[981]知床旅情


 日経新聞私の履歴書」で俳優の山崎努さんのエッセイが連載中です。面白いです。苦労したことの描き方が正直に、美化しないで書かれているのでなんだか身近に感じられます。
 8月12日の第11回で、「知床旅情」の来し方を書いています。森繁久彌即興曲で戦争に征く若者に手向けられたものだといいます。知りませんでした。
 2作目の出演映画『地の果てに生きるもの』の撮影を振り返って書かれています。少し長い引用をします。

 「2作目の『地の果てに生きるもの』では森繁久彌さんの即興の能力にびっくり。
 あの名曲『知床旅情』はこの映画の宴会シーンで森繁さんが即興で作詞作曲したものである。撮影中に久松静児監督が突然、『ここでひとつ歌が欲しいな。繁さん、何か歌え』と言った。場面は、知床の漁師の息子(僕の役)の出征を祝う宴。森繁さんは土地の匂いのする歌をイメージしたのだろう。セットのちゃぶ台に紙片を置き『······知床の』『······岬に』とエンピツで書きつけ、口ずさむ。昼食休憩があり、そして出来上がったのがあの曲。森繁節で見事に歌った。
 だからあれはもともと、我が子を戦場に送る惜別の曲だったのである。あの場に居合わせたひとももうほとんどいなくなったと思うので、生き証人として記しておく。」

 私が学生時代、校歌のようにコンパの締めにみんなで歌ったあの歌がそういういきさつで創られた曲だったとは、なるほど。
 時局が厳しいわりにはどんよりした世相のいま、山崎務さんのエッセイは、若かりし頃の•勢いのあった社会と自分を想い出させてくれます。