[570](寄稿)医療あれこれ━━アストラゼネカワクチン/医療費減

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ペンギンドクターより
その2

医療あれこれ(その59)

 今回はまずアストラゼネカ(AZ)ワクチンによる重篤血栓症の5例を紹介します。


●AZ製ワクチン、血小板減少症を伴う血栓症5例の共通点

NEJM(New England Journal of Medicine)
2021年6月3日号

            提供元:ケアネット

 新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)に対するアデノウイルスベクターワクチンChAdOx1nCoV-19(AstraZeneca製)(以下「アスト」と略す:ペンギンドクターの略号です)の接種により、まれではあるが重篤血栓症が発生する。ノルウェーオスロ大学病院のNina H.Schulz氏らは、「アスト」初回接種後7~10日に血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例について詳細な臨床経過を報告した。著者らは、このような症例を「vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT)」:ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症」と呼ぶことを提案している。

◍初回接種後、血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例の臨床経過

 ノルウェーでは、「アスト」の接種が中止された2021年3月20日の時点で、13万2686例が同ワクチンの初回接種を受け、2回目の接種は受けていなかった。「アスト」の初回接種後10日以内に、32~54歳の健康な医療従事者5例が特異な部位の血栓症と重度の血小板減少症を発症し、そのうち4例は脳内大出血を来し、3例が死亡した。

【症例1】

37歳女性。接種1週間後に頭痛を発症、翌日救急外来受診。発熱と頭痛の持続、重度の血小板減少が確認され、頭部CTで左横静脈洞およびS状静脈洞に血栓を認めた。低用量ダルテパリン(抗凝固剤ヘパリンのこと)の投与を開始、翌日に小脳出血と脳浮腫を認め、血小板輸血と減圧開頭術を行うも、術後2日目に死亡。

【症例2】

37歳女性。接種1週間後に頭痛発症、3日後の救急外来受診時には意識レベル低下。横静脈洞とS状静脈洞の静脈血栓症と、左半球の出血性梗塞を認めた。手術、ダルテパリン投与、血小板輸血、メチルプレドニゾロン免疫グロブリン静注が行われたが、2週間後に頭蓋内圧上昇および重度の出血性脳梗塞により死亡。

【症例3】

32歳男性。接種1週間後に背部痛を発症し救急外来を受診。喘息以外に既往なし。重度の血小板減少症と、胸腹部CTで左肝内門脈および左肝静脈の閉塞と、脾静脈、奇静脈および半奇静脈に血栓を認めた。免疫グロブリンプレドニゾロンで治療し、12日目に退院。

【症例4】

39歳女性。接種8日後に腹痛、頭痛で救急外来受診。軽度の血小板減少症、腹部エコー正常により帰宅するも、2日後に頭痛増強で再受診。頭部CTで深部および表在性大脳静脈に大量の血栓と、右小脳出血脳梗塞を確認。ダルテパリン、プレドニゾロン免疫グロブリンで治療し、10日後に退院(退院時、症状は消失)。

【症例5】

54歳女性。ホルモン補充療法中であり、高血圧の既往あり。接種1週間後、左半身片麻痺等の脳卒中症状で救急外来受診。造影静脈CTでは全体的な浮腫と血腫の増大を伴う脳静脈血栓症を認め、未分画ヘパリン投与後に血管内治療により再開通したが、右瞳孔散大が観察され、ただちに減圧的頭蓋骨半切除術を行うも、その2日後にコントロール不能の頭蓋内圧上昇がみられ死亡。


 いかがですか。ノルウェーは2021年3月20日に「アスト」接種中止としているようですが、その後のことを私は知りません。

 それとは別に以下のような報告もあります。上記のものとは真逆です。


アストラゼネカ社製のCOVID‐19ワクチンと血小板低下の関連

 発症率はインフルエンザワクチンなどと同程度

 国際医学短信2021年6月27日(日)配信。
(提供元M3)

