[979]スクリューフレーション

 
 スクリューフレーションという言葉がメディアで使われています。「中間層」といわれる労働者の生活水準の低下を意味する「スクリューイング」と物価上昇を意味する「インフレーション」との2つが同時に起こる経済現象を指す造語です。
 スクリュー(screw)という単語は通常は船を動かすモーターの力を伝えるネジという意味をもちますが、派生して圧迫する、しぼりとるという意味でも使われています。とすれば、スクリューイングとは労働者がしぼられる、ないしは締めつけられることです。
 資本家、経営者が新型コロナ感染症対策で経済活動を止めることによって原油や食料の通流が滞ったあと今急速に需要が増して物価が上がったところで、ロシア制裁による供給減によってさらに値上がりに拍車がかかっています。
 中間層が困っているというより労働者は厳しい生活を強いられています。
 朝日新聞インタビューで「消費者の節約傾向は強まりますか」と聞かれた第一生命経済研究所の首席エコノミスト永浜利広さんは次のように言います。

 「これまで節約傾向は強かったが、変化の兆しはある。日本はデフレだったからモノをすぐ買わなくても値段は上がらなかった。今のうちに買わないと値段が上がるとなれば、消費が一時的に盛り上がる可能性がある。すると企業はもうかるので、賃金も上昇すれば好循環になる。来年の春闘はとても重要になる。」
 
 しかし企業はもうかっても賃金を上げません。来年の春闘は確かに重要ですが、消費が盛り上がれば企業がもうかる→賃金上昇とはならないのです。労使協調主義にはまった労働運動を変革しなければ賃上げは勝ちとれません。
 さらに永浜さんは「賃金上昇には何が必要でしょうか」と聞かれて次のように答えています。

「日本の経営者の、自社の従業員が他社に移る危機感の低さが根底にある。雇用慣行が原因で労働市場流動性が乏しく賃金の上昇が抑えられている。転職者の所得税を優遇することで労働市場を活性化させることが賃上げにつながるかも知れない。」
 ここでいわれている雇用慣行とは、終身雇用制のことでしょう。終身雇用制だから賃上げが抑制されているというのは短絡しています。労働市場の活性化とは解雇と雇用を頻繁に行うことです。転職すれば所得税が下がる仕組みをつくれば労働力を失いたくない経営者は賃上げをするようになるというのは机上の空論です。解雇、離職のすすめにしかなりません。
 失業者が増えることになります。労働者の闘いを抜きに賃上げはありません。