[554](寄稿)アストラゼネカのワクチン

ペンギンドクターより
その3

皆様
 ワクチンについて、いろいろ述べていますが、まったくの門外漢である一般の方には、わかりにくいかもしれません。どうしても詳しい経緯は省略しますので。思いつくままに断片的に補足したいと思います。

 日本ワクチン学会が危機感をもってアストラゼネカのワクチンの認可したけれども推奨しないという日本のやり方を批判したのはなぜか、私の考えを述べたいと思います。推測を交えていることをお断りします。

 ワクチン開発・製造・販売というのは、通常の医薬品の場合とはまったく異なるということをまず確認しなければなりません。通常の医薬品は、ある疾患を病む人がいて、それに対する治療薬です。ところが、ワクチンというのは病人が対象ではありません。現時点では健康ないしその疾患にかかっていないが、将来その疾患にかかるのを予防するないし予防できなくとも重症化するのを防ぐというのが目的の薬剤です。したがって、製薬会社としては「健康人」に投与するので対象者は膨大だけれども、その効能効果の決定には、政治的なもの、すなわち権威ある組織の保証が必要になります。それは誰か? 政府・厚労省ないし公的な機関です。

 子宮頸がんワクチン(HPV)の場合、厚労省はワクチンを認可している(要するに医師と対象者の合意で接種はできる)けれども推奨しないということになっています。わかりやすく言えば、厚労省は責任を取らない、医師と対象者の自己責任であると言っているに等しい。そして、当時は「時機が来れば、見直す」というような方針だったのに、厚労省の担当者が交代すれば、役人の本質である「火中の栗は拾わず」という方針で、次の担当者に先送りとなっていくわけです。

 こうなった場合、当然子宮頸がんワクチンの製造会社は、大損害ですから、そんなワクチンは作らなくなる。売れない商品を誰が作りますか!! 

 今回のアストラゼネカのワクチンも、日本は認可したけれど実際は使わない国であるとなれば、製薬会社も世界の国も日本に対して「異常な国」と考えるに決まっている。確かに若年者に血栓症という重大な副反応(致死的でもあり、詳細はいずれ述べます)があるけれども、実は在宅医療には非常に使いやすいワクチンなのです。つまり通常の冷蔵庫で保管が出来て、在宅医療に持参できるし、高齢者が殆んどなので、副反応の恐れはゼロに等しい。私がパート医をしているクリニックは、在宅医療が中心で、新型コロナワクチンの接種は、「できればアストラゼネカのワクチンを在宅医療の患者さんに使いたい」と考えているが、現状では難しいところがあると言っています。

 クリニックの院長は、医師会の要請でファイザーを週3回、1日6人接種引き受けましたし、月に1-2回、集団接種会場でのモデルナの接種を担当しているが、本音は在宅の患者さんに優先して、アストラゼネカを自由に使いたかったと言っています。私も同感です。

 以上、今回のアストラゼネカ排除の政府方針は、科学的根拠に基づかず、大金を出してようやく調達したワクチンを無駄にしたということになります。廃棄するよりも使えるのなら、「台湾にあげよう」ということでしょうが、何だか私が台湾人なら複雑な気持ちになると思います。

 いずれにしろ、日本のワクチン製造の未来は暗い。ワクチン学会の危機感は当然です。ワクチン学会はまともな学会だと思います。本来なら不十分なPCR検査の現状をいかに打開するか、ともに協力してPCR検査を増やそうと提言すべきだった、御用学者の集団の日本感染症学会とは大きな違いです。

 さて、もうひとつ、世界でワクチン接種が始まってから、日本はずい分遅れたわけですが、逆に副反応などの実態はある程度わかっていたわけですから、日本人に特有の副反応があるかもしれないと考えて、それなりの試験的に接種する時間は必要だったとしても、「接種の体制」を作ることはできたはずです。つまり、様々なやり方をシミュレーションする時間があったはずです。つまり、副反応は多いけれども、致死的なアナフィラキシーは極めて稀であることはわかっています。もちろん、稀なアナフィラキシーが目の前で起こることはありうるわけですが、インフルエンザワクチンも同じことです。そのアナフィラクシーには対応は決まっています。

 問題は、重篤な副反応が起こった時には、すべて国が責任を持って補償すると、菅総理が全国民にわたって宣言すればいいことです。特に老人の方は、ご近所のかかりつけのお医者さんに注射してもらいましょう。稀に重篤な副反応が起こりますが、お医者さんの責任ではありません。すべて私が責任をもちます。そして「有観客」万一それがだめでも最低限「無観客」のオリンピックを是非国民の皆様とともに成功に導きたいと思います。・・・・・・。

