[985](寄稿)コロナ禍で過ごした1年目の大学生活

ペンギンドクターより
その2
 東大理科三類の杉浦さんの件ですが、昨年の12月26日にコロナ禍の学生生活の一例として皆様に彼の大学生活を送信していました。私自身すっかり忘れていました。再送信します。

編集者註∶
 東大の杉浦さんは大学当局による留年決定の取り消しを求めて19日東京地裁に提訴しました。
頑張ってほしいです。

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 コロナ禍で過ごした1年目の大学生活

 この原稿はWeb医療タイムス(2021年11月17日配信)からの転載です。

 東京大学理科三類1年
 杉浦 蒼大

 2021年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 ●オンライン講義と並行、現場に赴く

 私はこの春に上京してきた大学新1年生です。コロナ禍の影響により、入学以来大学の講義のほとんどがオンラインで開講されてきました。
 こうしたコロナ禍での大学生活は毎朝キャンパスに登校する必要がないため、学期中にオンライン講義と並行してさまざまな場所に赴くことができる絶好の機会です。
 実際に、この半年間私は福島県の医療現場にたびたびお邪魔し、日本のコロナ対策の最前線で勉強する機会をいただきました。
 ワクチンの一般接種が開始された今年5月、今後のコロナ対策の在り方に強い関心があった私は福島県相馬市の集団接種会場を訪れました。
 相馬市は、ワクチン接種の方式に国が原則として示した事前予約制を用いず、相馬モデルと呼ばれる独自の地区割当制を導入したことで知られる自治体です。
 この判断は功を奏し、相馬市は日本髄一の接種スピードを達成しています。私は医学生として接種会場の手伝いをしながら、まさにその現場を目の当たりにしました。

 ●翻訳作業で学んだ復興の歩み

 その後も手伝いに参加する中で、会場でワクチン接種を担当されていた坪倉正治先生とお会いしました。坪倉先生は、10年前の震災時に原発事故発生後いち早く現地で内部被爆検査を行い、得られたデータをもとに根気強く住民説明会をされた医師です。
 そんな先生から最初に与えられた仕事は、相馬市復興10年ダイジェストという冊子の英語翻訳でした。
 この翻訳作業を通じて震災後の相馬市の歩みを知り、原発事故の避難時に浮上したさまざまな医療課題を学んだことで、「未曽有の災害に対して誰も答えが分からない中、放射線量や抗体価の地道な測定が必要となる」「避難や自粛による健康2次被害が無視できない」など原発事故とコロナ禍は共通する部分が多い災害であることを知りました。

 ●国内最大規模のコホート研究に参加

 そして9月から現在に至るまで、坪倉先生が主導する国内最大規模のコロナワクチン抗体コホート研究をお手伝いしています。
 主には、抗体検査に用いる採血スピッツの作成や問診表データベースの作成などの作業に取り組みました。この研究は今冬の3回目接種を見据えたもので、2度のワクチン接種を終えた福島県民約2500人を対象に3カ月おきの採血を計5回実施し、血液中の抗体価の推移を分析するものです。
 この検査の結果、中和活性の値は2回目接種により大幅に増加するものの、接種後150日以上経過した人の中和活性の平均値は60日未満の人と比べて約3割まで減少していることが判明しました。
 また、ワクチン接種により獲得される中和活性の値は高齢であるほど低く、その後下がりやすいことも確認できました。
 こうした傾向から、一部の高齢者や2回目接種から約5カ月以上経った人は、ワクチンの効果が低下し十分な免疫力をもたない可能性があるため、第6波に備え早急な3回目接種の開始が必要だと結論付けられました。
 そして実際にこの研究成果に基づき、立谷秀清全国市長会会長から岸田首相に3回目のワクチン接種体制を12月までに整える要請も出されました。日本の今後のコロナ対策を左右しうる社会貢献度の高い研究に微力ながら携わることができ、とても貴重な経験となりました。
 このようにここ半年間の私の大学生活は、いろいろな意味においてコロナが中心でした。キャンパスを飛び出し医療現場を訪れたことで、コロナ禍による大学の活動制限は結果的に学業にとってプラスに作用したと実感しています。
 これまで私が医療現場でお世話になったすべての方々への深い感謝の念を忘れず、今後もより一層精進していきたいと思います。

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