[697](寄稿)「医療あれこれその61」

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ペンギンドクターより
その1

皆様
 日本において突如新型コロナ感染が減少して、その原因が何なのか、あちこちで取り沙汰されだしました。いかがお暮しでしょうか。私は相変らず「巣ごもり生活」を続けています。仕事においてもマスクはしていますし、病院での健診の仕事でも相変らずまずは検温をしたうえでの仕事です。ただし、公園散歩ではチラホラとマスクなしの人を見かけるようになりました。私は散歩中はマスクを口から外して歩いていますが、人とすれ違う時には口を覆います。一種の礼儀ですね。
 お隣の韓国では一日数千人の感染者も見られるようですし、ヨーロッパでの感染は増えているようです。
 転送するMRICの情報は北大の医学部生のイギリス情報です。(編集者註∶明日掲載します。)エディンバラには私も一度行ったことがあります。下の娘がグラスゴーの大学に所属していたので、夫婦で訪問し、そこから列車で一時間程度でのエディンバラを観光したのです。
 それはともかく、PCR検査がコロナ感染診断において最も信頼できる検査ですから、イギリスの例を見るまでもなく、いつでもどこでも気軽にPCR検査が出来るようにするしかないのは当然のように思います。もはや精度がどうのこうのという段階ではないと思うのですが・・・・・・。

 本日は、雑多な情報を送ります。順不同です。
●新型コロナ、変異株の病原性が明らかに
 専門誌ピックアップ 2021年11月5日(金)配信。 M3を経由しています。
 カナダ・オンタリオ州新型コロナウイルスSARSCoV‐2)変異株と初期野生株の病原性を後ろ向きコホート研究で比較。新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の症例データを用いて、検査でSARSCoV‐2陽性となり変異株検査を受けた患者21万2326例を解析対象とした。
 その結果、非変異株と比べると、N501Y変異株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株)陽性の調整後リスクは、入院リスクが52%(95%CI 42-63%)、ICU入室リスクが89%(同67-117%)、死亡リスクが51%(同30-78%)高かった。デルタ株ではリスク上昇がさらに顕著で、入院リスクが108%(同78-140%)、ICU入室リスクが235%(同160-331%)、死亡リスクが133%(54-231%)高かった。

●ゲノム修復困難で死滅? コロナ第5波収束の一因か 酵素が変化、変異蓄積
 2021年11月1日(月)配信 共同通信社
 新型コロナウイルスの流行「第5波」の収束には、流行を引き起こしたデルタ株でゲノム(全遺伝情報)の変異を修復する酵素が変化し、働きが落ちたことが影響した可能性があるとの研究結果を国立遺伝学研究所と新潟大のチームが30日までにまとめた。
 8月下旬のピーク前にはほとんどのウイルスが酵素の変化したタイプに置き換わっていた。このウイルスではゲノム全体に変異が蓄積しており、同研究所の井ノ上逸朗教授は「修復が追いつかず死滅していったのではないか」と指摘する。
 研究は10月に開かれた日本人類遺伝学会で発表した。
 この酵素は「nsp14」。ウイルスは増殖する際にゲノムを複製するが時々ミスが起きて変異が生じる。変異が積み重なるとやがて増殖できなくなるが、nsp14が修復すれば防げる。
 チームは、国立感染症研究所が公開する国内で検出した新型コロナのゲノムデータを分析。第5波では、nsp14に関わる遺伝子が変化したウイルスの割合が感染拡大とともに増え、ピークの前から収束までの間は、感染者のほぼ全てを占めていた。昨秋から今年3月頃までの「第3波」でも同様の傾向が確認できた。
 nsp14の遺伝子が変化したウイルスでは、ゲノムの変異が通常の10~20倍あった。
 チームは、人間の体内でウイルスに変異を起こして壊す「APOBEC」という酵素がnsp14を変化させたと推測。東アジアやオセアニアではこの酵素の働きが特に活発な人が多いという。

 ◆いかがですか。この情報はMSNでも話題になっていました。政治学者三浦瑠麗さんが批判的に「また民族の差異が登場した」とコメントしていたと記憶しています。コロナについて発表すれば、マスコミは地味な学会の発表でもすぐに飛びつく傾向がある今ですから、どれほど価値があるか、不明ではありますが、臨床現場で戦っている医師の「減少はワクチン接種が広がったせいではないか」という推測だけでは、急速な新型コロナの収束は説明できないので、興味深い仮説だと思います。
 しかし、お隣韓国の感染拡大の説明はどうなるの?・・・・・・など、予断は許されません。ワクチンの効果の減少が問題なっていますし、3回目4回目のワクチン接種も話題になっています。私は「巣ごもり生活」を続行し、当分は書棚の放置してある本を読んで読書記録に勤しむ日々です。
 
