[895](寄稿)「ワクチン接種の副反応としての蕁麻疹?かと思ったら、『アニサキス』の感染だった」

ペンギンドクターより
その2

◆本日転送するのは、ワクチン接種の副反応としての蕁麻疹?かと思ったら、「アニサキス」の感染だったという日常よくある話です。まずは、基礎知識としてアレルギーの分類をお伝えします。実は医師国試にも時々このアレルギー分類が出題されるのですが、よく私は間違えます。免疫の知識は急速に進歩した分野でもありますが、学生時代の怠慢と外科医としてはそれほど重要な知識ではなかったこともあり、私は今もクイズでミスを重ねています。自分自身のためにも整理しておきます。一般にアレルギーは4つに分類されます。

 ●Ⅰ型:IgE抗体に結合した抗原刺激によりヒスタミンをはじめとする化学伝達物質が遊離され、標的臓器において薬理作用を示す反応で多くのアレルギー疾患が属する。【即時型、アナフィラキシー型】。アナフィラキシー気管支喘息アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー、薬剤・食物アレルギー。アナフィラキシーは短時間で致命的になることがあり、発症したら即座にアドレナリンの筋注をおこなわなくてはなりません

 ●Ⅱ型:標的細胞に対する抗体と補体による細胞融解反応でRh不適合妊娠などにみられる新生児溶血性疾患が代表例。【即時型、細胞障害性】。赤血球や血小板に抗体が結合しておこる。特発性血小板減少症。

 ●Ⅲ型:免疫複合体の沈着による臓器障害で多くの自己免疫疾患に見られる。【アルサス反応、免疫複合型、即時型】。血清病、リウマチ、SLE、糸球体腎炎、薬物アレルギー

 ●Ⅳ型:Tリンパ球による細胞障害の型でありツベルクリン反応あるいはウイルス感染細胞の除去がこの型に入る。【遅延型、抗体は関与しない。T細胞が抗原の情報を記憶した】。ツベルクリン反応、接触性皮膚炎、細菌・真菌・ウイルスなどとのアレルギー。

 以上が一般的な分類ですが、Ⅴ型も付け加えることがあるようです。生半可な知識ですみません。
 ●Ⅴ型:基本的にはⅡ型と同様ですが、受容体に対する自己抗体が産生され、受容体を持続的に刺激して細胞から物質が分泌される「バセドウ病」(甲状腺機能亢進症)が代表。

 アニサキスという寄生虫は90%が胃壁にくい込んで、Ⅰ型アレルギーを起こし、蕁麻疹や激烈な胃痛を起こします。
 私が清瀬市の国立療養所東京病院に在籍していたとき、同僚の呼吸器内科の女医さんが胃痛と嘔吐で朝早く受診して胃の内視鏡をしたところ、胃に白く細長い虫体を見つけ、摘出したことがあります。ご主人も医師で東京厚生年金病院の外科医だったので、そちらに電話したら、「ただ今内視鏡の検査中で、アニサキスが見つかりました」という「笑い話?」がありました。
 さらに虫体が胃を通り過ぎて腸にくい込むと、嘔吐などの腸閉塞症状を起こし、昔森繁久彌が名古屋の御園座?だったか、公演中に腸閉塞の緊急手術をしたとかいう話を聞いたことがあります。アニサキスだなと思ったことを記憶しています。アニサキスそのものは、時間が経過すれば死滅するので、腸にくい込んだ場合、手術しなくてもまもなく症状は軽快します。アニサキスとわかっていれば、痛み止めなどで経過を見ることができ、森繁久彌も手術しないですんだと言えるでしょう。

 コロナの副反応についてもいろいろありそうです。インフルエンザの時期の発熱患者さんには、ついついインフルエンザばかり考えて腎盂腎炎や肺炎などの細菌感染を見落とすから要注意というのは医師の間の常識となっています。
 では、以下の山本佳奈医師の文章をご覧ください。
           

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 ワクチン後のアレルギー症状の原因は?胃カメラアニサキスを発見

この原稿はAERA dot.(4月20日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2022041900060.html?page=1

ナビタスクリニック(立川)内科医
山本佳奈

2022年5月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 オミクロン株の流行を受けて適応されていた「まん延防止等重点措置」解除から約1カ月が経ちました。規制の解除や第6波のピークアウトのおかげでしょうか。定期的に外来を受診されている方からは、「毎日出社するようになりました」という声や「在宅勤務の割合が減りました」という声が多く聞かれるようになってきました。日中の街は、すっかり元に戻ったかのような人の多さです。朝晩の通勤電車では、残念なことに滅多に座れなくなりました。

 第6波はピークアウトしてはいるものの、新規感染者数は横ばいで推移している状況が続いています。風邪症状を認めて内科外来を受診される方も、ピークの時よりは減少したものの、そのような症状の方をみないという日はありません。PCR検査をすれば、3割程度で陽性が出る状態が続いています。

 Our world in dataで世界各国のコロナ新規感染者数のグラフをみていると、感染者数の違いはあれど、日本の流行の波は世界の流行の波と同様のパターンを認めているように感じます。

 もともと、ヒトコロナウイルス新型コロナウイルスではない)の流行には、季節性があるのではないかと考えられていました。国立感染症研究所の報告書によると、「ヒトコロナウイルス感染症の月別の報告数の推移は、おおむね1~2月に多く、3~6月に減少し、7~10月にかけて少なく、11~12月にかけて増加する傾向にある」とあり、夏季(7~10月)の平均報告数は冬季(12~2月)の10分の1程度であったといいます。

