[929](寄稿)本の紹介 黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い――コロナ治療薬とワクチン』

ペンギンドクターより
その2
 
 さて本日は、一冊の本の紹介をします。新型コロナウイルス関連です。●黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い――コロナ治療薬とワクチン』(中公新書、2022年5月25日発行)です。この本が書かれることは、本人から予告されていたのでいつ出るかと待っていたのですが、ようやく出版となりました。いい本です。まず著者の経歴です。以前にも紹介しましたが、くり返します。

 ▲黒木登志夫:1936年東京生まれ。東北大学医学部卒業。1961-2001年、3カ国5つの研究拠点でがんの基礎研究を行う(東北大学加齢医学研究所東京大学医科学研究所、ウィスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)、専門英文論文300篇以上、2000-2020年、日本癌学会会長、岐阜大学学長、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)ディレクター、日本学術振興会学術システム研究センター顧問を歴任。

 著書:『がん細胞の誕生』朝日選書1983年、『科学者のための英文手紙の書き方』(共著)朝倉書店1984年、『がん遺伝子の発見』中公新書1996年、『健康・老化・寿命』中公新書2007年、『落下傘学長奮闘記』中公新書ラクレ2009年、『知的文章とプレゼンテーション』中公新書2011年、『iPS細胞』中公新書2015年、『研究不正』中公新書2016年、『新型コロナの科学』中公新書2020年、『知的文章術入門』岩波新書2021年、ほか


 現在85歳か86歳ですから驚異的です。上記の本のうち、私が読んだのが1983年『がん細胞の誕生』と2020年『新型コロナの科学』ですから、その間に37年の月日が流れています。著者の知力と体力はまさに「化け物」と言えます。今回の本の内容も素晴らしいものです。こういう人もいるのですね!!


 ●目次を示します。それぞれの章にそれぞれ1・2・3・・・・と項目が分かれているのですが、数字の標題を省いて列挙します。


  はじめに

 第1章 パンデミックは続く、変異も続く

 変異ウイルスは忘れないうちにやってくる/第5波、AY.29デルタ株/第5波はなぜ急速に減少したのか/第6波、オミクロン/GOTOキャンペーンとオリンピック

 第2章 ワクチンの基礎知識

 ワクチンはなぜ効くのか/ジェンナーの肩の上に立つ/厳しい臨床試験と審査

 第3章 ワクチン開発物語

 mRNAワクチンの開発/ついに95%有効のmRNAワクチンができた/DNAワクチン/ほぼ出そろったコロナワクチン

 第4章 ワクチンをめぐる「困った問題」

 ワクチンはいつまで有効か/変異ウイルスに対する有効性/副反応は我慢する/健康に有害な反応/ワクチンを信用しない人々、反対する人々/ワクチンは努力義務

 第5章 日本のワクチンはなぜ遅れたのか

 日本のワクチン接種が遅れた理由/ワクチン接種予約の遅れ/日本はなぜワクチン開発に出遅れたのか

 第6章 治療薬への期待

 感染初期に使われる薬/中等症Ⅰ、Ⅱから重症までの治療薬/サイトカイン・ストーム治療薬/日本発の治療薬

 第7章 医療逼迫はなぜ起こったか

 日本の病院と病床/国際的に見た日本の医療/コロナ専用病院が必要/疲弊する医療現場/医療逼迫のための処方箋

 終章 コロナ禍の終わりに向けて

 終わりの始まり/ベスト・プラクティス7、ワースト・プラクティス7


 おわりに

 引用資料、人名索引、事項索引

 終章のベスト・プラクティス7とワースト・プラクティスは著者の独断と偏見を恐れぬ検証結果とのことですが、項目を抜き書きします。

 ベスト・プラクティス7

 ●国民●医療・介護スタッフ●公務員●全国知事会●エッセンシャルワーカー●学生●オンライン会議

 〈特別賞〉大谷翔平

 ワースト・プラクティス7

 ●GOTOキャンペーン●医療逼迫●PCR検査●ワクチンの遅れ●リスクコミュニケーション●専門家の「未必の故意」①ワクチン接種に積極的に関わらなかった②医療体制の問題に積極的に関わらなかった③PCR検査抑制の片棒を担いだ④GOTOキャンペーンに加担した●政府と官僚の縦割り行政と無謬性神


 批判すべきところは批判する見事な本です。特別賞「大谷翔平」がいいですね。大谷翔平のおかげで暗い自粛生活に一点の青空を見たということでしょう。

 新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)がやや落着きを見せる一方、プーチンロシアのウクライナ侵攻により、世界政治・経済が揺れ動く中で、日本人の悪弊である「人の噂も七十五日」が「蔓延」して新型コロナウイルス感染の経験が忘れ去られてしまうことが危惧されます。「他の国より死者が少なかったことは我々の対応が良かったから・・・・・・」と「専門家?」は言い出していますし・・・・・・

つづく
明日は先日の山本加奈医師の続編です。