[566]中国は「社会主義」ではない

f:id:new-corona-kiki:20210701061903j:plain
中国共産党100年
その2

 当ブログ[482]でミャンマーに経済進出する中国について若干述べましたがここで改めて今の中国を考えてみます。

 中国共産党のトップ習近平は党が主導する中国を「中国の特色ある社会主義」と自己規定しています。はたして中国を社会主義と規定できるのでしょうか。現代中国は労働者階級と資本家階級の対立を基礎として存立する階級国家です。貧富の格差も広がる一方です。

 2021年1月18日に発表された昨年10-12月(第4四半期)の国内総生産(GDP)は前年同期比6.5%増とコロナ感染拡大前の水準を上回りました。しかし中国で昨年、所得上位20%の平均可処分所得が8万元(約128万円)を超え、下位20%の10.2倍となったことも示されました。経済協力開発機構OECD)によれば、この格差は米国では約8.4倍、ドイツやフランスといった西欧諸国では5倍に近く、中国はメキシコの10.4倍に迫るといわれています。(「ブルームバーグ」参照)

 あるいは反対運動の一部に中国を「ネオ・スターリン主義」(スターリン主義の新しい形態)と呼んでいる向きもあるようですが、現代中国をスターリン主義の直接的延長線上で規定することはできません。スターリン主義とはマルクスレーニンの思い描いた社会主義のゆがめられた形態です。スターリン以降のソ連邦は一国社会主義建設可能論にもとづいてソ連型「社会主義」を地理的に拡大していくという路線をとっていました。いまの中国共産党はかつてのようにスターリンの一国社会主義の枠内にあるとはいえません。中華ナショナリズムにもとづいて中国資本の国境を越えた拡大を、アメリカとの相互依存・相互反発の関係のなかで追求しているのです。「膨張主義」と現象論的に規定されてもいる一帯一路戦略は、経済的には中国資本をアジア・中東・アフリカ、欧州にまで広げていくことがめざされており政治的にも軍事的にも当該地域の国家との間に良好な関係をつくろうとしているのです。
 「中国ネオ・スターリン主義」という規定は、ネオ・スターリン主義という概念にかつてスターリン主義と規定された「中国」を投げこんで規定したつもりになっている思惟の怠慢の産物です。現実の中国の動向・態様を具体的に分析して国家規定を与えることなく、ネオ・スターリン主義という概念になんでも投げ込む思考法になっています。思考法がスターリン主義という概念を現実の中国に投影し実在化するものになっているのです。

 中国の資本主義化政策は1920年代のソ連のNEP(新経済政策)のようなものとは異なります。当時のソ連社会主義への過渡期国家建設のために内戦で疲弊したソ連経済を立て直すことを目的として限定的に市場経済を導入したのです。中国は転向したスターリン主義党官僚にレギュレイトされる国家資本主義の発展を自己目的化しているのです。

 鄧小平以前に「社会主義国家」建設の手段とされていた市場経済が、こんにちの中国を呑み込んでいるのです。1978年に鄧小平が改革開放政策を実施して以降も、1988年頃までは中国共産党には「労働者を搾取してはならない」「社会主義国に搾取があってはならない」という道徳的なタガのようなものがあったのです。それも今や昔・・・。

雇用者8人以上が私有企業――7人までは搾取がない?

 1988 年4 月の第7 期全国人民代表大会において憲法が修正され、憲法第11 条に「国家は私営経済が法律規定の範囲内で存在し発展することを承認する。私営経済は社会主義公有経済の補充である。国家は私営経済の合法的権益を保護し、私営経済に対し指導、監督と管理を行う」ことが明記されました。国家の基本政策として私営企業が承認されたのです。(「中国における私営企業の企業統治」参照)
 同年6月に中国国務院が公布した「中華人民共和国私有企業暫定条例」において「私有企業」を定義して認めたのです。
 そこで搾取は認められていないが社会主義公有経済の補充として私有企業を認めるとし、その正当化に四苦八苦しているのです。
 私有企業は「企業資産が私的所有に属し、被雇用者が8人以上の営利的な経済組織」と定義し、8人に満たない企業を「個体戸」と定義しました。なるべく7人以内にするようにということなのでしょうか?ともかく搾取があるか否かを雇用労働者の人数で示すという「努力」がなされたのです。この解釈を『資本論』第一巻第九章「剰余価値の率と剰余価値の量」で基礎づけたようですが興味のある方は読んでみてください。(「秋田大学紀要」他参照)
 困難な国内経済のゆきづまりを建て直すために「補充的に」私有企業を認めることを珍妙な理屈で正当化しています。それはこの時期の中国共産党が搾取のない国づくりを一応の「タガ的党是」としていたからこそなのだと思います。いまやその「タガ」すらなくなってしまいました。中国共産党は搾取のない社会をつくることは彼岸のものにしてしまっています。転向したスターリン主義者=共産党指導部が資本家階級の政治的代表となって労働者階級、農民を支配しているのです。

マルクス社会主義

 そもそも、社会主義社会とは共産主義社会の第一段階であって、そこではすでにプロレタリアート独裁国家さえもが死滅しているのです。社会主義社会には国家なるものは存在せず、貨幣も賃金も存在しないのです。社会主義社会においては労働の自然的尺度としての時間にもとづいて分配がおこなわれます。社会主義への過渡期におけるプロレタリアート独裁国家のもとでさえも、すでに労働力の商品化は基本的に廃絶され、擬制的な形態でのみわずかに「賃金」が残存している、というのがマルクス主義の基本的な把握なのです。

 現代中国はこのマルクス社会主義論とは全く無縁です。完全に資本主義化し巨大独占資本が中国経済を支えるにいたっているのです。「中国の特色ある社会主義」とは官僚専制国家資本主義のことです。