 こんな感じでしょうか。

 以下のお馴染みの和田先生の提言は現場の悩みを述べられて相変らず説得力があります。
では。


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診療所のコロナワクチン接種、ある程度の廃棄を認めないと継続は難しい


わだ内科クリニック

和田眞紀夫


2021年6月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp

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1.予約キャンセルの対応が困難を極める

集団接種会場でのワクチン接種が始まってからダブルブッキングが可能となったため、結果的に診療所での予約キャンセルが一定の割合で発生している。これが接種人数の多い集団接種会場であれば難なく吸収されていくのだが、1日の接種回数が少ない診療所では1バイアルで接種しきる6人をそろえなければならず至難の業だ。すでに2か月後ぐらいまで埋まっているスケジュール表を見ると軒並み歯抜け状態になっていく。そこをどうやって埋めていくかが問題で、キャンセル待ちリストを作成してはいるものの、最近リストに載せたばかりの比較的若い人が2か月後の予約待ちをしている高齢者を飛び越えて打つことになったりする。かといって2か月に渡って高齢者の予約がずらっと入っているのだから、全員に連絡をして1日ずつずらすことなどは到底できない。また、予約状況を見ると後の方に行くにしたがって予約希望者がまばらになっていき、キャンセルがなくても6人集めるのが難しくなっていく。誰でも希望した時にすぐに接種できたらどんなに楽な事か。そもそも「貴重なワクチンを廃棄してはいけない」というルールさえなければもう少し柔軟な対応が取れるだろう。

2.ワクチン接種が急速に拡大しているために1ml容量のシリンジが不足している

報道によると、ワクチン接種が急速に拡大しているために1ml容量のシリンジが不足していて2ml容量のシリンジが配給され始めているらしい。2ml容量のシリンジで0.3mlのワクチンを注入するのでは正確な摂取量が計れない可能性が高いし、できないとは言えないが相当時間のかかる厄介な作業になる。本来1バイアル5人分の接種液を6人に接種できるようにデッドスペースのないシリンジの供給を受けて使っているのだが、廃棄の基準を緩めれば、通常の注射針と通常の1mlシリンジを使って正確に接種を行うことができる。


隣国の台湾でワクチン需要が高まって、相互扶助の精神から日本からアストラゼネカ製のワクチンを供与するというニュースが飛び込んできたが、関係閣僚の談話では日本ではすでに十分量のコロナワクチンが確保されているという説明がなされていた。それが真実であるならば、厳格な廃棄基準を緩めて事情に合わせた最小限の接種液廃棄処分を認め、1バイアルからの接種人数や接種用の使用機材の基準を緩めるべきである。


3.ワクチン廃棄量を少なくするための練馬区の取り組み、「リザーブワン」


このような状況の中で、練馬区では現在の基準を遵守する範囲の内で少しでも廃液量を減らして接種予定を組みやすくするような工夫をしている。実はデッドスペースのないシリンジを使うと1バイアルから6人分どころか7人分近くの接種液をとることができて、現状ではその1人分に近い接種液を廃棄処分しているのだ。ところで1日に2バイアル使うならその残余分を足すと十分1人分になるのである。そのことはすでに議論に上がってはいたのだが、衛生上の観点から2バイアルから接種液を集めて使ってはいけないという見解が示されていた。

しかし、1バイアルから6人分の接種液を引く場合は6回針を刺しているわけで、同じ針を2回刺すことが問題視されたことになる。このリスクを許容範囲と考えるなら、あらかじめ2バイアルに対して13人分の予約を取って置き、1人のキャンセルが出たときには接種者を追加せずに残余分を破棄するというものである。その場合でも12人には接種ができるわけで、現行の廃棄量と変わらないというわけだ。「2バイアル枠で、1名のリザーバーを設ける」という意味で、「リザーブワン」と名付けられた。この「リザーブワン」がメディアで報道されるなり、厚労省、さらにはファイザー社から医師会に対して問い合わせがあり、医師会の見解を伝えたうえで最終的には自治体の判断で実施するということで決着をみた。

このような涙ぐましい取り組みも、ワクチン配給量が潤沢ではなかったことのしわ寄せによるものなのだが、国がワクチン供給の目途が立ったというのであれば現状を放置せずに素早い対応をしていくべきだ。そもそもコロナワクチンだけが通常の医療問屋を経ずに自治体が直接医療機関に供給するシステムを敷いたために新たな運搬業者を頼まなければいけないことになり、この供給体制の困難さがワクチン接種を遅らせる原因にもなっている。ワクチン供給が安定してきたならば、厚労省の直接管理をやめてインフルエンザやほかのワクチンの供給体制と同じ通常ルートに速やかに戻すべきである。もはやコロナワクチンの接種優先順位は全く度外視されているのだから。

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