[1027]危機に立つ“中流” その3

 

その3

 「危機に立つ“中流”」に慶応大学の駒村康平教授がコメントしています。ソ連邦崩壊後、経済のグローバル化のなかで日本の資本家、経営者は国際競争から遅れ経営危機を招きました。日本の経営者は雇用形態を非正規雇用に切り替えたり、年功序列制を見直し成果主義賃金制度を取り入れることを通じて賃金を抑制して危機をのりこえようとしましたが、それは労働者間に深刻な格差を生み出しました。駒村教授は「社会に不満と不安がたまって社会が分断されていく懸念が高まる」と述べています。番組のまとめを引用します。

 

社会にどんな影響が

賃金が上がらず、“中流”を感じられない。こうした状況をどう捉えたらよいのか。

雇用問題や経済政策について研究している慶応大学の駒村康平教授は次のように言います。
慶応大学 駒村康平教授
バブル崩壊後、グローバル化が進むなか、日本企業は稼ぐことが難しくなり、基本給を上げずに人件費を抑えたり、内部留保をためたりする流れが強まった。賃金が上がらないと安定した収入が望めず将来展望が持てなくなる。すると消費の減少や少子化などに結び付くほか、社会に不満と不安がたまって社会が分断されていく懸念が高まる」
そのうえで、駒村教授は、日本全体の課題として捉える必要があると指摘しています。
慶応大学 駒村康平教授
「労働者が、安心して将来設計を描けるような社会にしていくことが重要だ。そのためには企業も目先の利益だけではなく労働者の立場や状況も想像しながら経営を考えていくことが大事だ。一方で労働者側も自立した人生を設計するために自分のキャリアとスキルアップにより関心を持たないといけない。国は働く人の生活の見通しがつくように安心を保障するような仕組みを作らなければならず、中間層を復活させるという目的に政策を集中させる必要がある」
 “中流”が危機に至るまでには複雑な要因が絡み合い、その解決の道筋も簡単ではありません。


私たちの暮らしに関係するこの問題、どう考えればよいのでしょうか。

 

私の意見∶

 駒村教授は「経営者は企業も目先の利益だけではなく労働者の立場や状況も想像しながら経営を考えていくことが大事だ」と言います。それはその通りだと思います。そして「労働者側も自立した人生を設計するために自分のキャリアとスキルアップにより関心を持たないといけない」と言います。しかしそうすれば労働者はさらに分断され競争に追い込まれることになります。さらに疲弊し、格差も広がります。

 資本家はジョブ型雇用の賃金は職務給なのだから異なる職務に格差があるのは当然だというでしょう。 

岸田式「新しい資本主義」 

 岸田首相は9月22日のニューヨークでの講演で「年功序列的な職能給をジョブ型の職務給中心に見直す」と述べました。     

 賃金の観点から言うと、ジョブ型雇用を企業に導入するのは賃金原資を抑制し配分の仕方を職務ごとに差別化するということです。

 現在の経済危機の中で資本家・経営者は全体としてこの30年間の賃金抑制策を変えることはないでしょう。賃金原資総額を抑え、労働者へのふりわけ方を年功序列型から職務型に変えていくということにすぎません。

 駒村教授が言う、労働者がキャリアとスキルアップの努力をすべきだという意見はジョブ型雇用に合わせる努力をすることの勧めです。

 これでは労働者階級総体の貧困化と格差が拡大し、労働者は労働過程で疲弊が深まる一方です。

 資本家は労働者の闘いが弱ければ、攻撃を強めます。連合指導部はリスキリングなどから脱落した労働者にたいするセーフティーネットづくりを要求していますが、彼らはジョブ型雇用制度についてセーフティーネットが必要なほど過酷な雇用形態であるという見方をしているということです。わかっているのならまず、賃金制度の改悪そのものに反対する意志を固めたうえで政府、経団連、個別経営者と交渉しないと、この30年の後退を繰り返すことになると思います。

註∶ジョブ型雇用についてはこのブログの[867]ジョブ型雇用を参照してください。