[598](寄稿)「行動制限だけに頼る時代は終わりつつある」

ペンギンドクターより
その2

井上弁護士の意見を送ります。

なお、尾身さんだけでなく、MRICに投稿されている医師の文章にも、居酒屋ばかりイジメるのはやめて、ワクチン接種をすませ、十分感染対策をしている夜の街は深夜まで営業させてもいいのではないかという意見も出ています。
 今日はこのへんで。

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「人々の行動制限だけに頼るという時代は終わりつつある」という尾身理事長の発言に依拠して

井上法律事務所長 弁護士
井上清

2021年7月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp

1 内閣委員会での尾身参考人の発言

2021年7月15日、参議院内閣委員会の閉会中審査において、独立行政法人地域医療機能推進機構の尾身茂理事長は、参考人として、「もうそろそろ、人々の行動制限だけに頼るという時代は終わりつつある、と思います。」と発言した。同日付けの朝日新聞デジタルにおいても、その発言は「『行動制限だけに頼る時代、もう終わり』尾身会長が認識」という記事となって掲載されている(ただし、当該記事は、尾身理事長の発言の内容・ニュアンスとは少し異なっているので、要注意)。

「人々の行動制限に代わって何ができるのかというと、サイエンス・テクノロジー」があり、「ワクチン、検査、QRコード二酸化炭素モニター、下水の調査。」「そういうものに対して政府も随分とやっているが、そうした動きを今まで以上に加速してもらった上でならば、国民もそこまで政府がやるんだというならば、今、コロナ疲れ、緊急事態慣れと言っても、もうちょっとだけ、国民・一般市民も頑張ってみようという気が起こるのではないか。」さらに、飲食店の認証制度の話についても、「一所懸命頑張ったお店が報われるというシステムにしないと公平感がない」などと述べていた。

つまり、(朝日新聞デジタルの記事とはニュアンスが異なり、)尾身理事長は、今までは国民の行動制限だけに頼って来たが、今後は、国民に行動制限を続けてもらうためにも、政府はワクチン・検査等のやるべきことを実施し、公平感のない酒類提供禁止や時短要請も認証制度などによって改善していくべきだと(政府分科会会長としてではなく、)一有識者として主張しようとしたのだと思う。そうだとすると、1年以上も経過して今さら当り前のことを言っているという内容・ニュアンスの発言ではない。今この時だからこそ、正当に評価しうる内容・ニュアンスの発言だと感じるところである。


2 デルタ株対策として特に重視すべきこと

(1)診療の一環としての民間のPCR検査

尾身理事長は検査の充実も指向していたが、デルタ株対策として重視すべきは、抗原検査よりも特にPCR検査であろう。そして、PCR検査だとしても感染力の格段に強いデルタ株に対抗するには、行政検査だけでは数的に明らかに不足である。

一類感染症に比肩する新型インフルエンザ等感染症に位置付けられている新型コロナウイルス感染症(それもデルタ株)に対抗するためには、民間の医療機関と医師達が自ら診療の一環として自在かつ機動的にPCR検査ができなければならない。もちろん、自由診療にも制約がなく、かつ、保険診療でもPCR「検査は、診療上必要があると認められる場合に行う」ことが何時でもできなければならないのである(保険医療機関及び保険医療養担当規則第20条一号ホ)。

診療の一環としての民間のPCR検査が、自由診療としてのみならず保険診療としても認められてこそ、国民・一般市民も「そこまで政府がやるんだ」と評価することであろう。

(2)飲食店認証制度による協力要請の個別解除

飲食店に対する度々の酒類提供禁止要請や時短要請によって、飲食店は疲弊するだけでなく、特に誠実な飲食店においては不公平感が高まって来ている。本来、感染防止対策を適切に講じている飲食店に対しては、個別に酒類提供禁止要請や時短要請を解除してしかるべきところであった。

特にデルタ株対策としては、「三つの密」の防止と共に、「施設の換気」を重視すべきところである(新型インフル特措法第31条の6第1項、同法施行令第5条の5第8号、令和2年厚労省告示第176号)。そして、これらが遵守されている以上、個別に当該飲食店を認証して、諸要請を解除してしかるべきであろう。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長発出の2021年2月12日付け事務連絡(前出告示第176号と同じ内容を扱う。5頁)では、諸要請は「『業態』に属する事業者全体に対して行うこと」という法解釈を採用している。しかし、そのうちの「業態」を弾力的に解釈・運用し、「認証店」は当該「業態」から除外して例外を認め、そうやって飲食店の間での不公平感を取り除くべきであろう。


〈今までの新型コロナ関連の論稿〉

Vol.128「今後はクラスター対策に頼り過ぎないように」
(2021年7月7日)

Vol.109「医師助手ら中心のワクチン接種の合法化」
(2021年6月9日)

Vol.100「変異株「医療のひっ迫」対策には大胆な物量作戦を展開すべき」
(2021年5月27日)

Vol.083「PCR検査・重症病床・医療補助者の異次元緩和」
(2021年5月5日)

Vol.068「マスク会食義務化の持つ法的意味と感染防止対策向上のインセンティブ

(2021年4月9日)

Vol.064「ダイヤモンド・プリンセス号の経験と教訓を踏まえ東京オリ・パラでは新しい検疫の運用をすべき」
(2021年4月5日)

Vol.047「既感染者へのワクチン接種で重篤な副反応が生じた時は禁忌者と推定されかねない」
(2021年3月8日)

Vol.031「自宅療養等も含めた行政の医療提供体制確保措置義務」
(2021年2月10日)

Vol.012「感染症法の適用対象である無症状病原体保有者の存在を数多くのPCR検査によって把握すべき」
(2021年1月19日)

Vol.006「自費PCR検査の自律的な活用と高齢者の宿泊保養システムの導入」
(2021年1月12日)

Vol.244「すべての医療機関に前年対比の収入減少額を補填して医療崩壊を防ぐべき」
(2020年12月7日)

Vol.235「一般市民法的センスを込めてPCR検査の議論を」
(2020年11月19日)

Vol.201「新型コロナワクチンには手厚い健康被害救済と医療免責を」
(2020年10月13日)

Vol.187「新型コロナ対策特措法を新型コロナ専用に新たに制定すべき」
(2020年9月23日)

Vol.186「感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき」
(2020年9月16日)

Vol.165「PCR検査は感染症法ではなく新型インフル特措法の活用によって拡充すべき」
(2020年8月12日)

Vol.147「新型インフル対策特措法を新型コロナに適するように法律改正すべき」

(2020年7月16日)

Vol.131「新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?」
(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
(2020年6月17日)

Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
(2020年5月8日)

Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

Vol.054「歴史的緊急事態の下での規制を正当化するものは助成措置である」
(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)

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