[1008](寄稿)医療あれこれ その67

ペンギンドクターより
その1
 
皆様
 朝夕はさすがに少ししのぎ易くなってきました。いかがお暮しでしょうか。
 本日は、添付ファイルに先日まで尾身茂氏が理事長をしていたJCHO(地域医療機能推進機構)の令和3年度の財務諸表からの抜粋を載せました。(編集者註∶次々回紹介します。)JCHOは旧社会保険病院・旧厚生年金病院・旧船員保険病院が合体した病院連合です。厚労省のお役人たちの有力な天下り先でもあります。以前より情報公開をしているので、誰でもJCHOのホームページから閲覧可能です。私自身が管理職としてかなりのことを知っていたこともあり、毎年財務内容をチェックしています。多少参考になれば幸いです。
 
 末尾で転送するのは、4回目ワクチンについてのお奨めの主張です。高橋謙造教授も最初私は酷評しましたが、以後勉強されたようで主張がしっかりされてきたように思います。参考になれば幸いです。
 
 本日は医療あれこれ(その67?)として、雑感を述べてみたいと思います。既報のその後を含みます。
東大理Ⅲの学生の留年について
 ご存知の方も多いと思いますが、留年となった学生さんが留年の処分の取り消しを求めて裁判を起こしました。その件でMRICでもいろいろな意見が寄せられています。理Ⅲの学生さんを応援する意見が多いのは、MRICの考え方から当然でしょうが、ちょっと気になった主張がありました。
 広島大学医学部3年の医学生からの意見(MRICに寄稿された)です。実は留年の対象となった学科を担当していた「助教」(彼が実際の点数をつけたらしい)が広島大学理学部の卒業生だったことから、広大医学部生はその助教に対し批判的な議論をしています。広島大学の教育などにも言及して、その助教を批判しているのです。これはまずいと感じました。
 私は、今回の問題は実際に点数をつけた助教に対する批判よりもむしろ教養学部長の「弁明?」に見られる東京大学の「官僚的体質」を批判するべきだと思います。学科の「助教」がつけた点数の取り扱い以前に、このコロナ禍において大学の授業や試験について学生の苦労を理解し柔軟な対応を学部当局がすることが求められているはずです。
 実際に民事裁判が起こされたので、当然担当した「助教」の先生は裁判で事情を聴かれることになると思います。一方、教養学部当局は、推測ですが、現場から上って来た点数は上部で変更するわけにはいかない・・・・・・等の意見を述べることになるでしょう。となれば、弱い立場にある「理Ⅲの学生」と、もっと弱い立場とも言える広島大学理学部卒業で東大教養学部の「助教」との「対決?」となるのではないかと危惧するのです。
 つまり、私の癖とも言える「想像力の過剰で」話が飛ぶのを承知で言えば、理Ⅲの学生は留年してもいずれはいい医者になれるでしょう。一方、「学閥」の横行する今の日本において、広島大学理学部卒業の東大教養学部のある学科の実習ないし試験の担当をした若い研究者の将来を危惧するわけです。裁判というものは一般人には「非常事態」です。まして応援する人もいる理Ⅲの学生さんと比べて、どういう判断があったのかは知りませんが、助教の先生がつけた点数がこれほどの事態になるとは本人も予想はしていなかったでしょう。大学当局はえてして冷たいものです。助教の若い研究者の今と未来を危惧します。
 
②先日、塩野義製薬の抗ウイルス薬エンシトレルビル(ゾコーバ)の緊急承認制度における「承認保留」の情報をお伝えしました。その後の情報です。
 ◍感染症学会と加療学会、緊急承認を求めて提言
 厚労相に4項目から成る主提言提出、SNSで問題視する医師も
 レポート 2022年9月3日(土)配信(m3.com編集部)
 日本感染症学会と日本化学療法学会は9月2日、加藤厚労相に「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」を直接提出したと公表した。「早期にウイルス量を低下させる抗ウイルス薬への緊急承認制度の適用、もしくは承認済の抗ウイルス薬の適応拡大を真剣に検討すべきであり、国の決断が求められます」など、主提言は4項目から成るが、厚労省の審議会で継続審議中の薬に言及があったことから、SNS上で話題になり、問題視する複数の医師が発信する事態になっている。
 提言は、日本感染症学会理事長の四栁宏氏と、日本化学療法学会理事長の松本哲哉氏の連名。
 以下は省略しますが(今回は長くなるので)、私の感じたことをお話します。
 
