[802](寄稿)在宅医療中心のクリニックでの経験

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ペンギンドクターより
その1
皆様
 今日はPCR検査を仕事としている会社の人の主張を転送します。それに加えて私自身の経験と推定をまじえた私の意見を送信します。
 
 先日もお話した私がパート医として働いている在宅医療中心のクリニックでの経験です。
 クリニックの隣の施設(グループホームで入所者は認知症の高齢者)で2月8日に職員のコロナ感染が発生し、翌日の2月9日(水)私の外来に85歳の施設の入所者が発熱して来院、抗原検査では陰性だったとお伝えしました。
 その後、保健所の指導が入り、平屋建ての施設を二つのフロアに分けて、行き来できないようにし、一方が濃厚接触者(この定義も変化していますが)及び感染者とし、一方が感染の可能性の少ない人とすることになりました。本来なら職員全員・入所者全員に抗原検査あるいはPCR検査を施行するのでしょうが、残念ながら検査機器、検査キットの不足のため検査できません。ひどい話です。そして予想通り2月14日92歳の男性が発熱、クリニックに来院し抗原検査陽性となりました。因みにワクチン接種は2回終了しています。超高齢ですが、施設にとどまり現在従来通りの生活をしています。
 さて、2月16日(水)私の外来の日に、やはり隣の施設の82歳の女性が発熱を主訴に抗原検査の依頼がありました。ナースが鼻咽頭から検体を採取して検査したところ「陽性」でした。パルスオキシメーターでは酸素飽和度は96%あり、正常と言えます。ワクチン接種は2回終了しています。施設にもパルスオキシメーターはあるはずです。患者さんは採取後すぐに施設に戻り、私自身はその方の顔も見ていません。ナースが電話で「陽性」と連絡すると、職員はやはりガックリした感じだったとナースが言っていました。院長によれば、18人の入所者を9人ずつ分ける形をとっているが、予備軍がいっぱいいるので、次々に陽性に出るのではないかと言っています。

 陽性患者が出た場合、クリニックでは「発生届」を提出することになります。私はパート医ですから、届は院長に任せてもいいのですが、私のモットーとして、私自身が何事も実際に経験しないと本当の理解はできないと分かっていますので、クリニックの抗原検査で陽性だった約10人ほどの記録のコピーを見、さらに該当患者さんの当クリニック受診の電子カルテを参照しつつ、記入していきました。
 以下は、その発生届の概略です。項目は私の判断で取捨選択しています。従って番号は私の恣意的なものです。

   新型コロナウイルス感染症 発生届
都道府県知事(保健所設置市長・特別区長)殿
 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項(同条第8項において準用する場合を含む)の規定により、以下の通り届け出る。
           報告年月日
 医師の氏名
 従事する病院・診療所の名称
 上記病院・診療所の所在地
 電話番号
1 診断した者の類型
・患者(確定例) ・無症状病原体保有者 ・疑似症患者
2 当該者氏名 性別 生年月日 診断時の年齢 職業
3 当該者住所
4 当該者所在地
5 保護者氏名など
6 症状
7 診断方法
8 初診年月日
9 診断年月日
10 感染したと推定される年月日
11 発病年月日
12 死亡年月日
13 感染原因・感染経路・感染地域
①感染原因・感染経路
 1 飛沫・飛沫核感染(感染源の種類・状況)
 2 接触感染(接触した人・物の種類・状況)
 3 その他
②感染地域
 1 日本国内(都道府県 市町村)
 2 国外
  詳細地域
  渡航期間
新型コロナウイルスワクチン接種歴
 1回目 ワクチンの種類、摂取年月日、
 2回目 同上
14 その他感染症のまんえん防止及び当該者の医療のために医師が必要と認める事項
 ・届け出時点の入院の有無
 ・重症化のリスク因子となる疾患等の有無
  有の場合は以下から選択
   悪性腫瘍・COPD・慢性腎臓病・高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満・喫煙歴・その他
 ・臓器の移植、免疫抑制剤、抗ガン剤等の使用その他
 ・妊娠の有無
 ・重症度
 ・入院の必要性の有無
 ・新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての時限的・特例的な取り扱いによる電話や情報通信機器を用いた診療の有無

 この届け出は診断後直ちに行ってください。

●必要な事項を記入して、往診から帰ってきた院長に見せて、院長のOKを得、ファックスにて保健所に送信しました。
 項目の一部は省略しましたが、それにしても煩雑で面倒くさいアナログ時代の遺物のような届け出と言えるでしょう。当クリニックでは10数例ですし、在宅医療が中心で外来診療を収入の糧としているわけではありませんから、報告が可能ですが、感染症外来を熱心に行なっている施設では、医師もナースも事務も猛烈な仕事量と言えるでしょう。「2類を5類に」「ただの風邪」としたくなる医療従事者が増加しているのも理解できるのではないでしょうか。

 ところで、高齢者・超高齢者の感染ですから当然重症化のリスク因子すなわち基礎疾患だらけですから、入院させた方がいいのではないかと思われるかもしれません。しかし、問題は認知症です。以前お話したように、馴染みの介護者でそれなりの意思疎通ができていた場合でも、マスクやフェイスガードをしただけで相手がわからなくなり、コミュニケーションは不可能になります。それ以上に患者さんは不穏になります。デルタ株の感染によるクラスター発生の有料老人ホームのケースでも、肺炎で基幹病院に入院させたことで逆に悪化した場合がありました。
 高齢者で認知症がある場合、馴染みの施設で看取るという選択もむしろ推奨されるのではないでしょうか。朝日新聞にありましたが、陽陽介護、つまり陽性の元気な職員が陽性の入所者をいつもと変わらぬお世話をするというやり方、あるいは職員が軽度の症状があって、検査すれば陽性に出ると思っても敢えて検査をしないというやり方、あるいは職員が軽度の症状があって、検査すれば陽性に出ると思っても敢えて検査をしないという選択もあり得るし、陽性と出て施設の運営が不可能になるとすれば、職員にとっても入所者にとっても、それが現実的なやり方とも言えます。そもそも検査しようにも検査ができない日本国ですから、日本国公認で都合がいいかもしれません。
つづく

編集者より
PCR検査を仕事としている会社の人の主張は次々回に紹介します。