[907](寄稿)COVID-19 、エマニュエル・トッド


ペンギンドクターより
その1

皆様
 いよいよ6月に入りました。新型コロナウイルス感染も落ち着いてきています。東京にいる娘たちも、そろそろ出かけたくなったせいか、K市や那須に行くのはどうかとラインで伝えてきていますが、私は断っています。病院で接する検診受診者のこともありますし、ひと月ほど前には病院職員が感染しました。クラスターにはなりませんでしたが、仕事上感染機会は極力避けたいので、「もう少しの辛抱だ、秋になれば落ち着くと思う」と伝えて、娘たちに会うのも控えています。
 理屈っぽいことを言えば、医療逼迫の状況において「若い人と高齢者のどちらを治療優先するかの選択では、やはり若い人を優先すべきだ」と考えます。つまり命の選別をするとすれば、経済力や社会的な「有用性」などということでなく、単純に年齢の若い人の治療が優先というのが、一番スッキリしています。もっと長く生きる可能性がある人が生き残るべきです。その中で、年寄りがCOVID‐19から生き残る方法は、「感染しない」ことです。だから、私は東京にも行かないようにしていますし、娘たちにも会わないで過ごしているわけです。まもなく75歳の私ですが、まだ死にたくはないから。

 25歳の時に「ソ連崩壊」を「予言する」本、『最後の転落 ソ連崩壊のシナリオ』(藤原書店 2013年1月30日初版第1刷発行)(原本は1976年に発行されている)を書いたエマニュエル・トッドは、歴史人口学者です。彼は1970年前後のソ連における「乳児死亡率」の異常な増加から、17世紀のイングランドやフランス、そして古代インドと、ソ連の「現在」を並べて、ソ連崩壊を予測したわけです。歴史人口学者の面目躍如です。詳細はいずれ機会があれば述べますが、日本での歴史人口学の創始者と言えるのは、慶応義塾大学教授だった速水融氏(2009年文化勲章受章)であり、その弟子が、NHKテレビの「英雄たちの選択」のMCであり、「感染症の日本史」(文春新書)を書いた磯田道史氏です・・・・・・。
 トッドに戻りますが、多くの世界の知識人が、「コロナ後の世界」に大きな変化を予測している中で、トッドは新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響は大したことにはならないと、それを否定しています。その理由は、実にシンプルです。
 COVID‐19により死亡するのは高齢者であり、やがて死亡することになっている高齢者の死亡がCOVID‐19により少し早くなっただけであり、人口構成の大きな変化は来さないからだと言うのです。確かに説得力のある意見です。
 彼は、『老人支配国家 日本の危機』(文春新書2021年11月20日第1刷発行)という本も書いています。

つづく