[751]中国農民工 故郷に帰る その1

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 2022年の世界は米中〈冷戦〉のなかで中国を軸として揺れ動くだろう。台湾海峡の政治的軍事的緊迫、一帯一路の拡大と軋轢、中国国内の格差拡大、労働者階級の鬱積する不満と圧政に対する反発。中国のリアルな現実を見ていきます。
 12月11日のNHKスペシャル農民工 故郷に帰る 〜埋まらぬ都市と農村の格差〜」を見ました。
 世界第2位の経済大国になった中国の農民はディストピア(暗黒卿)のなかにいます。番組はその現実をリアルに伝えています。映像を見た私の記憶と番組の解説に沿って、かつての「社会主義国」中国の農民の〝今〟と資本主義化し経済成長する過程で強いられた農民の困窮と苦悩の現実を見ていきます。
 中国の経済成長は1億5千万人の農民工によって下支えされました。
 その農民工たちが、いま、故郷に戻り、農業などに取り組み始めています。共産党政府は農民工に農村活性化の役割を担うよう呼びかけています。習近平が「今こそ農村の振興に皆さんの力が必要です」と辻説法のパフォーマンスをしている画像がアップされていました。
 
 故郷に帰る農民工たち
 衰退に歯止めがかからない農村
 
 埋まらない格差は、中国共産党にとって最大の課題のひとつです。貧しさから抜け出すため、都会へ出稼ぎに出た農民が故郷に帰って直面しているのは、荒廃しきった農村の厳しい現実。
 貧しい農村の解放を謳い、革命を成し遂げた中国共産党は1978年の鄧小平による改革開放政策の導入を結節点として資本主義への逆走を開始しました。
 2021年7月、共産党創立100年の祝賀式典で党の成果として習近平国家主席が最初に挙げたのは、貧困問題の解消でした。小康社会の「達成」を謳いました。

 習近平は言いました。「歴史的な絶対的貧困問題を解決し、いま意気軒昂として近代的社会主義強国の全面完成という第2の100年の奮闘目標に向けてまい進している」
 食べるものにも困る絶対的貧困の人口は、ゼロになったとされている。しかし、毎月の収入が1万8000円に満たない人口は、いまだ6億人。その多くが農村の人々です。
 そこで共産党が打ち出したのが「郷村振興(ごうそんしんこう)」というスローガンです。202021年2月郷村振興局を設立し農村の発展のために、農業や商売を始める人々に対して補助金を出したり、無利子の融資を行ったりして、農業の資本主義化を促進しているのです。
 NHKの取材班は現代中国の一農村の現状を伝えています。

内モンゴル紅石砬村(こうせきらそん)

 内陸部、内モンゴル自治区では、発展から取り残された村を多く抱えています。東部に位置する紅石砬村(こうせきらそん)では、30世帯が農業で暮らしています。
 この村で畜産業を営む張建平(ちょう・けんぺい)さん45歳は長年、農民工として出稼ぎを続けてきましたが、2年前、村に戻りました。
 育てているのは20頭の牛。肉牛の需要が高まるなか、大きく育てて売れば、故郷の新たな産業になると考えました。元手にしたのは、出稼ぎで貯めた金や、政府による無利子の融資あわせて350万円。村人1人も手伝いとして雇いました。張のように農村に移り、農業や商売を始めた人は、中国全土で去年1000万人に上るとされています。
 この日、張が訪れたのは、耕作放棄地になっていた畑。この土地を借りて、牛のエサとなる牧草を育てたいと、高齢で働けなくなった村人に持ちかけました。これまで小規模農家が多く、利益が上がりにくい構造だった中国の農業。張は少しずつ牧場の規模を大きくしたいと考えていました。
 中国農業は1978年の改革解放以後、人民公社方式による集団農業から生産請負制に転換し、農家が経営主体として復活しました。

張さんは言います。「畑は広ければ広いほどいいです。牧草を買わなくて済みます。牧場の規模を大きくして、村に雇用を生み出したい。」

 張さんは3ヘクタールの農地を年間5万円ほどで借りることにしました。

張「今は規模が小さくて牛の数が少ない。牛の数をもっと増やし、規模を拡大しようと考えている。」

 この村で生まれ育った張。14年前の冬、都会に出稼ぎに出なければならない事情を抱えていたのです。

つづく