[1025]危機に立つ「中流」

 9月20日の夜NHKスペシャルで「危機に立つ“中流”」というタイトルで労働者の生活の危機がドキュメント形式で放映されました。私はこれを見て様々なことを考えました。感想を述べつつ紹介します。

 

 NHKはこの番組をプロローグで次のように紹介しています。

 

――危機に立つ“中流

かつて一億総中流と呼ばれた日本で、豊かさを体現した所得中間層がいま、危機に立たされている。世帯所得の中央値は、この25年で約130万円減少。その大きな要因が“企業依存システム”、社員の生涯を企業が丸抱えする雇用慣行の限界だった。技術革新が進む世界の潮流に遅れ、稼げない企業・下がる所得・消費の減少、という悪循環から脱却できずにいる。厳しさを増す中流の実態に迫り、解決策を模索する2回シリーズ。

 

「生活が悲惨な感じでもありませんでしたが、中流の定義は自分の中ではもう少し上のイメージでした」

 

正社員として働き続けてきた55歳の夫とその妻。

これまでの生活を振り返って、こうつぶやきました。

 

住宅ローンの残りはおよそ900万円。

貯蓄も十分とはいえず、定年後も働き続けるつもりです。

 

かつて“一億総中流”と呼ばれた日本社会は今、どうなっているのか。独自に行ったアンケート調査の結果も踏まえて考えます。

(社会部記者 宮崎良太、佐々木良介、大阪放送局・コンテンツセンター第3部 馬宇翔ディレクター)

――

私の意見∶

 冒頭で紹介された中年の夫婦の会話は1991年のバブル崩壊前に高卒で就職し、日本の経済発展と停滞の歴史に翻弄される正社員労働者の生活実感を象徴していると言えるのではないでしょうか。

 番組ではふれませんでしたが、労働運動の観点から言えば1989年の連合結成を境として労働運動総体が労資協調路線に傾き労働者階級の利益は企業利益に従属させられていったことがこんにちの労働者の生活状況をもたらしました。

 私は企業経営に協力することが労働者の利益になるという考えにもとづく労働運動の流れに逆らってたたかってきましたが、流れは止められません。

番組の紹介に戻ります。

 

NHKのまとめより

上がらぬ基本給

東京都に住む小沢清さん(仮名・55)。高校を卒業後、自動車関連の会社に正社員として就職。

 

当時はバブル絶頂期。毎年、基本給もボーナスも上がり続ける時代でした。

 

21歳のとき、妻の恭子さんと結婚。3人の子どもに恵まれました。

27歳でマンションを購入。子どもが望む場所に家族で旅行に行くのが毎年の恒例でした。

 

世間で言われる“中流”の暮らしを送っていける実感がありました。

 

ところが、こうした生活は長く続きませんでした。日本経済が低成長の時代に入るなか、給料が伸びなくなったのです。

 

入社後には上がっていた基本給は、この20年で5万円しか上がっていません。業績に応じた成果給も下がりました。

 

最高で700万円以上あった年収は、現在およそ500万円。子どもの大学などの奨学金や住宅ローンの返済、それに医療費。この間、税金や社会保険料の負担も増えています。

派遣社員などとして働く妻の年収250万円もあわせ、家計をやりくりしています。

「結婚したときは景気がよくて給料がどんどん上がっていく時代でしたので、先は心配していなかったですね。本当であれば買ったマンションを売って一軒家を建てたいなと思っていたんですけど、そこまでいかなかったです。生活が悲惨な感じでもなかったですが、毎年旅行に行ってとか、貯金もいっぱいあってとか、50歳くらいでローンが終わって、とか。中流の定義が自分の中ではもう少し上のイメージだったんです」

以下つづく