 日本と同じ北半球の温帯に位置し、年間を通じて気温の推移が比較的似ている米国においても、ヒトコロナウイルスの検出率は冬に高く夏に低いことが報告されています。ゆえに、北半球において、ヒトコロナウイルスは夏季に減少する季節性を持つ可能性があるのではないかと、考えられているのです。

 このような「ヒトコロナウイルス感染症」の流行の特徴と、パンデミックが起きてからの「新型コロナウイルス感染症」の流行の波を考慮すると、新型コロナウイルスの感染にも季節性の変化があってもおかしくないのではないか、と私は考えています。

 さて、3回目のワクチン接種が世界中で進んでいますが、世界中で新型コロナウイルスワクチンの大規模接種が開始されて以降、接種後の副反応の報告も次第に集まってきています。先日、在宅診療もされている内科の先生(以下、A医師)から教わった、「コロナワクチン接種後の蕁麻疹」についての症例があったのでご紹介したいと思います。

 ある日の深夜2時ごろのことです。目の周りや、手足、体幹部にひどい痒みを伴う赤く盛り上がった膨疹が急に出現したため、救急外来に70代の女性(以下、Bさん)が受診されました。お話を詳しく伺ったところ、Bさんは、救急外来を受診した日の前日に1回目の新型コロナウイルスワクチン(ファイザー製)を接種し、受診する前の夕食には友人が釣ってもらったヒラメを生で食べていたことがわかりました。

 A医師は、新型コロナウイルスワクチン接種によるアレルギー反応、もしくは生で食べたヒラメによる急性アレルギー反応による蕁麻疹と診断し、Bさんに対して抗アレルギー性緩和精神安定剤(ヒドロキシジン塩酸塩)の点滴を行いました。幸い、蕁麻疹は改善し、痒みもピークの時よりは改善したため、抗ヒスタミン薬(抗原抗体反応によって体内に過剰に生じたヒスタミンと拮抗的に作用して抑制する薬)を処方し、翌日の内科外来に受診するように伝え、Bさんは帰宅しました。

 翌日の午前、指示通りに内科外来を受診したBさんの目の周りや体幹、手足に生じていた蕁麻疹はすっかり消失。A医師が「蕁麻疹が落ち着いてよかったですね」とBさんに声をかけると、「昨日はなんともなかったけど、今朝から軽く胃が痛いんだよね……でもほんの少しなの」とおっしゃったといいます。その時、A医師は「もしかすると、生で食べたヒラメにアニサキスが寄生していて、そのアニサキスによる蕁麻疹だったのではないか」と疑い、消化器内科の医師に相談し、急遽、胃カメラをすることに。なんと、胃内にアニサキスが10隻も見つかったのでした。

 アニサキスとは、サバ、アジ、サンマ、カツオなどの魚介類に寄生する寄生虫(線虫)です。ヒトは、アニサキスが寄生した生または加熱が不十分な業界類を食べることによって感染します。
 
 これまで、アニサキス症はスペインや日本など、生の魚や調理が不十分な魚が伝統的に消費されている国に住む人々に限定されていました。2010年以前に報告された約2万件のアニサキス症うち、なんと90%以上が日本からの報告であったといいます。しかしながら、近年は世界中の多くの国からアニサキス症に関する症例が報告されています。アニサキス症を発症する人口も増加傾向にありますが、改善された輸送システムや国際市場の拡大と生魚の消費の増加、人口の移動などがそれらの要因として考えられています。

 驚くべきことに、ワシントン大学は、1978年から2015年の調査期間中にアニサキス類は283倍に増加していたことを報告しています。アニサキスが大量に発生した要因として、気候変動、肥料や流出水による栄養分の増加、同時期の海洋哺乳類の増加などが考えられていますが、実態は不明です。

 蕁麻疹は、肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなど炎症を引き起こす物質が放出されることにより引き起こされるアレルギー反応です。皮膚の一部が突赤くくっきりと盛り上がる膨疹と呼ばれる皮膚症状が特徴です。感染症、薬剤、食物、心因性因子、アレルゲンなど、多くの因子が病蕁麻疹を引き起こす要因となることが知られています。

 ワクチンの接種が要因となり、蕁麻疹が引き起こされることも報告があります。ワクチンに含まれるチメロサールやアルミニウムなどのアジュバンドホルムアルデヒド抗生物質ポリエチレングリコールなど、複数の添加剤が関与していることが指摘されています。世界で大規模接種が進む中で、新型コロナウイルスワクチン接種後に生じた皮膚症状の一つとしての蕁麻疹もすでに報告されています。

 アニサキスによるアレルギー反応については、1990年、日本から初めて報告されました。アニサキスによる症状は、蕁麻疹、胃腸症状(嘔吐、下痢、腹痛など)、アナフィラキシーショック、呼吸停止など、さまざまです。生ではなくしっかり調理されたアニサキス汚染魚を食べた後でも、アレルギー症状がみられたことも報告されていますが、全て解明されている訳ではありません。世界中から報告がなされるようになっている今、アニサキス症はホットトピックの一つと言えるでしょう。

 アニサキス症の場合、胃の内視鏡を施行し、胃内にいるアニサキスを摘出しないといけません。つまり、アニサキス症によるアレルギー反応と蕁麻疹では対処法が異なるということです。どうしても、ワクチン接種後に生じた症状は「副反応ではないだろうか」と考えがちです。Bさんのケースは、ワクチン以外の他の要因であるのではないかと考えながら問診することが大切だという学びを、改めて私に教えてくれたのでした。

 気候変動によりアニサキスが増加している可能性も指摘されているアニサキス症。これからは、より気をつけて診療に励みたいと思います。

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