[614](寄稿)「落ち穂拾い」

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ペンギンドクターより
その4

皆様
 COVID‐19爆発的拡大に加えて、日本列島を豪雨が襲っています。これもまた世界的な気候変動の一環でしょうか。イタリアでヨーロッパ過去最高の48.8℃という気温を記録したという報道もありました。ただ、今までのヨーロッパ最高気温は48℃らしく世界は広いと再確認しました。ヨーロッパは気候変動に極めて敏感です。飛行機は二酸化炭素排出量が多いというので、鉄道が見直されているようです。昔、西ドイツのフランクフルト駅だったか、西ドイツ全体の鉄道路線のポスターが貼ってあって、「あれが欲しい」と駅員に掛け合ったら、3マルク(300円)で購入でき大喜びをした鉄道好きの私には追い風ですが、日本ではそういう議論はないようです。「SDGs」(持続可能な開発目標)においても日本政府・日本企業は世界の潮流からは遅れていて、夕食時に女房と見た録画「ガイアの夜明け」で日本の企業経営者の苦痛に満ちた顔が印象的でした。つまり、再生エネルギー・クリーンエネルギーを使わない企業とは縁を切るという流れです。どういうことかというと、アップルなどは、部品メーカーにも二酸化炭素を排出しない企業を選ぶという流れです・・・・・・。

 今回は、「落ち穂拾い」と称して、自分が皆様に送信した医療情報を読み返してみて、言い足りないとか、ちょっと誤解を招くと思われる部分の解説をしようと思います。お付き合いください。
 今日は、中等症のコロナ感染者の自宅療養に関わる医療界・医師会の現状についてです。脱線も多いと思いますが、ご容赦ください。

 最初から脱線します。私は今、大佛次郎の『終戦日記』を読んでいます。たまたま書棚にあったからですが、彼は長く鎌倉に在住していました。昭和19年9月から20年10月までの日記です。彼は当時すでに「鞍馬天狗」で成功した流行作家であり、収入も多く、文壇人やマスコミ人さらには軍隊関係者との付き合いもあり、戦争の推移について相当正確な情報を得ていました。そう思える記述があり、その意味で私には極めて面白い日記です。彼は年間支払った税金が当時5000円以上もあり、総収入の3分の1を払うことになるとブツブツ言っていることや、昭和20年になってもどこからかアルコールが調達できて、連日二日酔いだとか、それでも後藤又兵衛を描いた「乞食大将」などの仕事や多くのエッセイを頼まれて書くとか、トルストイなどの著名な作家を読みなおすとか、おさおさ勉強も怠りないのが、さすがです。
 戦中の日記では、高見順『敗戦日記』、清沢烈『暗黒日記』、山田風太郎『戦中派虫けら日記』などが有名で、私も読みました。それに比べると、大佛次郎のそれはだいぶ違います。高見順などはアルコールや煙草を手に入れるのに涙ぐましい努力をしています。

 なぜこんな話から始めるかというと、アジア太平洋戦争時とは大きな違いもありますが、現状を見ると、私たちは一種の「戦時下」にあると思うからです。私たち夫婦は、月に一度程度は那須の家の掃除に一泊で出かけるものの、ほとんどが自宅での生活です。それでも私は仕事がありますが、女房は気の紛れるところがありません。お互い、パソコンに向かってそれぞれの情報を仕入れていて、基本的には干渉しません。娘たちも何とかやっているようですが、東京ですから、それなりの違った緊張があるでしょう。そして、この状態は、いつまで続くのか、誰にもわかりません。まさに戦時下です。
 ワクチンはできたものの、ファイザー製も抗体のピークは接種後2カ月とかで、イスラエルも3度目の接種に踏み切ります。いわゆるブレークスルー感染者(2回目接種終了後14日以上たって感染した人)も次々と出ているからです。一定の効果は残っているとしても、変異株が多く、(インフルエンザも変異株が多いのですが、コロナは世界中の様々な地域、人々に蔓延しているので、それだけ、変異するチャンスが多くなるということでしょう)、抗体は出来るものの完全ではないのは予測されたことです。
 特に私は医療従事者ですから、日常的に嫌でも受診者と接触せざるを得ず、もし感染したら、病院機能に影響を与えてしまいます。女房もそれが分かっているので、ワクチン接種しても友人の病気見舞いにも行けず、娘たちとの接触もしていない日々です。我慢の日常ですが、それでもいいほうです。コロナで職を失い、住む家を失い、路頭に迷っている人々に対し、30兆円は何とか届けられないものかと思います・・・・・・。

