[636](寄稿)早期発見早期治療の必要性-ある保健所長の意見

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ペンギンドクターより
その1

皆様

 寒いですね。何となく憂鬱な日々が続きます。

 さて、添付ファイルは、同じ表題ですが、前回送信の内容に加えて、JCHO病院の急性期病床数と補助金を加えました。従って内容がいささか変化しています。こちらの方が決定版と考えています。お読みいただければ幸いです。転送するMRICの意見は8月25日付でやや古いのですが、某保健所長の意見ですので、意味はあると思います。

(編集者より:添付されたファイルは次回紹介します。)

 菅政権が終末を迎えるようですが、最も困っているのは野党だろうなと思うぐらいで、私にはコロナで旅に出られない現実は変わりなく、憂鬱な日々は同じことです。

 10月で74歳になります。読むべき本は書棚にたまっていますし、他にもやりたいことがあるので、遂に決心して来年3月に在宅医療中心のクリニックを辞めることにしました。先日、院長に話し理事長に伝えておいてくれと言いました。院長はまだ8年勤務ですが、私は17年になります。自分で言うのも変ですが、20年以上も前から理事長の在宅医療をいろいろな意味(県医師会の役員として理事長を表舞台に出す産婆の役もしましたし、彼のアドバイスを得て取材に回りましたから持ちつ持たれつでもあります)で支援してきた私の見通しは正しかったと満足しています。介護保険の創設以前からですから、「介護の社会化」を訴えていた東京家政大の樋口恵子さんに注目していた私の慧眼は誇っていいでしょう。この決断で直接の「患者さん」との接触はなくなりますが、検診業務は続けます。ただし、金曜日の産休中の女医さんが来週から復帰するので、(火)(木)の二日だけになります。こちらは、いろいろな点で私の役割は客観的に見て必要なので、体力の続く限り続けます。もちろんミスが多くなれば、辞めることに躊躇しません。

 さて、自分のことはそれぐらいにして、COVID‐19に対する医療体制の危機が深まっています。それもこれも、国すなわち厚労省および国の管轄する病院体制の怠慢?が、その原因のひとつでしょう。

●コロナ病床 国管轄病院は?

 受けいれ数% 都内一カ所は専用に

    朝日新聞9月2日(木)夕刊より

 新型コロナに感染しても入院できずに自宅療養を求められる患者が増えている。酸素吸入が必要な状態になっても、救急搬送先を見つけるのが難しいケースがある。ベッド不足は民間病院の受け入れが進まないせい、と言われるが、国が管轄する病院の受け入れも低調だ。

 厚労省管轄の「国立病院機構」(NHO)は旧国立病院が独立行政法人化した組織で、全国に140病院を持つ日本屈指の病院グループ。同じく厚労省管轄の「地域医療機能推進機構」(JCHO)は旧社会保険病院、旧厚生年金病院、旧船員保険病院の三つの病院グループを統合した独立行政法人で、理事長は政府対策分科会の会長の尾身茂氏だ。

 両機構のコロナ患者の受け入れ状況をまとめた内部資料を入手した。それによると、NHO系列の病院は計約3万9千床あるがコロナ病床がある病院は95で計1854床(7月末時点)。全体の4.8%だ。JCHOは全国57病院の計約1万4千床を持つが、コロナ病床は43病院の計816床(同)。5.7%にとどまる。実際の受け入れ患者数は、8月6日時点でNHOが695人(1.8%)、JCHOが345人(2.4%)と、なぜもっと受け入れられないのかと疑問に思う水準だ。

 その後、厚労省は東京都とともに、都内すべての医療機関に病床確保などを要請。JCHOは8月28日、五つある都内の病院の一つをコロナ専用にすると表明した。国管轄の病院が動く効果は大きい。厚労相は公衆衛生上重大な危害が生じたとき、両機構に必要な業務の実施を求めることができる。コロナ感染は全国に広がっている。さらなる対応を期待したい。

