[894](寄稿)センダン。佐藤優の本のこと

ペンギンドクターより
その1

皆様
 五月も半ばを過ぎ、まもなくうっとおしい梅雨入りとなります。例年並みは6月7日ごろのようですが、今年は早いかもしれません。私たち夫婦は、今のうちにと近くの池や沼や公園に花々を求めて出かけています。その一つ、「センダン(栴檀)」を紹介します。例の「栴檀は双葉より芳し」のセンダンです。ただし実際には香りはありません。香りのあるのは「白檀」です。手元にある樹木図鑑によれば、
 ●センダン:センダン科センダン属。四国・九州以南の海岸近くに分布する。暖地性の落葉高木。高さは7~15ⅿ。本州伊豆半島南部にも自生しているという説あり。花期は5~6月で本年枝のわきから淡紫色の花がつく。花びらは5枚でまとまった花が長さ10~15cmの花房を作る。果実は長さ1.5~2cmの卵型で10~12月に枝先に多数つく。果実の付き方が「数珠(じゅず)」のように見えるところから「千珠」。この転訛である。

 私がこのセンダンを初めて知ったのは、広島駅南口のホテル「東横イン」の前の歩道の街路樹として大きな樹木(センダンという札がついていました)を見たときです。花はついていない時期でした。それで図鑑をみて大体の知識を仕入れていました。このように樹木については鉄道全線乗車や日本国宝建築物めぐり・日本百名城めぐりなどで旅をするその旅先で出会うことが多かったのです。
 ところが、一昨年我が住居のある市の公園散歩に行く途中に、無人の民家に名も知らぬ高木があり、たまたま茶褐色の果実がなっていました。こういう果実は結構あるので、樹木の名前はわからないまま、一年ほどが過ぎたころでした。大体月に一度ほどそのそばを通るたびに気になって、荒れたその敷地に入り、見上げては首をひねっていました。それをくり返しているうちに、いつだったかふっと「センダンかも!」と晴天の霹靂のように名前が浮かんだのです。そして、図鑑をみて花期を確かめ、それからはその時期になると頻回にそのそばを通って、ついに花を確認することができました。昨年の5月23日のことでした。本当に嬉しくて女房に撮影した写真を見せました。ただ、高いところにしか花がないうえに盛りを過ぎていて綺麗に取れてはいませんでした。
 そして、今年です。冬に白鳥をはじめとする水鳥がくる「城沼」を女房と歩いていたら、やはり茶褐色の果実のある樹木が目に留まり、「何の木?」と女房に聞かれたのですが、「葉が出て花が咲かなきゃわからない」と答えたものの、「ひょっとしてセンダンかも・・・・・」と伝えていました。そして、5月14日(土)に「城沼」を訪れたら、まちがいなく「センダンの淡紫色の花」が確認できました。そこで、人目も構わずちょっと木に登って近接した写真を撮った次第です。さらに5月18日には最初に見つけたセンダンを訪問して、高木全体に今を盛りと咲くセンダンを眺めてきました。本来暖地性の花が関東やや北にあるのも温暖化のせいかもしれません。そういえば最近、もともと沖縄に自生する「シマトネリコ」が近所の「庭木」として頻繁に見かけられるようになってきました。

 「センダン事件」はこうして一件落着ですが、このような樹木の話は「暗い日々」の中で一服の清涼剤となっています。女房も「肝機能異常」以来、連日の「運動のための歩数稼ぎ」に精を出すようになって、樹木や雑草の写真を撮影することが多くなり、私の植物観察に付き合ってくれるようになりました。めでたしめでたしです。

  ◆前回の佐藤優の本のことですが、追加です。
 橋爪大三郎佐藤優『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(SB新書、2022年1月15日初版第1刷)の目次を示します。
 第1章 経済の分岐点――「アメリカ一極構造」が終わり、世界が多極化する
 第2章 科学技術の分岐点――人類の叡智が、新しい世界を創造する
 第3章 軍事の分岐点――米中衝突で、世界の勢力図が塗り替わる
 第4章 文明の分岐点――旧大陸の帝国が、覇権国の座を奪う

 細かいことですが、この本の30ページに佐藤優の言葉で、
 「ロシアもまた、憲法上、交代するルールを定めても、結局は憲法改正するという形になって、事実上はルール自体がないに等しい。実はプーチンは辞めたくて仕方がないのですが、誰も辞めさせてくれないわけです」
という発言があります。ロシアの専門家として、橋爪氏に実情を教えるような発言で、私は違和感を持ち、読書記録に残しておきました。
 橋爪大三郎社会学者で、何でもよく知っていますが、本当に詳しいのは宗教関係でしょう。
 佐藤優も最もライフワークとしているのはキリスト教プロテスタント系の宗教学です。彼が外務省に入ったのも、チェコプロテスタント系宗教学のフロマートカを研究したかったからのようです。その関係で西欧哲学のすべて、アリストテレスヘーゲルマルクスなどにも詳しい人です。念願のチェコにも行っていますが、佐藤優は1991年のソ連の崩壊前後に、外交官としてロシアの要人と密接な関係にありました。その前後でモスクワ大学の学生にキリスト教の講義も依頼されています(勿論ロシア語にて講義)。またロシアのユダヤ人はイスラエルに出国した人が多く、彼の専門性からみてもユダヤ教の造詣が深く、イスラエル諜報機関モサド」の高官との個人的な付き合いが今も続いています。
 そのような背景からみて、佐藤優は専門家としての自負もあったと思います。しかし、3月初めに彼の発言は「ウクライナとロシアの戦争」では、早いうちにロシアが勝利するだろうと述べていました。大きく目算が狂ったと言わざるを得ません。今彼が何を考えているか、もちろん私にわかるはずはありませんが、病気もあるので、沈黙しているのかもしれません。
 とにかく、ロシアのウクライナ侵攻までは、米中戦争に関する情報・分析等、書籍は溢れていましたが、ロシアに関しては日本では少なかったように思います。廣瀬陽子氏や小泉悠氏などの例外もありますが。
 ただ、ヨーロッパでは2014年のロシアによるクリミア半島の併合で緊張感が続いていたように思います。また今回のプーチンによるウクライナ侵攻の遠因は、トランプの大統領就任にあるようです。ロシアによるアメリカ大統領選挙介入により、首尾よくトランプを当選させることができ、トランプとプーチンの会談でも、トランプをして「プーチンを信頼する」と言わしめたのですから、ハイブリッド戦争は大成功だったということでしょう。「ディール(取引)」専門のトランプはアメリカの国益をますます毀損したと言えるのではないでしょうか・・・・・・。きりがありません。
 このへんで止めておきます。とにかく気候変動は歯止めがきかなくなるようで、憂鬱です。
つづく