●患者1人あたり5916万円の国立病院も コロナ補助金「効果」に差
 2021年11月4日(木)配信 朝日新聞
 新型コロナウイルス対策に協力する医療機関に支払われる補助金をもらった国立病院について、受け入れたコロナ患者数と補助金の関係を財務省が調べたところ、病院ごとに大きなばらつきがあることがわかった。患者1人あたりの受け取り補助金が平均の6倍以上の病院もあり、財務省は「補助金の費用対効果の検証が必要だ」とする。
 この補助金は、コロナ患者のための病床を確保したり、コロナ対応の施設整備をしたりした医療機関に国が支払うもの。財務省が10月にあった有識者会議「財政制度等審議会」に出した資料によると、2020年度に患者を受け入れた国立94病院には計947億円が支払われた。
 同省が各病院の受け入れ患者数と補助金額を比べると、3病院では補助金9.4億~14.8億円を受け取ったが、患者数は25~36人にとどまり、患者1人あたりの補助金額が2610万~5916万円に達していた。
 1人あたり平均は944万円といい、多くの補助金を得た病院が必ずしも大勢の患者を受け入れたわけではない実態が浮かんだ。

◆この情報は財務省からの情報ですから、いわば身内の情報といえ真実でしょう。JCHO(地域医療機能推進機構)と同様に国立病院機構厚労省のお役人の天下り先であり、補助金獲得はお手のものです。しかしコロナ病床というのは、ベッドを確保してもそのベッドに見合うナースや医師などが配置できるわけではありません。コロナ患者が退院して、そのベッドの掃除にしても今までのように清掃業者に頼むわけにもいかず、1年余り前に放送されたNHKテレビによると、東京医科歯科大学病院では、直接コロナ患者を診察しない整形外科の医師が、病室の掃除をやっている姿が見られました。単科大学として結束の強い医科歯科だから出来ることで、東大などでは無理だなと私は見ていました。つまり、コロナ対応ベッドとして申請して補助金を獲得しても、すぐさまベッドに見合う患者を受け入れられるわけではないというのは実情です。となれば、国費ですから返還するのは当然です。
 末弘厳太郎(すえひろいずたろう)(1881-1951)という民法学で有名な東大教授がいましたが、彼の『役人学三則』には、役人というものについて、「専門性を追及しない」「法規を楯に形式的理屈をいう」「縄張り根性の涵養」といった役人の仕事にありがちな問題点を皮肉った文章があります。私はそれに加えて、「もらったものは返さない」という性質を加えていいのではないかと思います。東日本大震災の復興のための予算が余ったので、復興とは無関係と思える省庁の建物に復興予算を流用したというのが問題になっていたと記憶していますが、その後どうなったか、私は知りません。
 膨大な赤字が積み重なっている日本政府のこれからに不安を覚えます。コロナ予算も20兆円以上が余ったようですが、本来の趣旨と反する使われ方がされるのでしょう。絶望的です。公明党の主張する18歳以下に対し、一律10万円支給というのも、余っているコロナ関係の予算から?とか聞きました。ちょっと変です。

 前述した村上陽一郎編『コロナ後の世界を生きる――私たちの提言』(岩波新書)において
 阿部彩(社会政策学者。東京都立大学教授。子ども・若者貧困研究センター長。著書『子どもの貧困――日本の不公平を考える』『弱者の居場所がない社会』『子どもの貧困Ⅱ――解決策を考える』)さんが次のように述べています。

(p144)・・・・・・「緊急事態」は、永遠に続くわけではない。一時的なものならば、税金を湯水のように投入するのも、自らの身を切っての支援を行うことも許容範囲内ということか。しかし、「平時」の困窮はずっと続く可能性があるので、支援が始められない。今回のコロナの影響にしても、せいぜい一、二カ月で収まると思っているから、公共料金補助や家賃補助、一人当たり10万円といった「平時」では考えられないような政策が打ち出されているが、これが長期化すれば人々の考え方も変わるであろう。・・・・・・。困窮が病原菌という不可抗力の結果なのであれば、「救うべき」であるが、平時の困窮はそのような特殊な事情はないはずである。だから、困窮しているのであれば、それはその人の自己責任であり、同情の余地はない。・・・・・・。

 実際はコロナ禍は二年近く続いているわけですが、彼女の言いたいことはよくわかります。それはそれとして、公明党の提案は何だか「どさくさ紛れ」の予算の使い方のように思います。
 この話題は、この辺でやめましょう。
 今、健診の仕事の合間に、一時話題になった分厚い本文608ページのトマ・ピケティ『21世紀の資本』(2014年12月8日発行、みすず書房)を読んでいます。重い本なので寝転がって読むわけにもいかず、仕事の合間に理解できてもできなくても、少しずつ読み進めています。世界的な格差の拡大が統計的に明らかになっています。
 では今日はこのへんで。