[638](寄稿)コロナを診なければいけないのはいったい誰なのか?

ペンギンドクターより
その3

皆様
 立て続けですが、前回送信したJCHO病院の補助金の件で読みなおして誤解を招く表現があったので、追加します。
 補助金は、コロナ病床申請で、1床につき1日7万円余補助されるのですが、これは当然民間病院にも適用されます。したがって、民間病院もまた支給されているのは事実です。ただ、JCHOの場合、本部が厚労省と密接に関連しているので、申請時のベッド数に応じて支給され、実際の運用数とは異なっても取りあえずいいという情報など、かなり有利であったと思われます。  
 また昨年早期のコロナ嫌悪の国民感情を配慮し、民間病院が逡巡していたのは事実で、その意味では、JCHOは積極的にコロナ対策を率先していたという表現もできるでしょう。しかし、申請数と現実の運用病床の乖離については、検証が必須です。
 以下の情報はお馴染みの和田先生の意見です。私の「追加弁解」のみでは申し訳ないので、転送します。相変らず現場からの発言には説得力があります。
     

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コロナを診なければいけないのはいったい誰なのか?

わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2021年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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もともと公衆衛生と医療は別なものだ。感染者数が少数の時は公衆衛生の専門家にまかせておいてもよかったが、感染者数が増えてしまったら公衆衛生の実働部隊である保健所だけでは対処しきれないことは明らかだった。公衆衛生では感染症が広がらないようにすることに主眼を置くが、こと治療に関しては驚くほど無頓着で言及することすらない。公衆衛生が目指す目標は感染者を隔離することでそのための法律を整備して規制したために、すべての感染者は感染症指定病院に隔離しなければいけなかった。つまりもともと一般病院にコロナ感染者を入院させておいてはいけなかったわけで、最初のころに民間病院がコロナを診なかった理由もそこにあった。
にもかかわらず、図らずも一般病院で感染クラスターが発生してしまって多くの感染者であふれ返り、あっというまに指定病院に収容しきれない状態になった。この時点で隔離という目標は達成できなくなったのだから方針を大転換して収容施設を爆発的に増やさなければいけなかったがそう決断することを怠った。結局、方針転換の機会を逸してしまったために、その後の第2波、第3波、第4波、第5波と繰り返して医療の逼迫に直面しても、ただただ何もせずにことが過ぎ去るのを待つしかなくなってしまった。

医療従事者や高齢者のワクチン接種が進んで一般病院や高齢者施設のクラスターはあまり起こらなくなったが、今度はあらゆる年齢層に感染が拡大していって感染者数が増大したため、医療体制を整備せずに見過ごしてきたことが改めて浮き彫りになった。医療の恩恵にあずかれないコロナ感染者が街中にあふれ返っている今、コロナを診なければいけないのはいったい誰なのか。自宅療養者が医師の診察を受けられず、
重症患者が病院に入院できないことから、街の診療所がリモート診察や在宅訪問などで感染者の診察に当たったり、大小の民間病院が少しずつコロナ入院を受け入れることが求められている。しかし、このような方針が本当に適切なコロナ診療の形なのだろうか。ここでは「外来」と「入院」に分けでコロナ診療に当たるべき医療を考えてみたい。


1.街中の診療所におけるコロナ診療の実態

街の多くの診療所がコロナ診療を拒んでいるといわれるが、それは本当だろうか。まず考えておかなければいけないことは、開業医といっても本来の内科医というのは意外に少ないということだ。 もともとの専門でいえば外科医、整形外科医、皮膚科医、小児科医、耳鼻咽喉科医、眼科医などと多岐に及んでおり、例えば耳鼻科の先生が肺炎を疑うときは内科に下駄を預けるのが一般的だ。つまり、開業医といっても本当に内科が診られるのは一握りなのだ。そのことを考慮せずに単純に開業医数だけからコロナ診
療の有無を計上してもおかしなことになってしまう。 オリンピックに協力するために医師が奪われてしまったという議論もあったが、スポーツ医学を専攻する多くの先生は整形外科医であり、基本的にはもともと呼吸器疾患の診療には携わっていない。

それでは具体的な数字を少しご紹介しよう。 筆者のクリニックは練馬区にあるので、練馬区の場合を例にとってどのぐらいの診療所がコロナを診ているかを説明していきたい。練馬区には診療所が約600あって内科を標榜している診療所が約300あるが、内科を標榜しているといってもそのうちのかなりの数がもともと外科医や整形外科医であったり小児科医、皮膚科医などというケースも多く、専門の診療科に加えるかたちで内科を標榜することも多い(例えば外科と内科と両方標榜していたらもともとは外科だ)。

去年の夏にコロナの発熱外来が始まった時点では、そのうちの100以上の内科系診療所がPCR検査を実施していた。自院の「かかりつけ患者さん限定」としているところがほとんどではあるが、それでもそれぞれの先生が自分のかかりつけ患者さんを診るなら一応ある程度はカバーできていることになる(当院を含む一部の診療所では他の診療所からの依頼や、保健所、都発熱相談センターからの依頼も受け付けて発熱外来
を実施している)。


2.街中の診療所がコロナ患者さんの治療にあたるのが理想的な形態か?

