[669](寄稿)医療あれこれ(その60)

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ペンギンドクターより
その1

皆様
 本日は雑多なニュースをお送りします。それだけでは、申し訳ないので、MRICの某保健所長の主張も転送します。保健所長は医師です。一般に臨床や研究職からの落ちこぼれなどのやる気がない医師のイメージが強かったのですが、下記の「某保健所長」は過去何度もMRICに意見を述べており、それだけでも異色の保健所長と思います。
 MRICに登場する意見と言っても、すべて傾聴すべきとは限りません。体制批判のみの素人の意見もあります。また専門家のようであっても、空理空論に近いものもあります。下記の「某保健所長」の意見は愚痴に近いものと言えますが、現状の一端はうかがえるようです。やはり、現場の率直な意見は説得力があります。(編集者註:次回掲載します)
 私の優秀な同級生2人が茨城県の保健所長を務めていたので、彼らから内容はある程度聞いていました。ただ、もう20年近く前の話です。その二人はある意味で「落ちこぼれ」ではありましたが、もともと能力はあるので、有力保健所長として活躍していました。所長のなり手がなく、一例をあげると彼らはM保健所長と兼務で小さな町の保健所長もこなしていました。暇だと言っていましたから、平時に縮小されるのはある意味で当然だったかもしれません。難しいところです。行政にとっては、「一匹狼」の傾向のある医師は扱いにくく、下記のような事態が起こるのでしょう。コロナ以後も保健所改革は容易ではないと思います。

 さて、「医療あれこれ」です。
●透析中止で患者死亡、病院と遺族が和解 裁判長「病院の説明不十分」
 事故・訴訟 2021年10月6日(水)配信 朝日新聞

 公立福生病院で2018年、腎臓病患者の女性(当時44)が人工透析の治療をやめたあとに死亡した問題で、遺族が病院側に慰謝料を求めた訴訟は5日、東京地裁で和解が成立した。桃崎剛裁判長は和解条項で「透析中止は患者の生死に関わる重大な意思決定で、病院側の説明や意思確認が不十分だった」と批判した。
 一方で、「病院側が透析中止を提案して死を誘導したとは認められない」とも説明した。和解条項はほかに(1)病院側が解決金を支払う(2)再発防止として患者が意思決定後も病状変化に応じて病院側が意思を確認する――など。
 女性は当時、医師と相談して人工透析治療の中止を承諾したものの、呼吸の苦しさなどから数日後に治療中止の撤回を申し出た。だが治療は再開されなかった。遺族はこの日、「患者がどんな状態でも言葉に耳をかたむけてほしい」とコメントした。

▼いかがですか。上記のニュースは毎日新聞がスクープした記事で、広く話題になりましたから、ご記憶の方も多いと思います。記事を書いた記者についてとか、病院側の発表の前の一方的な病院批判の論調、さらには透析医会、透析学会などの反応など、私もいろいろな側面から調査して皆様に結果を提供しました。落ち着くところに落ち着いたという感じです。
 私の今の考えを述べます。
 裁判官の「病院の説明不十分」というのは、自分が患者の立場に立てば当然出てくる意見です。しかし、福生病院の担当医師にすれば、腎臓外来もあり入院患者も診ている立場として、揺れ動く患者さんの気持ちに「いちいち付き合っていられない」というのも予想されることです。日常的に透析をしていた開業医の先生と患者さんとで、透析の意味を日常的に話しておいて欲しかったと言いたいと私は予測します。また、家族の関係においても、不自然な感じを私は持っています。確か息子が二人いたようですが、母親の状況に無関心だったように感じます。自殺未遂を起こしたという情報もありましたから、家族の中で浮いていたのかもしれません。死者に対して勝手な予測は許されませんが、実際に「がんの外科医」としてある時期最前線で仕事をしてきた者として、実に様々な現場、家族に出会った来ましたから。
 最近も、先日送信した「乳がん未治療の女性」との一年にわたるやり取りで、私は家族との関係が医療選択において大きな問題があると推測しています。私自身の周辺の人々を見ても、日常生活に追われる日々で、生と死の問題さらに家族関係の現状について、真摯に向き合ってこなかった日本の現状がうかがわれます。また私の「大言壮語」が始まったと思われるかもしれませんが、山田昌弘中央大学文学部教授(専門は家族社会学)の本を読むと、家族の危機はすでに到来しています。この件はそれぐらいとします。