 「塩野義のゾコーバは症例を増やして次回審議会の10月になっても、新たな有効性を示唆するデータが集められないということが分かったのかもしれない。そこで学会に泣きついた・・・・・・」
 実はこの抗ウイルス薬「ゾコーバ」の治験責任者が上記の感染症学会理事長の四栁氏です。
 
 ◍非科学を蔓延させるな!ゾコーバを巡る2学会の提言の問題
 薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会委員として審議に参加した立場から
 オピニオン 2022年9月4日(日)配信 山梨大学学長島田眞路、同大学医学部附属病院医療の質・安全管理部特任教授荒神裕之
 
 ◍2学会「提言」を補足説明、「製薬企業等への利益目的ではない」
 ゾコーバの臨床症状改善に期待、「提言提出に役員から反対意見なし」
 レポート 2022年9月8日(木)配信、m3.com編集部
 
 ◍学会提言がTwitterで大炎上、医療崩壊にすり替えた国産コロナ薬への便宜では?
 2022年9月9日、ケアネット バズった金曜日(ジャーナリスト村上和巳)
 
 以上、肝心な報道内容については省略していますので、「何の話?」と首をかしげる方が殆んどでしょうが、要するに新型コロナウイルス感染症に対する国産抗ウイルス薬を早期に承認して実際に使用開始することを可能にするための「緊急承認制度」が創られたにもかかわらず、有効性が十分認められないと、「継続審議」となってしまった。それで、2つの学会が厚労相に提言を出した。4つの提言とあるが、その中の一部に「ゾコーバ」の承認を早くしてくれと受けとめられかねない文章があった。それに対し、審議に参加していた山梨大学島田学長が「2学会に批判」を加えた。2学会はあわてて「補足説明」を出して「製薬企業への利益供与ではない」と弁明した。ジャーナリスト村上和巳氏の「レポート」は以前皆様に紹介しました。
 この騒動は、どうみても2つの学会が異常です。日本感染症学会理事長四元氏が塩野義のゾコーバを中心になって治験(承認されるために臨床試験を行なっている)を推進しているわけです。
 こういう状況において「学会」が登場するというのは、日本の医療界がまともな思考をしていないという証明になります。日本感染症学会は、SARSCoV‐2(新型コロナウイルス)のPCR検査においても厚労省に迎合する見解を述べたことは2年余り前のことです。いわば札付きと言えます。
 「ゾコーバ」で前にも言いましたが、気の毒なのは、オミクロン株が弱毒なので風邪と同じで薬剤の効果があったのか否か判定が困難なことです。考え方としては、有効性が十分証明されなくても緊急ですから「まずは認可して使用してみて、二年後に無効だったら取り消す」という可能性もあるでしょう。そのへんを期待している関係者もいるのではないかと思います。でも、2学会の提言は、むしろ10月の再審議でのゾコーバ承認を困難にしたような感じがします。
 要するに、オミクロン株は「風邪」みたいなものとしたら、「風邪の特効薬」がないのは当然ですから、「ゾコーバ」は当初から受難の薬だと言えるのかもしれません。もっと重症の変異株が登場したら、ゾコーバも明かな有効性が認められるかもしれません。
 安部元総理の国葬、旧統一教会の問題・・・・・などなど、何だか嫌になってきます。 
 
 コロナがこのまま落ち着いてくれれば、つまり「ゾコーバ」などの抗ウイルス薬が完全に不要になってくれて、高齢者も堂々とクラス会ができればいいのですが。ではこのへんで。