 さて、医師会ですが、まずK市でのCOVID‐19の現状です。
 県も過去最高の感染者を記録し続けていますが、K市も、感染者数の高止まりが続いています。毎夕、女房は新聞社のホームページから、市の感染者数(新規、濃厚接触者別・年齢・性別・職業など)をチェックして、私に教えてくれます。連日、10人から30人の感染者が出ていますが、その人たちはどこにいるのでしょう。当然自宅にいるはずです。
 Y病院でクラスターが発生した時、すべて50代以下でしたから、彼等は自宅療養でした。若いので大過なくすべて現役復帰しています。後遺症はあるようですが、私も日常的に会って、「やあ、大丈夫かい?」と挨拶してすれ違います。病院の職員ですから、事務が毎日連絡をとっていたと思います。私たち夫婦はむしろ母親と同居している感染者の方を心配していました。年寄りにうつすことになるからです。大丈夫だったようですが。
 テレビでも一人暮らしの自宅療養者には、市の職員が連絡を取り、状況によっては買い物を代行しているのが報道されていました。もちろん、その人たちの中から突如重症者が出ることはあり得ることですが、ホテル収容などだけでなく、そういう自宅療養の選択もあっていいのではないでしょうか。ただし、その場合は、保健所職員だけではなく、通常の市の職員も関与しなくては人が足りません。現場の公務員も削減されていますから、大変ですが、無症状者も多く、全員ホテル収容も容易ではないでしょう。その人々には、酸素飽和度チェックにパルスオキシメーターを貸与すればよいでしょう。50万個を国費で作るぐらい安いものです。今一個2000円ぐらいでアマゾンで購入できます。10億円ですから、壊されたり盗まれてもいいぐらいの気持で作るべきです。もちろん、市の職員の上には医師会の先生がアドバイザーでいたほうがいいでしょう。

 在宅酸素療法(HOT)の酸素濃縮器は以前お話した私の従兄、81歳のIPF(特発性肺線維症)の患者が自宅で使っています。彼は、IPFに加えて肺炎で入院となり、一時は生命の危機もありましたが、今は自宅でそれなりに元気です。先日彼自身から電話がありました。我々の祖母の妹の次男、当然90歳近いと思いますが、亡くなったという電話でした。息が切れているのはわかりますが、そろそろ危ないはずという私の予測はまたもいい方に裏切られました。彼は新薬オフェブを使っていたので、全例予後報告を厚労省に出す必要もあり、主治医は大変面倒見がいいはずで、在宅酸素療法の機器も今年初めに「帝人」が至れり尽くせり用意してくれたようです。それでなくても、一昨年私の90歳の患者さんが心不全になって、酸素飽和度が90%を切った時は、外来ですぐナースが「帝人」に連絡してくれて、その午後には、自宅に濃縮器を届けてくれました。今は、需要が多く、そうはいかないでしょうが、先日ニュースで、400台国が濃縮器を用意するとか言っていました。たったそれだけです。要するに、専門家はこの事態が予測できたのですから、無駄になることを覚悟で国に機器の製造を促せばよかったのだと思います。何せ30兆円あるのですから。

 中等症の場合をどうするかです。
 まず定義です。重症とは①ICUで治療②人工呼吸器を使用③ECMOを使用のいずれかで、これは当然入院です。中等症は2つあります。中等症にはⅠとⅡがあります。Ⅰは酸素飽和度が93~96%で息苦しさや肺炎がある場合です。COVID‐19は奇妙なことですが、肺炎があっても息苦しさを訴えないケースもあるようです。Ⅱは酸素飽和度が、93%以下で酸素投与が必要な患者さんということになります。

