[578](寄稿)読書の話━黒木登志夫著『新型コロナの科学 パンデミック、そして共生の未来へ』ほか

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ペンギンドクターより
その1

皆様

 梅雨の末期の豪雨とだけ言っていいのか、あちこちで猛烈な雨が降っています。出雲地域の豪雨については、斐川町の従妹にショートメールをして聞きましたが、大丈夫だとのことでした。その後広島や山口さらに九州と大雨が移っています。山間部は熱海市の例を見ても被害は尋常ではありません。何らかの造成地のようですから、天災ではなく明らかに人災です。福島の原発被害は未曽有の大震災がきっかけではありますが、明らかに人災です。「人新世」の現代社会は、天災よりも人災の比率がはるかに高くなっていると思えます。世界的には気候変動をいかにストップするか、確かに斎藤幸平氏の言うように、成長神話(SDGsもまた成長の呪縛から逃れられていない)から離れて、人類は「脱成長」を目指す他はないように思います。

 それはそれとして、お馴染みの和田医師の提言を転送します。その前に読書記録についてひと言(二言かも)述べます。

 私は月に10冊本を読んで読書記録を残すのをノルマとしています。読みながら、これは面白いという文章に出会うとそのページに折り込みを入れます。折り目がつくとみっともないから、シールを貼った方がいいという家族の意見もありましたが、小説以外は折り込みが多く、手っ取り早い折り込みで通しています。読み終わるとすぐにパソコンに著者名と題名を入力し、日付と簡単な感想を入力します。そして後日、目次とページ毎の感想を入力していくパターンです。それが大体1カ月後にはクリアーできていたのですが、70歳を超えると、数カ月経ってようやく読書記録の入力となってしまいました。これもまた年齢による衰えだと思います。しかし、逆に読書記録を残す作業で、数か月後という間隔をおいて、一冊の本を二度読むということにもなり、ある意味でこれはメリットかもしれません。

 そんな作業の中で、興味深い文章に再会したので引用します。皆様にもお話した黒木登志夫氏の文章です。


●黒木登志夫著『新型コロナの科学 パンデミック、そして共生の未来へ』(中公新書、2020年12月25日初版、2021年3月5日5版)

 したがって私が読んだのは3月終わりごろです。(p165-166)から引用します。(序章)(第9章)というのは、『新型コロナの科学』の章のことです。長めですが、1ページ余りをそのまま引用します。

 台湾は、SARSとMERS、韓国はMERSの経験があったからすばやく対応ができたが、日本にはSARSもMERSも入ってこなかったため、対応が遅れた。日本に、SARS、MERSが入ってこなかったのは事実であるが、SARSウイルスの分離などでは、国立感染研が相当の貢献をし、その蓄積があったはずである(序章)。

 さらに、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)流行では、193人が死亡するなど大きな問題となった。その対策会議が2010年6月10日、厚労大臣に提出した報告書には、今回の新型コロナウイルスにも、そのまま当てはまるような勧告が書いてある。


 国立感染研、地方衛生研、保健所の体制強化/迅速、合理的な意思決定、議論過程の透明性/国民への広報、リスクコミュニケーションの充実/臨時休校は地方自治体の状況に応じて運用/発熱外来の整備/PCR検査体制の強化/医療従事者の防護具の提供/ワクチンの確保


 10ページの報告書は、次の言葉で結んでいる。

 新型インフルエンザの危機管理対策は・・・・・・人員体制や予算の充実なくして、抜本的な改善は実現不可能である。この点は、以前から重ね重ね指摘されている事項であり、今回こそ、発生前の段階からの体制強化の実現を強く要望したい。


 この報告書を受け取った田村憲久(当時および現厚労大臣)は、最優先課題にはしなかったことを正直に認めた。尾身茂現分科会会長は、この報告書をまとめた委員の一人であるにもかかわらず、いつも、SARS、MERSを言い訳にしている(第9章)。


 ▲いかがですか。1936年生まれの黒木先生のおっしゃる通りです。2010年に新型インフルエンザの経験を踏まえて専門家が提言した報告書は、政府機関のどこかに埃をかぶって放置されていたということでしょう。黒木先生が引用されているので、配布はされているわけですが、政治家・官僚・学者、もちろん経済界も何もしなかった、いやむしろ感染症対策の人員体制はさらに縮小化されて、現在のCOVID‐19の惨状、オリンピックを無観客で開催せざるをえない状況に至ったということになります。

 日本の文化のまさに特質です。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」「人のうわさも七十五日」「災害は忘れた頃にやってくる」(最近は短期記憶もなくなりつつある)「馬鹿は死ななきゃ治らない」・・・・・・。

 私は、コロナが普通の風邪になるときがいつかは来ると思いますが、きっと新型コロナの経験を踏まえた提言書も新型インフルエンザのそれと同じような運命をたどるのではないかと危惧します。原発事故の悪夢が忘れられ、そればかりか原発が気候変動防止のための二酸化炭素排出削減の「切り札」として原発新設まで復活しそうな日本のエネルギー政策です。ただし、私は原発すべて即廃止論者ではなく、新設はせず、今の原発を稼働させつつ廃止へもっていくという日和見論者ですが。


 読書の話に戻ります。

 最近の読書はわかりやすく言うと、明治以来の日本史および同時代の世界史に関わることと、近未来の予測といった分野を中心に読んでいます。つまり自分なりに「明治以来の日本史からこれからの日本を予測する」情報を集めて、分析し、文章化していこうと思っています。具体的には、書棚・書庫にある私自身が集めた本を読みながら、駅ビルの書店で、新刊本を購入して読み、医療や災害という切り口を中心に文章を書くというパターンです。

 とはいうものの、硬い本ばかりでは疲れるので、時に小説も読みます。最近読んだ本では前回ちょっとお話した夏目鏡子夫人の『漱石の思い出』もそうですが、石坂洋次郎の戦時中と戦争直後の短篇集『わが日わが夢』井上靖あすなろ物語』『しろばんば大岡昇平『少年時代』などの著名作家の自伝的小説などが、感動した本です。またいつか、ゆっくりと故郷に泊まって、自分自身の幼年時代と少年時代を振り返ってみたいと思う今日この頃です。

 では今回はこのへんで。

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編集者より

和田医師の「コロナ感染拡大を抑えて社会活動をコロナ禍以前の状態に戻すための施策の提言」は、次回つづけて紹介します。