 英アストラゼネカ社製のCOVID‐19ワクチン接種と、血小板低下の関連の実態が報告された。その発生頻度はごくまれであることが分かった。英エディンバラ大学アッシャー研究所のAziz Sheikh氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Medicine」に6月9日掲載された。


 血小板は、血管が損傷したときに出血を防ぐのに役立つ血液中の成分。血小板が少な過ぎると出血しやすくなる。また、特発性血小板減少性紫斑病という疾患では、血小板の減少に関連して血液が固まり、血栓・塞栓ができやすくなる。

 今回発表された研究では、スコットランドの人口の99%に当たる540万人の医療データが解析された。スコットランドでは2020年12月8日~2021年4月14日に、18歳以上の人口の57.5%に相当する253万人がCOVID‐19ワクチンの初回接種を受けていた。用いられたワクチンは、アストラゼネカ社製のChAdOx1(以下「アスト」と略す)が171万人、米ファイザー社製BNT162b2が82万人で、仏モデルナ社製mRNA-1273は1万人未満。

 検討の結果、「アスト」を接種後の特発性血小板減少性紫斑病の推定発症率は、100万回当たり約11例と計算された。この発症率は、B型肝炎やインフルエンザ、麻疹・ムンプス・風疹混合ワクチンで報告されている100万回あたり10~30例という報告と、ほぼ同等と考えられた。なお、特発性血小板減少性紫斑病のほかに、動脈血栓・塞栓や出血性イベントについても、わずかながら有意なリスク上昇が観察された。


 ワクチン接種後に血小板の減少やそれに関連する血栓・塞栓・出血性イベントを発症した人は、心疾患、糖尿病、慢性腎臓病などの基礎疾患を、少なくとも一つ以上有していたことも明らかになった。また、高齢者に多い傾向も認められた(年齢中央値が発症群69歳、非発症群54歳、P=0.01)。ただし研究者らは、COVID‐19に罹患した場合にも血栓や塞栓のイベントリスクが上昇し、「アスト」接種後のリスク増加はCOVID‐19罹患によるリスク増加よりも小さいことを指摘している。

    <5行省略>

 なお、米国では「アスト」は未承認であり、同国内で主として使われているファイザー社製ワクチンによる、特発性血小板減少性紫斑病や凝固・出血性イベントのリスク増大を示すデータは確認されなかった。その他のワクチン接種後の影響については、今回の研究では検討されていない。

 論文筆頭著者のヴィクトリア大学ウェリントン校(ニュージーランド)のColin Simpson氏は、「ワクチン接種の対象が、より若年で健康な人々に拡大されつつあるため、引き続きデータを蓄積して最新の解析結果を発表していきたい」と、研究継続の意向を示している。


 いかがですか。掲載学術誌は権威あるものと言えますので、どちらが正しいとも言えないでしょうが、内容から見ると、ノルウェーのデータは接種者数が少ないとはいえ、具体的で若年者で医療従事者ですから、初期の試験的な接種だったのかもしれません。ノルウェーのデータを信頼したくなります。つまり、若年者にはアストラゼネカ製は接種しない方がよさそうです。

 ワクチンから離れます。


●20年度医療費 1兆円減…厚労省見通し コロナ 受診控えか

 2021年6月26日(土)配信 読売新聞     M3より

 厚労省は25日、2020年度の保険診療にかかった医療費の総額が、19年度に比べ1兆円以上減り、約42兆円となるとの見通しを示した。新型コロナウイルス感染症による受診控えなどの影響とみられ、過去最大の下げ幅になる。

 国内の医療費は高齢化の進展や医療の高度化で上昇傾向が続いており、19年度は概算で43兆6000億円と過去最高を更新した。しかし、20年度は、21年2月分までで前年度から1兆6000億円の減少となった。3月分の医療費が増加した分を考慮しても、減少幅は1兆円を超える見込みだ。

 月別で見ると、全国に緊急事態宣言が発令された20年4月は、前年度比8.8%減、5月は11.9%減。その後は徐々に増加したが、2回目の宣言が東京などに出された今年1月は4.7%減、2月は4.4%減となった。特に小児科と耳鼻咽喉科で影響が大きかった。


