[787](寄稿)医療あれこれ(その64)

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ペンギンドクターより
その1
皆様
 オミクロン株の感染は拡大して、ついに全国では1日10万人を超えましたが、沖縄県は減少傾向となってきました。オミクロン株の感染力は極めて強く、空気感染(飛沫核感染)御三家の結核・水痘・麻疹並みとも言われています。空気感染ということになると、飛沫核は空気中を漂うので、患者さんがいなくなった後にその部屋に入っても感染することになります。都会でいろいろな仕事に従事されている人々が感染を防ぐのは実質的には不可能とも言えます。しかもオミクロン株はいわゆる風邪症状(咳・痰・身体のだるさ・発熱)ぐらいで、発熱のないこともあるので、コロナ感染か否かの見極めは難しく、諸外国のようにマスクの着用や三密を避けるという施策を停止することもあながち責められるものではありません。したがって、基礎疾患のない若者を自宅療養とすることにおいて政府を批判することはいささか無理だと思います。また日々発生する10万人の感染者を臨時の施設やホテルに隔離することは全国的には無理でしょう。
 しかし、少なくともPCR検査や抗原検査などの新型コロナウイルス感染の有無をチェックする検査機器を用意することは不可能ではなかったはずです。この点では政府・厚労省の責任は重大です。世界の国ではそれぞれ日々何十万人、アメリカでは100万人単位で感染者がいたわけですから、当然PCR検査は数百万人ないしは一千万人単位で検査されていたのではないか・・・・・と考えます。「先進国」だったはずの日本の現状は?
 私と女房(元検査技師)とで話すことは、次のようなことです。
 新型コロナウイルス感染症が終息しても、次に別の感染症が来ることは確実だから、PCR検査の充実は絶対に必要だ、なぜその検査機器を用意しないのか、決して無駄にはならないはずだ。・・・・・ということと、私の意見ですが、パルスオキシメーターはネット上で安いものは2000円程度で買えるという現実をみれば、一億台用意しても2000億円ですむ、貸与したパルスオキシメーターが戻ってこないとブツブツ言うより、一気にみんなに配布すればいいのではないか。各家庭で使い道はいくらでもある、例えば、私は木曾駒ヶ岳にロープウェイで登った時持参して、標高2500メートルのホテルで調子の悪い子供がいた時、酸素飽和度を測定してあげた、低かったのですぐに下山したほうがいいと伝えた・・・・・・。何兆円もの国税が「闇の中」に消えるようなコロナ対策よりはるかに眼に見える政策ではなかろうか。そしてこれを機会に、在宅医療で日常的に使っていて、かつ一般の人びとにも使えるパルスオキシメーターの肺炎発見の意義を国民に周知すればいいはずだ・・・・・・。

 以下の転送する「山登一郎名誉教授」の主張は、以前から何度もMRICに登場していますが、もう一つ理解しがたいので皆様には転送しませんでした。今回は現場の和田眞紀夫医師の発言を補強する意見ですので、転送します。参考になれば幸いです。

 本日は個人的なことも含めて、医療あれこれ(その64)を送ります。
 この3月で、私は週一回勤務していた在宅医療中心のクリニック(17年間務めました)を退職します。まだ週二回の300床の病院の検診業務は続きますが、検診業務の対象は基本的に患者さんではなく健常者(高齢になればなるほど持病を持っていてその意味で勉強になりますが)中心です。ピロリ菌の除菌のための薬剤は便宜的に処方はしますが、これはあくまでも臨時です。従って、25歳から始めて約50年間におよぶ医師の仕事、すなわち医師・患者関係は終息を迎えます。実に様々な患者さんがいました。いわゆる「やくざ」さんも随分面倒をみました。苦情を言われたこともありますし、いわゆる医療ミスを自ら犯したこともゼロではありません。
 まあ、それでも訴えられることもなく何とかきり抜けて来ました。私の恩師の一人でもある昭和天皇を手術した森岡自治医大および東大名誉教授が、自分の後輩に当たる何人もの教授連中の退職記念会において「無事退職おめでとう。手が後ろに回らなくて結構でした」というのが、口癖でしたが、この20数年間で医師・患者関係は大きく変化してきたように思います。その大きな変化のきっかけは、都立広尾病院横浜市立大学病院の事件だと思います。しかしその前、私が県医師会の「医事紛争」担当をしたのが、25年ほど前からでしたが、その時はすでに変化が起こっていました。・・・・・・。
 しかし、それでも今回のように在宅医療に献身するまだ若い医師を射殺するという衝撃的な事件が起こるとは予測できませんでした。このニュースを聞いた時、私は何とも言いようのない「イヤーな感じ」にとらわれました。夜中に目覚めてしばらくねむれず、「何か防ぐ手立てはなかったのか。患者側の希望を聞いてあげてこの事件を防ぐ方法はなかったか」と考えました。しかし、少しずつ事件の全体像を知るに及んで、これは防げない、今後も起こり得る、根本的な、それゆえに長期間に及ぶ人間観・死生観を変えていく必要がある・・・・・。現状では殺された医師は真面目であったがゆえに運悪く殺人者に遭遇したとしか言えないと思っています。大阪の放火殺人事件も同様かもしれません。この話はここまでとします。

