[594](寄稿)本の紹介

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ペンギンドクターより(7月22日寄稿)
その1

皆様
 梅雨が明けたと思ったら、猛烈な暑さになってしまいました。いかがお暮しでしょうか。
 オリンピックも一部の競技が始まったものの、開会式直前でありながら、様々な不手際が発生してきて、「日本は本当に弱体化したな」と呆れるというか、誰を責める気にもならず、憂鬱になっています。
 新型コロナウイルスもデルタ株(インド株)が蔓延してきて、感染者が急増してきているうえに、50代以下の入院患者も増加し、医療逼迫が現実となっています。ワクチン自身は変異株でも有効だと言われますし、私も同意見ですが、だからといって私たちは「巣ごもり生活」を解除しようという気はまったくありません。さらに加えて、私自身は81歳という平均寿命に着実にそれも急速に近づいているという焦燥を感じています。もうCOVID‐19が世界を駆け巡り始めて1年半にもなってしまいました。大事なわが人生が風の如く過ぎ去っていくという焦りですが、愚痴っているぐらいなら勉強しようと自らを鼓舞している毎日です。

 前回、黒木先生の本の内容を引用しましたが、2009年の新型インフルエンザの発生前後は、民主党政権の頃だったと思いますし、その後の東日本大震災もあって、感染症どころではなかったのかもしれません。官僚を責めるだけというのは、片手落ちでしょう。要するに、「弱り目に祟り目」ではありませんが、オリンピック開催という貧乏くじ(歓喜した人もいたようですが)を引き当てて、それだけでもオリンピック後(国と東京都の財政赤字の急増と無用の長物の競技施設という箱モノ)が心配されていた上に、「泣きっ面にハチ」であるCOVID‐19が日本を痛めつけているという気がします。

 その中で、以下に転送するワクチン接種の「相馬モデル」は、大震災の被災地であったという教訓を生かした数少ない事例かもしれません。ただし、このMRICを主宰している上昌広グループの実践の場が、相馬市であり、大西睦子医師もこのグループに近い人ですので、内容は多少割り引いた方がいいと思います。
 また文中にある「フラミングハム研究」というのは、心臓研究では有名です。私は外科医でしたから門外漢でしたが、名前だけは聞いていました。それはアメリカの小都市ですが、日本では九州大学医学部が関与している、福岡県の久山町(人口8400人)の久山町研究が世界的に有名です。1961年より開始されて60年になります。生活習慣病である脳卒中・虚血性心疾患・悪性腫瘍・認知症などの疫学研究です。60年間で町の住民の死亡者の当初は8割、最近でも6割の病理解剖が行なわれて、緻密な研究が続けられています。公平を期すために、日本も負けてはいないとつけ加えました。

 本を紹介します。上野千鶴子『在宅ひとり死のススメ』(文春新書、2021年1月20日第1刷、2021年5月10日第6刷発行)です。昨日買って今日の午前中には読み終わり、先ほど簡単な感想などを記録しました。彼女のことは以前にもお話しましたので繰り返しません。バイタリティあふれた社会学者・東大名誉教授です。東大の卒業式での発言も話題になりました。NHK‐BS3だったか、「最後の授業」でも「男社会何するものぞ」というしっかりした見解を聞いて感心しました。私がパート医をしているクリニックの理事長(在宅医療の草分け)とも旧知の仲です。
 詳細は省きますが、今私たちは二人暮らしです。しかし、いずれはどちらかが先に逝き、一人暮らしになります。その時、私は娘およびその家族と同居するより一人暮らしを選びます。娘や娘の旦那たちと仲が悪いわけではありませんが、一人の方がはるかにいいと私は思っています。女房には直接聞いてはいませんが、彼女も子どもたちと同居するよりは、一人暮らしを選ぶでしょう。
 そういう未来を予想している老人にとって、上野千鶴子の「おひとりさまの老後」シリーズ(累計125万部)は大変いい本です。医療にたずさわる私としては、彼女の意見に多少のずれは感じていますが、見事な本だという評価は崩れません。面白い人ですし、先験の明のある人です。
 前回名前を挙げたシッダールタ・ムカジー『遺伝子㊤㊦』というハヤカワノンフィクション文庫は、現在下巻の半ばを読み進めていますが、これは偉大な本と言えます。メンデル・ダーウィンから始まってヒトラーも登場しますし、面白い本でもあります。
 では今日はこのへんで。

つづく
次回「ワクチン接種『相馬モデル』」