●M3で医師にアンケートをとってみた結果を次に示します。コメントは私のものではなく、M3編集部のコメントです。

 医師全体でみると、コロナ前後で収入が「増えた」(20%以上)または「やや増えた」(1~19%)と回答した医師は合わせて14.8%でした。反対に、「減った」(20%以上)または「やや減った」(1~19%)と回答した医師は合わせて34.1%でした。

 診療科別にみると、(nはアンケート回答者数)

◍「減った」または「やや減った」

①眼科(n=36):55.6% ②小児科系(n=68):52.9% ③耳鼻咽喉科(n=38):52.7%

 感染リスクを懸念した受診控えや、感染対策の徹底によってインフルエンザをはじめとする他の呼吸器感染症への罹患数の減少などが理由として挙げられるでしょう。

◍「増えた」または「やや増えた」

①皮膚科系(n=27):25.9% ただし皮膚科でも「減った」と「やや減った」を合わせた33.3%いますから総体的には減少が圧倒的ですが。

 COVID‐19対策でマスクをする人が増えた影響で、ダウンタイムがとりやすいということで美容系の施術を受ける人が増えたということもあり、その収入アップを反映した結果かもしれません。


 いかがでしょうか。保険診療の医療費が減少したのは悪いことではありません。国立大学病院の大幅赤字という情報も最近報道されています。大学病院などの大病院では大幅に手術が減っているので、そのための赤字が急増しているのでしょうが、保険診療には社会保険料や税金が使われているわけですから、受診控えや手術減少で医療費が減り、それでも「平均寿命や健康寿命が減少」しなければ、「めでたしめでたし」です。しかし、現実には平均寿命も健康寿命も、必要な医療が先送りになっているのですから、結果的に短縮すると予想されます。それがどの程度になるか、後日の統計結果が待たれます。

 しかし、コロナを契機に起こった医療の変化は、医療者にとって見過ごせないこれから真剣に考えるべき問題を含んでいます。すなわち、「本当に必要な医療は何なのか」という問題です。具体的に述べましょう。

 私がパート医として週に一度、一般外来を担当しているクリニックは「在宅医療」が中心です。コロナ禍で訪問回数が減っているものの対象患者はむしろ増えています。つまりクリニックの収入は減少していません。以前にも言いましたが、一般外来での保険収入は月平均8千円程度、一方在宅医療(1日24時間対応)においては月平均約6万円です。それでも、高齢者が在宅でなく入院すれば桁違いに医療費はかかります。在宅医療は基本的に介護保険の対象ですし、高齢者が多いので、不要な医療は原則的にしません。患者さん自身は最後を自宅で迎えたいと望んでいます。介護の負担が家族に依存しているという批判もありますが、うまく利用すれば介護者の負担を軽減することは可能です……。患者さん自身が望んでいて無駄な医療費がかからないとすれば、それはいいことでしょう。

 在宅医療の利点はコロナ以前から十分認識されていたので、今さらここで述べることではありませんが、クリニックの院長(理事長と私との関係は断片的にお話しました)の経歴をみれば、これからの医療がわかってくると思います。ただし、私の推測を交えていますので、一部外れている点もあるかと思います。


 院長は現在50歳、学生時代はアルペンスキーの選手だったようです。T医大の心臓血管外科に入局して、臨床・研究に従事し、40代で国立病院の小児心臓外科の部長(?)だったようです。詳細は不明ですが、一念発起して、介護保険制度開始以前から「在宅医療」を始めていた先進的な0理事長のグループに「勉強したい」と入職してきたのが、もう5-6年前だったでしょうか。そんな彼ですから、今のコロナ時代の医療の状況には一家言あります。彼は、「新型コロナウイルス感染症の出現によって、小児科や耳鼻科の著明な減収は当然のことであり、補填するべきものではない。不要な外来診療だったと証明しているようなものだ」と断言しました。私も否定しません。

 彼は、このような事態を予測していたからこそ、在宅医療に転身したのだと思います。詳細は後日として今回はこのへんにしておきます。