●【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院132億円の補助金「ぼったくり」

 AERAdot 2021年9月1日  
 MSNに紹介されていたのを印刷しました(ペンギンドクター)

 JCHO傘下の東京都内の5つの公的病院で、183床ある新型コロナウイルス患者用の病床が30~50%も使われていないことが、AERAdot編集部の調査でわかった。

 5病院のうち、最もコロナ患者の受け入れに消極的だったのは、東京蒲田医療センターだ。コロナ専用病床78床のうち、42床が空床で、半数以上を占めた。その他には、東京山手メディカルセンターは37床のうち35%(13床)が空床となっている。東京高輪病院は18床のうち10%強(2床)が空床だった。東京新宿メディカルセンターはコロナ専用病床50床が満床だった。東京城東病院はこれまでコロナ専用の病床はゼロだ。

 都の集計によると現在、自宅療養者は2万人以上、入院治療調整中の患者は約6800人に上る。厚労相関係者はこう批判する。

 「尾身氏は国会やメディアで『もう少し強い対策を打たないと、病床のひっ迫が大変なことになる』などと声高に主張していますが、自分のJCHO傘下の病院でコロナ専用ベッドを用意しておきながら、実は患者をあまり受け入れていない。こんなに重症患者、自宅療養者があふれているのに尾身氏の言動不一致が理解できません。JCHOの姿勢が最近になって問題化し、城東病院を9月末には専門病院にすると重い腰を上げましたが、対応は遅すぎます。そもそもコロナ病床の確保で多額の補助金をもらっていながら、受け入れに消極的な姿勢は批判されてもしかるべきではないか」

 厚労省はコロナの患者の受け入れ体制を整えるため、コロナ専用の病床を確保した病院に対して、多額の補助金を出している。

 例えば、「病床確保支援事業」では、新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円の補助金が出る。ベッドは使われなくても補助金が出るため、東京蒲田医療センターでは使われていない約40床に対して、単純計算で、1日284万円、1カ月で約8500万円が支払われることになる。

 しかし、厚労省関係者から入手した情報によると、2020年12月から3月だけでもJCHO全57病院で132億円の新型コロナ関連の補助金が支払われたという。

 「コロナ病床を空けたままでも補助金だけ連日、チャリチャリと入ってくることになる。まさに濡れ手で粟で、コロナ予算を食い物にしている。受け入れが難しいのであれば、補助金を返還すべきです」(厚労省関係者)

 JCHOの見解はどうか。AERAdot編集部がJCHOにコロナ患者の受け入れの実態を質すと、8月27日現在の数字として、5病院全体で確保病床の30%が空床であり、東京蒲田医療センターでは約50%が空床であることを認めた。

 東京蒲田医療センターの石井耕司院長は書面で以下のように回答した。

 「JCHOは、国からの要請に基づきJCHO以外の医療逼迫地域(北海道・沖縄)の病院へ、全国のJCHO病院から看護師の派遣を行なってきました。しかし、全国的な感染拡大に伴い、各地域においても看護師のニーズが高まって来た結果、全国のJCHO病院から当院への派遣が困難となってきました。(中略)今回、国や都からの受け入れ増加の要請に応えるため、8月16日から看護師を追加で確保し、受け入れ増加に向けて取り組んでいます」

 尾身理事長の答えも上記の東京蒲田医療センター院長の見解とほぼ同様です。補助金の返還についての言及はありません。


●いかがですか。補助金のからくりがほぼ分ってきました。東京城東病院をコロナ専門病院にし、50床を受け入れると言っても、現実には補助金だけは受け取り、看護師や対応する医師の確保の難しさから、機能するのか疑問です。

 ますますコロナ危機の深化が憂慮されます。

 令和2年度のJCHO病院の黒字には、そういう「からくり」があったわけでした。

 では。

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保健所主導から医師主導への変換 -早期発見早期治療の必要性-

