[836](寄稿)ウクライナ情勢について

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ペンギンドクターより
その1

 ウクライナの情勢ですが、いくつかの本を紹介します。以前私が読んだことのある本です。

 私はプーチンは狂人でも病人でもないと思います。ソ連が崩壊した直後の猛烈なインフレ、通貨ルーブルが紙くず同然となり、通貨代わりにタバコのマールボロのみが購買力を持っていたという当時の状況からみて、プーチンによる強権的安定はロシア人にとって救世主でもあったと考えられるからです。手嶋龍一氏が言うように、「バイデン大統領がウクライナ救援にNATOは出動しない」と言わずもがなのことを言ってしまったことがロシア軍の露骨な侵略のきっかけになったこともあるでしょうが、いずれにしろ、確信犯として、プーチンのロシアはウクライナ侵略を始めたのでしょう。どのような形で終息するのか、私にはもちろん予測できません。プーチンが核を使用するのもあり得るかもしれません。そうなれば、当然第三次世界大戦につながることもあるでしょう。私としてはびくびくしながら見守るだけです。夜中に目覚めると、「人類は本当に近い未来に亡びるかもしれない」と眠れなくなり、まずはトイレに行って、気分転換を図る日々です。

 鈴木宗男氏の「プーチンは人情家」という発言や鳩山由紀夫氏の「ウクライナも昔の残虐行為を謝罪してから・・・・・」などという発言はピントがずれているような気がします。もちろん橋下氏のウクライナ出身の政治学者に「プーチンも70歳、そんなに長く生きるわけではないから、ここはとりあえず早く降伏したほうがいい」という論議をするのは、ウクライナの人びとに語る言葉ではない。失礼です。日本人同士でしゃべっているなら一つの意見で、私も一理あるとも思いますが。

 中村逸郎というロシア政治を専門とする筑波大学教授の言葉に違和感を持ったので調べてみたら、1956年島根県生まれで学習院大学法学部政治学科卒でロシアへの二度の留学経験のある人でした。著書もいろいろあり、専門家であることは確かですが、和平の仲介にトランプがロシアに行くことになる・・・・・と言ったとか、どうなっているのか、と心配になります。

 さて本です。

佐藤優『甦る(よみがえる)ロシア帝国』(2012年2月10日第1刷、460ページの文春文庫)

 初出は「文學界」(2007年10月号~2008年12月号)、単行本2009年6月文藝春秋刊。

 その中(p392~456)に、プーチン論 甦った帝国主義者の本性――文庫版のための増補 があります。

 この本の裏表紙のコピー(宣伝文)をそのまま引用します。

 外交官としてソ連崩壊を目の当たりにした筆者は、新生ロシアのモスクワ大学で神学を講義し、若者たちに空恐ろしさを感じる――「ロシアはいずれ甦り、怪物のような帝国になる」。プーチン大統領の出現でその恐れは現実化した! 今後のロシア帝国主義政策を理解するために必須の、ロシア知識人たちの実像を描き出す。

●ステファヌ・クルトワ+ニコラ・ヴェルト『共産主義黒書<ソ連篇>』(2016年3月10日第1刷発行、630ページのちくま学芸文庫

 原文はフランス語で1997年に発行されています。裏表紙のコピーを記します。


 1917年の革命によって生まれた史上初の共産主義国家<ソ連>。レーニン主導のボリシェヴィキは、国内の権力基盤を固めるべく、白軍や農民との戦いを開始する。そこでなされた仮借ない暴力と抑圧のサイクルは、やがて後継者スターリンにより大量殺人・テロル・強制収容所を軸とする統治形態へと高められることとなる。前代未聞の犠牲者数を出すに至った政治の淵源には果たして何があったのか。長きにわたり隠されてきた共産主義の犯罪を数々の資料から白日の下に曝し、世界に衝撃を与えた書。本篇では、ソ連史の中心を占める暴力の全過程を扱う。