 いよいよ衆議院議員選挙です。立憲民主党の議員の批判になりますが、ちょっと古い情報です。M3ネットワークで話題になっていて、もとはYAHOOニュースから拾ったスポーツ報知の報道のようです。保守系読売新聞が背景にあるという注意は必要でしょう。
●医師で議員のあべともこ氏、都で親子3人感染の40代母親死亡に「この女性の重症度は誰が診断したのか」
 2021年8月18日(水)配信 報知新聞社 
 立憲民主党のあべともこ衆議院議員が、8月18日、自身のツイッターを更新、東京都内で親子3人全員が新型コロナウイルスに感染し、自宅療養中に40代の母親が死亡したことに見解を述べた。

 小児科医として藤沢市に自身のクリニックを持つあべ氏。親子3人全員が自宅療養中に母親が死亡したニュースを引用し、「自宅療養という名で、不安と苦しさの中死亡したこの母親に保健所はどんな関与をしたのか?あるいは救急は対応できなかったのか、知事はきちんと説明すべきである。どこに問題があったのかをはっきりさせないで、酸素センターだ、抗体カクテル療法だと次を云々すべきではない」と記した。

 さらに、連続で「多くの人がこのお母さんの死に怒りと悲しみを持ってネット拡散していると思う。誰が自宅療養の指示を出したのか、この女性の重症度は誰が診断したのか、酸素センターというが誰がどうやって運ぶのか、とにかく抽象的なことばかりで現実の苦しみを知ろうとしない政治家はいらない」とツイートした。

▼このニュースに対する医師の反応は、①この患者さん、基礎疾患ありでワクチン未接種だそうです。もうすでに基礎疾患ありの人は申し込めばワクチン接種できたのに、様子見でもしていたのですかね。②このような後出しジャンケンの議論は最も恥ずべき、いまするべきではない行為だと思う。このようなことが起こらないためにどうすべきかを議論すべきではないか。賛成854、反対38。③じゃあ、あなたが診断したら助かったのか、と問いたい。④小児科医と政治家と兼業できる暇があるのか? などと批判が多いのは当然でしょう。
▼あべともこ氏は1974年東大医学部卒です。専門は小児神経科です。なぜ、上記のニュースを保存していたかというと、面識はありませんが、政治献金(寄附金)の依頼が昔私のところにも来たことがあったからです。私は献金しませんでした。理由は活動が一般的だったからです。以下はこのニュースを見たときの私の彼女に対する批判です。
(1)あべ氏は想像力が欠如している。「この女性の重症度は誰が診断したのか」という疑問ですが、当然保健所職員でしょう。職員がチョックした時、酸素飽和度(SpO2)が緊急入院させるほどではなかったから・・・・・という回答が予測されます。
(2)この患者さんと接触した職員はいるはずだが、この職員を個人的に探し出して責任を追及することは、絶対にやってはいけないことである。システムの問題を個人の責任の追及に向けることは、事故の防止にはつながらず、疲弊した職員の「自殺」をも起し得る暴挙である。そんなことを知らないあなたは、それでも医者か?
 と私は怒りを禁じ得ませんでした。立憲民主党のレベルがわかります。まさにあべ氏こそ「現実の苦しみを知らない政治家」だと思いました。
・・・

●日本の新型コロナブレークスルー感染の実態を調査
 国立国際医療研究センター・松永展明氏
 m3.com編集部 2021年10月3日(日)配信
 国立国際医療研究センターは9月29日、オンラインでメディアセミナーを開催し、同センターAMR感染症リファレンスセンターの松永氏が国内のいわゆるブレークスルー感染で入院した患者の実態を報告した。基礎疾患を有する高齢者の入院が多かったものの、非接種者に比べICU入室や抗ウイルス薬、抗体医薬の使用割合が少なかったという。
 (ブレークスルー感染とはワクチン2回接種後の感染をいう)
 以下見出し主体で内容の詳細は省略です。

◍非接種者に比べ感染が8分の1、入院・死亡は25分の1
 SARSCoV‐2ワクチンは他のワクチン同様、100%感染を防げるわけではないが、2回接種後感染時には症状が出ても軽いことが明らかである。アメリ疾病対策センター(CDC)での2021年9月20日時点でのブレークスルー感染コホート調査によると、入院患者の20%が死亡し、そのうち87%は65歳以上の高齢者である。
◍ブレークスルー感染による入院例の8割は基礎疾患あり。
◍ブレークスルー感染者は致死割合3分の1、 
 死亡例の解析では6例中2例が2回完了者で、その他は2回接種後14日以内の発症だった。6例の年代は60歳代から90歳代でほとんどのケースが複数の基礎疾患を有していた。
◍1回目接種後、2回目接種前の入院多い。

▼ワクチン接種は有効ですが、我々高齢者は接種後も三密は避けるということでしょう。

 今回はこのへんで。