[757](寄稿)HPVワクチンの接種

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ペンギンドクターより
その1(12月30日)

皆様
 毎回同じことを言いますが、寒いですね。
 立て続けですが、今年最後の医療情報をお届けします。
 子宮頸がんについてです。
 先日、私がK病院の病理科時代の「胎児のいる子宮頸がん」手術例の経験をお話しました。この例は子宮頸がんによる女性の死の危険とともに、生まれることを望まれていた胎児の死亡という悲劇を示しています。
 以下古いデータ(私は2013年のがん統計として2017年11月6日に皆様に送信しています)ですが、子宮頸がんの罹患率トップ5の数字を示します。

 子宮頸がん罹患率(人口10万人対)(国立がんセンター2017年がん統計より)
①40-44歳 30.195人
②45-49歳 27.070人
③35-39歳 25.789人
④50-54歳 22.521人
⑤30-34歳 20.229人
 比較のために乳がん罹患率を示します。桁違いに多いのですが、頸がんよりも高齢です。
①60-64歳 217.499人
②45-49歳 211.345人
③65-69歳 209.411人
④55-59歳 197.867人
⑤50-54歳 197.774人
 さらに比較のために子宮体癌罹患率も提示します。
①55-59歳 51.156人
②50-54歳 47.295人
③60-64歳 38.835人
④65-69歳 32.108人
⑤70-74歳 28.793人
 子宮頸がんと比較して、高齢であり妊娠可能年齢の女性はトップファイブに入っていません。
 乳がん子宮体癌もその原因が明らかになっていないのに比べて、子宮頸がんの主因は「HPV感染です」。もちろんタバコも一因です。がんの殆んどはタバコが関与していますが、唯一タバコが無関係という疾患が子宮体癌ですが、この話はポイントがずれるのでここまでとします。

 私の言わんとすることはおわかりでしょう。「少子化」を憂い、「人口減少に怯えている」日本政府・経済界はどうして8年半もの間、子宮頸がんワクチン接種の推奨を停止したまま放置してきたのか、私には理解できません。例えば、立憲民主党で今回当選した阿部知子議員は小児科の医師ですが、彼女が昔からHPVワクチン接種推奨の運動をしていたかどうか、寡聞にして知りませんが、一般に「リベラル」な方々やマスコミは、少数者の人権を守るとか、弱者に耳を傾けると称して、ワクチンに対して当初は否定的な言動が多かったと私は理解しています。
 医療界でも産婦人科特に婦人科の子宮がんを扱う医師は、HPVワクチンの接種の啓発活動をしてきていましたが、全体としては消極的だったと思います。
 少子化は、先進国では世界的な潮流です。旧態依然たる「男は仕事、女は家庭」という時代から取り残された「イデオロギー」に自民党の「一部」は執着しているようですが、もっと人口減の原因を調査研究する「まともな頭を持った政治家」はいないのか、私は絶望的になります。

 さて、転送する濱木医師の意見に加えて、具体的な先進国のデータをお示しします。国別のHPVワクチンの種別と接種率です。原文はもっと詳細ですが、表はうまく送信できないので抜粋としました。

オーストラリア:9価(2018年から9価のみ)、接種率女子:72%、男子:69%
米国:9価(2017年から9価のみ)、女子:56.8%、男子:51.8%
カナダ:9価(2015年に9価を導入)、女子87%、男子:73%
フランス:2価/9価(初回は9価)、男子は2021年導入、女子:23.7%、男子はデータなし
英国:9価(4価は2021年5月に終了)、男子は2019年導入、女子:66%、男子はデータなし
ドイツ:2価/9価、男子は2018年導入、女子:43%、男子はデータなし
デンマーク:9価(2017年に9価を導入)、男子は2019年導入、女子:67.8%、男子:37.8%
イタリア:9価、女子:31.0%、男子:25.5%
スイス:9価(2019年に9価を導入)、女子:63.4%、男子:37.4%
日本:2価/4価、女子:0.8%

 ご存じのように男性の陰茎がんの原因もHPVウイルスです。

 8年半前のHPVウイルスワクチン接種勧奨の停止当時の田村憲久厚生労働大臣は「自ら十字架を背負う」と最近述べたそうですが、キリストのように十字架を背負ってゴルゴタの丘を登り磔刑を受けるつもりなのか、反省という言葉よりも強い気持ちを表したつもりなのでしょう。聞いている私としては場違いなむしろ軽い発言として受取ります。情ない日本の現実です。

 今年はコロナを中心としていろいろしゃべりました。耳障りなことも多かったと思います。来年もよろしくお願いします。
    
(編集者註:濱木医師の意見は次回紹介します。)