 プーチンの出身母体であるKGBの前身は、レーニンが作った「チェーカー」(反革命、投機、およびサボタージュと闘う全ロシア非常委員会)に淵源をもっています。


●アンソニー・リード、デーヴィッド・フィッシャー『ヒトラースターリン㊤ 死の抱擁の瞬間』 (2001年6月25日発行、325ページのみすず書房の単行本)

●同上『ヒトラースターリン㊦ 死の抱擁の瞬間』(2001年10月10日第2刷発行、上下合わせて676ページです)

 原文は英語で1988年刊行です。㊦の裏表紙のコピーを記します。


 独ソ不可侵条約の締結からわずか1週間後の1939年9月1日、ドイツ軍は宣戦布告なしにポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が始まった。ヒトラースターリンは条約の秘密の付属議定書に、両国の東ヨーロッパでの勢力圏をすでに定めていた。

 「条約締結からの22カ月間を、多くの国家を駒に見立てて2人の独裁者が指した恐ろしいチェスの試合にたとえるならば、この戦争はそれぞれの軍隊を武器にして戦った2人の男の死闘だった」(本書、エピローグ) 

 下巻では、大戦勃発から、1941年6月22日、ヒトラーが周到な準備の後、条約を一方的に破棄してソ連を急襲した<バルバロッサ作戦>発動の日までを追う、この日、669日間の「ありうべからざる」同盟関係が終焉したのである。

 一方、不可侵条約締結についてまったく知らされていなかった日本の平沼騏一郎内閣は、「欧州の天地は複雑怪奇なる情勢」と慨嘆して総辞職、その後の日本軍の作戦が大きく左右されることになる。

 第二次大戦とはいったい何だったのだろうか。


●ノーマン・M・ネイマーク『スターリンのジェノサイド』(2012年9月10日発行、170ページのみすず書房の単行本)

 原文は英語で2010年刊行です。裏表紙のコピーを記します。

 1930年代初期から1953年に没するまで、スターリンは優に100万人を超える自国民を処刑した。さらに腹心の部下を通して、国の内外を問わず何百万という人びとが、民族・宗教・階級などを理由に犠牲になった――ウクライナ穀倉地帯の飢餓殺人、富農の撲滅、「有害」民族の極寒地への強制移住と死、ポーランド支配階級の抹殺(カチンの森の虐殺)、全政敵の粛清など、その全容が、はじめてコンパクトな一冊になった。

 1930-40年代初頭のスターリン体制下の殺戮を「ジェノサイド」と認めるかどうかは議論が分かれる。ネイマークはその理由として、大量殺人の根拠となった共産主義イデオロギーを批判することの歴史的な難しさと、国連ジェノサイド条約(1948年採択)が大国の思惑の産物で、政治・社会集団が対象から除外されたことを挙げる。

 その徹底した資料渉猟の末に、条約の「定義」自体の見直しを主張し、一連の行為をジェノサイドだったと明言する。

 殺戮の背後には、つねにスターリン個人がいた。この独裁者の成り立ちを探り、さらにヒトラーによるユダヤ人絶滅という「公認の」ジェノサイドを真正面から比較して、この議論の今日的な意味を問う。

 昔読んだ本であり、読書記録はあるはずですが、自分の感想は今回中止し、本の宣伝文のみ記しました。私は60歳を迎えるころから日本の歴史とくに近現代史を中心に勉強してみようと思い立ったのですが、そこから派生してヒトラーレーニンスターリンにも興味を持ちました。社会主義国は崩壊した形ですが、ロシアも中国も結局、地政学的な「ユーラシア主義」を掲げて旧ロシア帝国、旧中華帝国に戻ろうとするかのように見えます。

 私自身は今、ハナ・アーレント全体主義の起源』、向坂逸郎マルクス伝』、戸部良一・赤木莞爾・庄司潤一郎。川島真・波多野澄雄・兼原信克『決定版・大東亜戦争㊤㊦』を三冊並行して読んでいます。これらはロシアのウクライナ侵攻の前からの読書です。私は今74歳です。平均寿命まであと7年、いつまで本が読めるかわかりませんが、やれるだけはやろうと思っています。では。