 暗い話ばかりですが、50年間のあいだに、ずい分医療も進歩したように思います。
 その分、膨大な医療知識が必要になりました。AIが必要だと私が以前から強調するのは、その膨大な医療情報の必要の故です。私は毎朝医師と薬剤師の国家試験問題のクイズを一問ずつ回答していますが、医師については正解率71%、薬剤師については44%前後です。すべて選択問題で当てずっぽでも当たります。私が医師国試の正答率が高いのは類似問題を経験しているからです。つまり、問題回答が1000問に近くなっているから重複も出てきています。コロナ感染で巣ごもり生活となってからは、二年ほど毎日一日一問の回答を続けています。それだけで700問以上になります。国試に出るパターンはほぼ決まっていて、幅広く深い知識がなくても正答が出来ます。しかしこれでは、患者さんを治療は出来ない、AIが必要な所以です。またこのクイズを経験することで、些細な症状で重大な病気が隠れていることを思い知らされて、もう現場の医師であることはやめようと思うようになったことも確かです。
 以下、元外科医で内科的な教育を受けたことのない私ですが、57歳から内科医に転身して、同僚の内科医からの知識とネットからの知識で75歳になろうとする自分自身の未来に起こりやすい疾患について思いつくものをあげます。

 まず認知症。これは長生きすればするほど頻度が高くなります。17年間に及ぶ外来でお馴染みのわが患者さんが次々と認知症で施設に入っていく事態となりました。
 もちろん「がん」は高齢者に多いのが常識です。ただし、子宮頸がんは妊娠可能な女性に多いということをお話しました。乳がんは若年から高齢者まで女性には圧倒的に多いのが現状です。前立腺がんはもちろん圧倒的に高齢男性に多いのは実感します。上記の女性のガンを除けば、がんは男性に女性の2倍程度多く、高齢者が圧倒的に多いのが現実です。急性リンパ性白血病は子どもおよび若年者に多いけれども。
 AF(心房細動)も高齢者で増加します。私のまわりの医師にも多く、私は気になって、アルコール摂取を一気に週2回純アルコール換算25㏄に落しました。アルコールはAFを増加させるというデータがあるからです。もともと最近は弱くなってきていましたから、アルコール摂取の減少は苦痛ではありません。
 AS(大動脈弁狭窄症)も超高齢者ではしばしば遭遇します。高齢者で収縮期雑音が出てくると一番にASを考えます。検診業務に携わるようになって、最初の二カ月で施行した心肺聴診の数はそれまでの30年間の数に匹敵するかもしれません。私はどんな軽微な症状、ただの風邪の若い人にも心肺聴診は欠かしません。今も心肺聴診の数は増加の一途です。異常は数百人に一人ぐらいでしょうが。
 MDS(骨髄異形成症候群)も高齢者に多く、時間の余裕のあるクリニックの外来では、私に相談に来た男性に説明したことがあります。
 整形外科の脊柱管狭窄症も多いですね。私もそうです。
 心筋梗塞・大動脈解離・脳卒中なども多いのですが、これは仕方ないですね。
 話は尽きません。10年あまりやった医院の一般外来は膨大な外来数でしたから、ゆっくり対応できませんでしたが、いい勉強になりました。内科に転身してから記憶するかぎり、医療ミスで重大な結果を招くことがなかったのは、幸いであり運が良かったということだろうと思います。まだあと二カ月あります。コロナ感染に注意し最後の「医師人生」を全うしたいと思っています。ああそうそう、私はまだ医師賠償責任保険(年間4万円強の掛け金です。払い続けていれば、昔の医療事故で訴訟が起こされた時にも保険金はおります。逆に払い続けていないと昔の事故には対応してくれません)は継続しています。
 きょうはこのへんで。急いだので誤字などあればご容赦ください。
つづく

編集者より∶「山登一郎名誉教授」の主張は次回紹介します。