某保健所長

2021年8月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp

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新型コロナウイルス感染症対策は保健所が主導している。感染者が出ると保健所に発生届が出され、保健所が入院とか自宅/ホテル療養とか決めている。そして、そのやり方は完全に機能不全となっている。

自宅/ホテル療養とは?療養という名前がついているが、現実は隔離だ。自宅/ホテルに隔離しているだけで、治療しているわけではない。ただ隔離しているだけなので、この中から悪化する感染者が必ず出てくる。そして、悪化してから入院。このようにただ隔離されて悪化した患者は、既に重症となっており、対策は限られてくる。硬くなった肺は人工呼吸器が必要、全身に回ってしまった炎症だから全身管理も必須。したがって、非常に手がかかり、入院期間も長くなる。抗凝固療法やECMOの出番となれば尚更だ。その結果、重症患者がベッドを占め、ベッドは空かず、次を入院させることが困難となり重症者が増えても対応できない悪循環に繋がっている。ベッドを増やそうとしても重症者に対応できる医療スタッフは限られているため、ベッドは増えない。また仮に増やせても、今の感染爆発ではすぐに足りなくなるだろう。これは、保健所が主導いている今の新型コロナウイルス感染症対策が重症者対策に主眼が置かれているためだ。

少し考えてみると、このやり方はとてもおかしなやり方だ。しかし、そのおかしさに気づかず、誰も変えようとはしない。

新型コロナウイルス感染症は、文字通りウイルス感染である。ウイルスが感染し、体内で増殖し、全身に炎症反応が波及して重症化し、死の危険がせまる。

ならば、ウイルスが感染し増殖するときに抗ウイルス薬を使って体内のウイルスをやっつければいい。全身に炎症が及ばないように、炎症を抑える薬を早期に投与すればいい。ウイルスが増えきった後に抗ウイルス薬を使っても無効なのは自明だ。全身で炎症が燃え盛る状況に至っての対応は困難極まりない。早期発見早期治療、つまり重症化させない治療が最重要だ。

それにはどうすれば良いか?答えは簡単。保健所主導から医師主導に戻せばいい。戻す?普通の病気は医師主導だ。最初に診た医師が検査、診断、治療に責任を持つ、これは普通に行われていることだ。早期発見早期治療のためには医師主導でなければならない。今のようにただ保健所が機械的に判断し、重症化したら入院というやり方を変えなければならない。重症者中心の対策ではなく、早期発見早期治療後の自宅療養ではない自宅治療にしなければならない。そうすれば、重症化する症例は格段に減る。

そのためには、病診連携に保健所を加えた病診保連携。更には市町村と一体となった連携が必須だ。

新型コロナウイルス感染症は災害なみと言われている。災害時は保健所だけで対応できるわけではない。地域の医療機関や市町村、保健所の連携は必須だ。この新型コロナウイルス感染症への対応は医療が主体となる災害だ。早期発見早期治療が肝となる災害だ。であれば、医師主導でいかなければならない。そして、保健所や市町村と情報共有し、役割分担をしっかりしなければ到底乗り切れるものではない。保健所は疫学調査や濃厚接触者対策などの本来の公衆衛生対策に集中するべきだ。

早期発見早期治療後に自宅治療となった患者へは頻回に医師が電話すれば良い、オンライン診療ができればもっと良いだろう(電話だけでも診療報酬請求可能)。治療もせずに自宅に隔離された患者に防護服を着ていきなり往診に行けと言われれば、多くは躊躇するだろう。悪化しないよう治療した後の自宅治療の患者に電話でもOKとすれば、参画する診療所の敷居が下がるはずだ。そして、悪化兆候が見られれば、すぐに入院できる体制。入院と言うよりも、一晩様子を診るベッドの確保。そのような体制こそが今すぐに求められている。

注:今回は、変異株に置き換わった後の保健所の変更すべき対策や早期発見早期治療の具体的な内容に関しては割愛した。それぞれ大きなテーマであり、機会が許されれば改めて詳述したい。

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