街医者がリモート診療で何とかしなくてはいけないと判断しても実質的にはほとんど何もできない。結論から先にいうと筆者が考える理想の外来診療は「病院の外来」だ。病院というと入院ベッドのことばかりが取り沙汰されるが、コロナを診る一番理想の診療所は病院の外来なのだ。必要があれば すぐにCTを撮ったり、血液検査の結果を出したり、必要なら点滴もできるし、さらに必要に応じてすぐに入院に回すこともできるのだからこんな理想的な「コロナ外来」はない。

ところが病院というところは(コロナに限らず)ベッドの空きがないときは重症患者さんを外来で診ることすら断るのが一般的だ。 筆者が大学病院で救急外来を担当していた時も、病院全体が満床になってしまうことがあって、こういう時は救急車の受け入れをストップするのだ。 全くおかしな慣習なのだが「外来に重症患者がいるのに入院させられなかったらどういうことになるか」それを考えると外来受診すら受け入れてもらえないのだ。

そうなるとコロナ病棟の用意がない病院の外来では、始めから入院の必要な中等症以上のコロナ患者さんを診ることはできないのだ。 検査ができて、CTが撮れて、点滴ができて、開業医から見たら羨ましい限りの環境なのにそこでコロナを診られないなどこんなバカな話はない。だからそういうところにこそ野戦病床を増設する必要があるのだ。

在宅医療に期待を寄せる向きもあるが、在宅専門医はすでに多くの患者さんを抱えていてその患者さんたちをほかに預けることはできないので、新たにコロナ診療に参加する余裕はほとんどない。新たにコロナ専用の在宅医を作るなら話は別だが、多くのコロナ自宅療養者を診るにはとても間に合わない。 自宅療養中に亡くなるケースの報道を見ていると在宅訪問の対応でもとても間に合わないケースが多そうだが、このようなケースではやはり救急車しかないと筆者は考える。救急車がすぐに来てくれて、すぐに入院させてくれることにつきる。そのためにもコロナ診療に特化した病院のコロナ病床の増設が急務なのだ。あとはどこにコロナ空き病床があるか、電話やFAXとかをかけまくるの
ではなくてどこかで一元管理できるようなネットシステムを構築すべきであり、やろうと思えばすぐにでも構築できるはずだ。


3.民間病院のコロナ受け入れが足りないというのは本当か?

まず、感染症法の2類対応という法律が足かせになっているのは確かで、それをほかの法律の規定を作って多くの民間病院に半強制的にコロナを受け入れさせるという方針が本当に適切なのだろうか。そもそもこの2つの法律の規定が矛盾を起こしていて、隔離はもうあきらめたのか、指定病院に隔離しなくていいのかという問題は曖昧にされていて何の説明もない。指定病院はその看板を下ろしてもいいのだろうか。

また、多くの民間病院はすでにコロナを診ていると思われ、筆者の周りではコロナを診れるレベルの民間病院はすでにコロナを診ている。 これも「数字だけ机の上で見比べて、コロナを診てる病院がいくつあって診てない病院がいくつあって、診てない病院が多いから全体としてはあまり診てない。だからもっと診させよう。」というのはあまりにも短絡的だ。現場を知らずに数字の解析だけで考えたひとの発想で、現実はそんな簡単なものではない。

筆者は杉並区在住だが、杉並区には大学病院や公立病院がないのでその代わりに民間の4病院がコロナを診ている(河北総合病院、荻窪病院、衛生病院、佼成病院)。コロナ検査なども河北総合病院だけで杉並区全体の半分ぐらいをこなしている。数日前に状況をお聞きしたところ、同じ敷地内にある本院(もともとは消化器病棟と循環器病棟などの1フロア)と分院(2F腎臓、3F内分泌・糖尿病、4F呼吸器の上層2フロア)さらには新館(もともと小児科病棟だったところの1フロア)を現在コロナ病棟にしている。 分院の内分泌・糖尿病病棟、呼吸器病棟がまるまるコロナ病棟になっているわけで、コロナでない内分泌・糖尿病、呼吸器の患者さんはいったいどこで診ているのだろう(おそらく残った消化器病棟と循環器病棟の一部に収容しているものと思われる)。これだけコロナに病棟を振り当てたら、もうほとんどほかの病気の治療は成り立たない。

となると、民間病院ばかりにコロナ病床の増設を押し付けずに、今こそ既存の公共性のある病院にこそ特化したコロナ専門病棟を広げるべきだ。河北総合病院を見習ってコロナ病棟をたくさん作ればいいだけのことだ。かつて 武漢で2000病床を2週間で作ったのは見事だったし、イギリスでも同様の対応はできている(ナイチンゲール野戦病院の設置)。それができないというのは言い訳だ。


4.コロナをインフルエンザと同じような対応にできるのか。

コロナはインフルエンザよりはずっと怖いウイルスだ。だから世界中があんなに警戒しているのだろう。インフルエンザと同じ扱いにしていいなどと言っている国はどこにもない。筆者は法律的にはインフレンエンザ並みにしてもういいと思っている。ワクチン接種のおかげでやっと開業医の半分を占める高齢の医者がコロナを診てもいい状況になった。しかし、十分な準備をして臨むことが絶対条件だ。唾液のPCRは比較的気楽にできるが、鼻咽頭の検体を採ったり、喉を診たりするときは今でも完全防護服の着用が必要だ。それを勘違いして無防備に患者さんを診たりしたら危険だしそうなる可能性が高い。
病院なら医療スタッフの教育もできるが、一匹オオカミの診療所の医師を教育できる人は誰もいない。また、医療機関に対して無料で何回もPCRができる助成を直ちに導入すべきで、現状では1回たりとも自分自身のPCR検査ができない。これまでもコロナ病棟で働いている技師や看護師が当院にPCR検査を受けに来ているのだ。なんと言ことだろう。そんなこともやらずに法律で義務付けだけして、診ないなら罰則を与えるなどあり得ない。 「法律、命令、罰則」など、先進国の採るべき方針とは到底思えない。優秀な人間が政治家を目指すような国にしなくてはいけないし、今の政治形態を大きく変えないかぎり、何も変わらないだろう。

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