 この中等症をどうするか、いろいろ難しいケースもあり得ます。しかし、政府すなわち菅総理が「中等症を自宅待機に」と言ったこと自体は現状をみれば、私は妥当と言えると思います。ただし、「何が中等症なのか」菅総理は知らなかった可能性があります。今までの総理のレベルからするとあり得るでしょう。少なくとも聞いたことはあっても説明できる状態ではなかったろうという私の推定は確実でしょう。それなのに、なぜ唐突に発表したのか不思議です。まわりが、想定問答を教えていなかったのでしょうか。聞かれなかったから教えなかったと側近は言うかもしれませんが。無能な側近だったのかもしれません。
 例の日本学術会議の委員の件についても、総理は「加藤陽子氏ぐらいしか知らない」と言っていました。「任命権者」である総理が知らないですむわけはないのですが、安倍さんもそうだったように、説明しない・説明できないのは現在の総理の特徴のようです。「民主主義国家」においては、権力を持つ人が最も必要な能力は説明能力のはずですが、・・・・・・。でも小泉さんの「戦闘地域」の説明もひどかった、いろいろ思い出します。
 
 私は、この中等症のⅠもそうですが、現状ではⅡも自宅療養にするしかないと思います。だから、菅総理は十分説明して発言を撤回しなければよかったのに、と思います。
 撤回せずに、具体的に以下のように述べることができるように準備すべきなのです。総理が、あるいは本気でコロナ対策をしようという側近(総理の動向を新聞で見ると、厚労省事務次官や医務技監とも日常的に接触しているようですが、彼等にそういう提言をする能力はない)がいれば、という前提が必要ですが。
 「・・・・・・その自宅療養の中等症感染者には、すべて日本医師会および各都道府県・郡市医師会と各自治体が協力して、個別に主治医を決めておきます。もちろん、医師には応分の報酬を出しますし、急変で間に合わない場合も責任は国が取ります。もし重症化ないしその兆候が見られる場合、主治医からあらかじめ決めてある公的・私的病院へ入院の依頼をしてもらいます。・・・・・・」
 「今は日本国の未曽有の危機です。どうか、国民の皆様もいつどこで誰が感染し重症化するかわからないのですから、感染者を排除することなく、医療従事者の方たちとのご協力をお願いします・・・・・・」
 と言ったところでしょう。

 昨年末から今年初めにかけて、コロナ患者が急増した時に、上述のような準備は可能だったのではないでしょうか。やる気があればの話です。政府ではありません。問題は医療界です。
 私は、今の事態は、政府がオリンピックを強行したからとかいうよりも、デルタ株の急増からみて、オリンピックなしでも当然予測できたと思いますし、「今一層の自粛、自粛、自粛・・・・・・」を連呼するよりも、具体的に自宅療養体制を構築すべきだったとおもいます。その提言は医療界しかできません。女房と結局「日本の医療界、医師会の上の人たちがダメなんだね」と話しています。

 さて、K市に戻りますが市ではCOVID‐19の主たる入院施設は日赤です。そこに今何人が入院しているかは私にはわかりません。次に入院できる施設は、Y病院です。こちらは、元々4ベッド用意していましたが、県の依頼で5ベッドにさらに7ベッドに増やして、現在6人が入院しています。現状では7ベッドしか構造上作れないようです。
 以前にも言いましたが、人工呼吸器使用は対応できますが、ECMOを使うような場合は、上位の病院に転院とないります。恐らくT大学等でしょう。
 要するに、「中等症が自宅療養」というのは、私のアイデアでも何でもなくて、現状の追認ということです。日本の与党も野党も政治家の無知の深刻さがうかがえます。それもこれも、日本の医療界、一応名目上は頂点にいる「日本医師会」「全国大学医学部長病院長会議」「日本病院会」・・・・・・と、それらのまとめ役厚労省特に医系技官たちの危機管理能力の欠如、平時に官僚的文章をまとめる能力はあっても、危機に具体的対策を提言する能力というか行動力がない実態をさらけ出しているということです。
 少々疲れてきたので、このへんで。