広がる“中国化”その6
中国メディア企業を使った“宣撫工作”
新たな宣伝映像の制作
♪ああ 親愛なる中国よ♪
APタイムズが、新たな宣伝映像の1場面で「ノスタルジア・フォ-・チャイナ」を流しました。50年以上前にカンボジアで作られた歌です。独立の父、シアヌーク前国王が独立まもないころから、毛沢東と親密な関係を築き、お礼にと作った歌なのだそうです。李社長は「この曲には前国王だけではなく、多くのカンボジア人の思いもこめられています。中国へのノスタルジーに満ちた新しい時代が始まるのです」といい、この歌を歌う様子を撮影し、中国の建国記念日・国慶節に配信しようと考えていたようです。
世界で広がる市民の反発
しかしいま、世界各地で中国に反発する市民の声が広がっています。経済力を背景に、影響力を強める手法に、不満が高まっているのです。中国と親密な関係を築いてきたカンボジアも、例外ではありません。カンボジア軍の基地を中国軍が利用できる密約が交わされたと伝えられ、去年(2020年)、市民が抗議の声をあげました。警察は取り締まりを強化しています。
ASEANの国々の対中感情を調べたあるシンクタンクの調査によると中国の圧倒的な影響力を懸念する声は、カンボジアで9割近くに上り、ASEAN全体の平均を30ポイント上回っていたといわれてもいます。
このような反発が生みだされている一方で、ブログ[746]「広がる“中国化”その5」で紹介したようにフン・セン政権要人を抱き込んだ中国企業は宣撫工作のような攻勢をかけています。次に紹介するのはそれを象徴する一コマです。
国慶節を控えたこの日。プノンペンの独立記念広場に、ノスタルジア・フォー・チャイナを歌う様子を撮影するために、APタイムズのスタッフが集まっていました。広場には、歌を作ったシアヌーク前国王の銅像がありました。そこに突然、治安当局が現れ、撮影を中止しろという。
社員「止めろと言っています」
李社長「書類を見せてもダメなのか?」
カンボジア人社員「カンボジアと中国の友好を宣伝するんです。中国人はわざわざ時間を割いて来ているんです」
当局は、コロナ禍での集会は禁止されていると主張した。「これは妨害ではなく業務だ」と。
ここに誕生日パーティーの接待を受けた情報相の部下の幹部があらわれて「撮影させるんだ。さもないと彼らは上に訴える。それだけは警告しておく。後は知らないからな」
鶴の一声で、当局は引き下がリました。
情報省幹部はいいました。「彼らが両国の友好強化のためにシアヌーク前国王の歌を演奏してくれてうれしい。敵を作るより、味方を作る方が賢明だ」
政府高官の協力をとりつけ、撮影にこぎつけることができたのです。
♪ああ 親愛なる中国よ 私の心は変わっていない 片時たりともあなたを忘れはしない·······♪
アピールされる両国の友情。中国建国72周年を祝う横断幕が掲げられた。歌とともにネット上で拡散していく。
カンボジア人の日常生活の中にプロパガンダはしみ込んでいきます。
現代中国は「一帯一路」戦略の実現と土着化のための企業活動を世界各地で追求することをバックアップし、ネットメディア企業は収益をえているのです。
つづく