[768]資本主義の危機


資本主義の危機

 新型コロナウイルスオミクロン株による感染の拡大に岸田政権の対応は事実上成りゆきまかせにしか見えません。感染力の強いオミクロン株の感染拡大はPCR検査体制をはじめ医療関係労働者の不足をうきぼりにしています。だれでもがいつでもどこでも検査診察治療が受けられるようにしなければならないのです。
 しかし政府は対応不能となっており感染症が広がっています。新型コロナ危機は労働者民衆の生活苦を促迫しつづけるでしょう。政府の新型コロナ対応で明るみに出されたのはこの資本主義社会の限界です。モノにせよサービスにせよ商品は雇用された労働者が働いて生産するのです。感染症に罹れば職場を休むしかないのです。政府は感染症に対応できる態勢をつくらなければ社会の維持はできないということはわかってはいるでしょう。最優先すべきなのは医療体制の確立です。しかし政府は経済合理性を度外視しては医療体制を確立することができないのです。それが絶対的な限界なのです。労働者を犠牲にしてひたすら我慢を強いるというのが資本家階級とその政府です。

 日経新聞が1月1日の一面に「資本主義 創り直す」と見出しをつけて「成長の未来図」を示しています。

 リードで「成長の鈍化が格差を広げ、人々の不満の高まりが民主主義の土台まで揺さぶりはじめた」と言います。
 私はこの一文を読んで「成長の鈍化が格差を広げ」というフレーズでひっかかってしまいました。トリクルダウン論のようです。賃金=「パイの分け前」論のようでもあります。経済の現状の見方が変だと思うので考えてみます。
 成長の鈍化というのはGDPの成長が緩慢になってきているということです。いわゆる付加価値が減ってきたのです。付加価値というのは「生産過程で新たに付け加えられた価値」という意味の言葉です。どこでどのように付け加えられるのかということはどの経済学者も言いません。自明の前提にされているのです。
 新たな価値は生産過程で労働者の労働力の使用価値を生産諸手段の使用価値とともに消費することによって生みだされます。付加価値が減ったのは資本家が得る剰余価値が少なくなったということに規定されているといっていいでしょう。

 格差の拡大は自然現象ではありません。

 格差とは簡単にいえば資本家が商品を生産し価値どおりに売って取得する儲けと労働者の賃金との差のこと指しているといっていいと思います。儲けは商品を売ってはじめて資本家の懐に入るのですが、その大きさは生産過程で生産される剰余価値の大いさに規定されます。経済成長の鈍化というのは本質的には搾取された剰余価値の総量の増えかたが緩やかになったということに起因するのです。

 しかし「成長の鈍化」と「格差の拡大」とは原因と結果の関係をなすわけではないのです。資本家の行為に媒介されているのです。資本主義を総体として見れば儲けが減った資本家は商品=労働市場において、いわゆるヒト・モノのコスト削減によって商品の価値構成の剰余価値部分を相対的に高める追求をします。つまり剰余価値の増加が相対的に減ってきている分を賃金抑制によって取り戻してきました。日本では30年間も実質賃金が増えていません。そして他方で資本家は労働時間を延長し剰余価値の絶対量を増やしたり、労働生産性の向上によって剰余価値を相対的に増加させた結果、商品を売って懐に入れる利潤は拡大し、労働者の賃金との格差が拡大しているのです。

生産された商品の価値構成は次の式で表されます。
W=c+v+m
cは商品市場で買い入れた生産諸手段が生産過程をとおして商品に移転した価値部分、ⅴは労働市場で買い入れた労働力の価値に該当する部分、mは剰余価値をあらわします。

 商品=労働市場で労働力と生産諸手段を購入した資本家が生産過程で労働力の使用価値を生産諸手段のそれとともに消費して商品をつくります。労働によってうみだされた剰余価値を含む新たな価値(v+m)は資本家が取得するのです。生産過程で労働は搾取されます。労働者は「疎外された労働」で生産した価値の分け前を受けとっているわけではありません。労働市場で労働力の価値のどおりに賃金を受けとっているのです。賃金は本質的に前払いですが、現実的には労働したことを見届けたあとで支払われるために労働の対価であるかのような仮象をとります。
 格差とは、資本家が買った労働力を消費して新たな価値を含む商品を生産し売って得た利益と、前もって労働市場で労働者が売り渡した労働力の価値の貨幣的表現である賃金の差のことです。

「不満の高まり」は資本主義社会の危機のシグナル

 経済成長しているというのは根本的には資本家が労働者の労働をより多く搾取しているということなのです。資本主義社会でうみだされた富=商品は労働者階級の労働の産物なのです。支配者階級である資本家によって労働者は搾取され、収奪されています。
 いま、コロナ危機のなかで貧窮と病に苦しむ労働者階級の姿がうきぼりになっています。
「成長の鈍化が格差を広げ、人々の不満の高まりが民主主義の土台まで揺さぶりはじめた」のではなく、成長が鈍化しているなかで資本家が搾取を強化し、賃金を抑制することによって格差が拡大し、犠牲を転嫁され生活苦に落とし込められた労働者民衆の怒りがポピュリストにとりこまれているということなのです。

 アメリカでは所得別人口の上位1%が稼いだ額の合計が全体の所得に占める比率は過去30年で14%から19%にまで上昇しました。それに対し下位50%は16%から13%に下がりました。(日経新聞による)

 この傾向は広がるでしょう。

 アメリカの労働者民衆のあの議事堂占拠行動は生活に困って高まった不満の直接的表出であり、トランプに期待をよせざるをえないのは悲劇的です。

 袋小路に入った資本主義の生き残りの模索の過程は、労働者階級への犠牲の転嫁の仕方を考案し実施する過程となるのです。

 労働者的団結を強化することが私たちの課題です。

ーーたたかう労働組合