の権利を一時的に制限する「緊急事態条項」は、「極めて重く大切な課題」と語りました。その上で、同条項や、憲法9条改憲を含む自民党改憲4項目」の実現をめざす考えを示しました。菅政権は戦争の反省の上につくられた憲法9条をはじめとした現憲法を葬り去るつもりです。
 維新の会松井代表は改憲のお先棒を担いでいます。4月30日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大のなかで、「政治の責任としては、タブー視することなく、私権制限についても議論すべきだ」と述べました。緊急事態宣言が出されても人出の抑制につながっていないと語り、「有事に際し、どういう形で人の動きを抑制できるのか、私権制限も含めて 議論すべきだ」と言いはじめています。

 いまコロナ危機のなかで、政府が憲法に緊急事態条項をつくるべきだということをより強くいいはじめたのは、現在の法的規範の枠内ではどうしていいかわからなくなっていることを物語っているのではないでしょうか。経済的にも政治的にも揺れている日本政府・支配者階級は、感染症の広がりを奇貨として国家の民主主義的統治の限界をファシズム的統治形態の強化確立の方向にむかって「突破」するつもりです。

 しかし、新型コロナ問題は直接的には医療問題なのです。罹った患者が入院し治療できるキャパシティーをもった体制があれば悲惨な犠牲をださずにすみ、緊急事態宣言による休業や倒産や人員削減などによって失業者が出る条件をつくらないことはできるのです。しかし新たな感染症に対応できる医療体制がなく、現政権はこの問題を解決することができないということが明らかになっているのです。
 それはなぜかと私たちは考えなければならないと思います。政策的な工夫で改善することはもちろん重要です。しかしそういう体制を常時確保することは本質的に資本主義社会では不可能なのではないでしょうか。病院など医療機関の医療活動は経営的観点に規定されます。利潤の出ない病院というのは資本主義では存続できません。

 ではどういう方向に進むべきか、いま私たちは怒りをばねとして、この社会を変革するために、知恵と団結力をつくっていかなければならないと思います。

 マルクスが分析し解明した資本主義の本質的矛盾とその否定の上に提起した新たな社会の建設がいま「再び」課題としてうかびあがっています。「資本主義の終焉」や『資本論』を扱った本がよく売れているのです。読み考えなければならないと思います。自己崩壊したソ連社会主義や資本主義へと転向した中国型社会主義をのりこえる科学的=哲学的な思想的営為を深めていくことを通して「社会的総労働の比例的配分」の原則が実現される社会を志す時代がきたと、私も思います。

 しかし現実は険しいです。コロナ危機のなかで反対運動、その軸となるべき労働運動が改憲のための国民投票法に真正面から反対する運動をつくれないのです。国会では「与野党合意」までやられました。

国民投票法

 国民投票法立憲民主党が条件付きで賛成したために今国会で成立する可能性が濃厚です。私は投票のCM規制は妥協してはいけないと思います。改憲派はいくらでも資金をつぎ込んで改憲をキャンペーンするでしょう。「洗脳」するに等しいことをやってくるでしょう。だから野党は選挙協力を最優先するまでして国民投票法に賛成するのはやめるべきです。

 NHKによれば、自民党細田衆院憲法調査会長は「時間がかかったのは遺憾だが一歩前進」と評価し、立憲民主党の山花調査会長は「与野党で主張に隔たりが続いてきた中で、最後にお互いギリギリのところで着地点を見いだせたことは1つの成果だ。法案にはCM規制などの課題があり、投票の公正さに疑義が生じる可能性もあると考えており、今後は、この議論に最優先で取り組むべきだ」と記者団に述べたそうです。

 政府の憲法改悪のもくろみが一歩進んでしまいました。立民党は次期衆院選選挙協力のこともあるのでしょうが、改憲問題で妥協してしまってはまずいのではないでしょうか。

  政府の責任が大きい・コロナ危機を利用して改憲の環境づくりが進められています。

何とかしなければならないと思います。