[860]隠された広尾駅のロシア語表示


 JR山手線広尾駅の案内板のロシア語表示が紙で覆われ見えないようにされました。いたずらではなくJR東日本会社が利用者のクレームを受け意図的に行ったのだそうです。それを批判されたJR東は一週間後元に戻しました。
 私は本当に日本の国も戦時下なんだとつくづく思います。太平洋戦争下、墨で消された教科書の文字、敵性用語として英語を使うことを禁止された日常·······を連想します。4月16日の日経新聞「春秋」によれば、例えば野球の「ストライク」を「よし」、「アウト」を「ひけ」と言ったのだそうです。バイオリンを「瓢箪型西洋三味線」、ドライバーを「柄付き螺回し」といったのです。よく考えたものだと感心しますが、滑稽でもあり、怖くもあります。
 広尾駅の出来事を日経新聞はコラムで「ただただ情けない」と嘆息しています。
 日本政府は3月31日ウクライナの首都をキエフからキーウと呼び換えることを決定し発表しました。呼び名は政治的ではない学問的な理由であればどちらでもいいと思いますが、キーウへの呼称変更は反ロシア、ウクライナ国家支持の立場を明確にしたということを意味するのです。ロシア軍の侵攻によってはじまったロシア―ウクライナ戦争は米国をはじめとする西側諸国家とロシア・中国の東側との利害対立が絡み合って終わりが見えず、前線では日々ウクライナ、ロシアの双方の兵士、労働者民衆の命が奪われています。こういうときに日本政府がロシアに喧嘩を売るようなことをするのは犠牲者を出し続けている戦火に油を注ぐような行為です。
 呼び名の変更は一時的な経済制裁などとは違い、再変更されない限り今後ずっと呼び名は固定されます。
 日経新聞はこの決定に右にならえをしました。    
 「春秋」の横の記事の見出しは「ロシア、キーウ攻撃再開」です。日経新聞だけでなくメディア総体が国策として変更された呼び名キーウを当然のように使っています。経営体が権力からの事実上の強制に抗うのは難しいと思います。目をつけられます。今まさにウクライナの首都の呼び方をめぐって波風もたたず、国家の機関、メディア、企業などが一斉にキーウと呼びはじめました。教科書も書きかえられるでしょう。
 日本も戦時体制に入っています。

 今は、メディアの言うことを鵜のみにせず、冷静に理性的に考えなければ流されてしまう危険性があります。
 戦争初期の1937年頃の国民の日常生活と意識を本で読むと、普通の暮しと「戦争」が共存し同時並行していました。その時点では戦争の進行それ自体によって生活の仕方をかえることが強いられることはありませんでした。
 私は当時生まれていませんでしたが、今と似ているような気がします。
 今書いている「非国民的」文章でもとりあえず弾圧されることのない「平和と民主主義」の顔をした現代日本は、しかし、すでに戦争に片足を踏み出しています。
まずいと思う。