[976](寄稿)本の紹介 山下真一『資源カオスと脱炭素危機』

ペンギンドクターより
その2

ここで一冊の本を紹介します。
 山下真一『資源カオスと脱炭素危機』(日経プレミアシリーズ477、2022年7月8日第1刷)
 山下真一氏は、日本経済新聞社 編集 金融・市場ユニットシニアライター。1964年生まれ。1987年日本経済新聞社入社。証券部記者、シカゴ支局長、証券部次長などを経て、東京編集局法務報道部長。その後、デジタルメディア局次長、副ユニット長。2020年から現職。著書に『オイル・ジレンマ』(日本経済新聞出版)がある。裏表紙のコピーを記します。

 「時代遅れ」と切り捨てたはずの化石燃料が、ロシアのウクライナ侵攻で改めて脚光を浴びている。時代は逆流し、グローバルな脱炭素への取り組みは後退するのか。本書は、エネルギーを中心に混迷する資源の動きを追い、いま世界で何が起きているのかをわかりやすく解説する。
   本書の主な内容
プロローグ 脱炭素でも化石燃料に脚光の皮肉
 第1章 原油のカオスが始まった
 第2章 石炭、天然ガス不都合な真実
 第3章 金属もカオス時代に入った
 第4章 食料高騰のカオス
 第5章 環境重視か資源確保か

 ロシアがウクライナ侵攻したというニュースを聞いた時、皆様にも言いましたが、これで「SDGsなど吹っ飛ぶ」と思いました。しかし戦争以前にすでに「脱炭素」の試みは相当無理があったということをこの本で知りました。例えば、シェール革命のおかげで、アメリカが世界一の産油国になったのですが、アメリカではガソリン価格の高騰でバイデン政権が窮地に追い込まれているという現実があります。それはガソリン価格が高騰したら、需要供給の原理から、原油増産につながるのに、長期的に化石燃料は減産ということが明確になっているので、増産のための投資を誰もしない・・・・・・。だからアメリカでは物価が高騰していてもそれに対応できない。FRB金利をあげるけれども、それは景気後退につながるだけで物価は下がらない・・・・・。いよいよトランプ再登場の恐れも出てくる。・・・・・・。
 資源についていえば、ニッケルとかリチウムとか、脱炭素に必須の金属は、ロシア・中国が資源の多くを握っている。日本の立場は難しいようです。

 204-205ページには、著者のこんな文章があります。
 資源はカオスの時代に入った。不要とされた化石燃料に依存せざるを得ない矛盾。脱炭素時代に簡単に増産できない現実。鉱山に逆風が吹く一方で、EVを中心に金属需要が爆発的に拡大するジレンマ。食料の増産を阻む肥料高騰の影。期待の高まる再生可能エネルギーに吹く逆風。
 環境重視か、資源確保かの問いはゼロエミッションの2050年まで続くかもしれない。


 この本では原子力発電のことは触れられていません。資源を輸入に頼る日本はどうすればいいか。一つの方法としてはリサイクルでしょうが、私は暗澹たる気持ちになりました。
 ではまた。

編集者より
次回、次々回で東大生留年問題について、金田北大医学生と尾崎医師の意見を紹介します。