[1090](寄稿)医療あれこれ(その71)ー「アナフィラキシー」の件

ペンギンドクターより

その2

 コロナ関係ですが、愛知県愛西市における11月5日のワクチン接種後死亡の42歳女性の「アナフィラキシー」の件です。情報は取捨選択しています。

◆ワクチン接種後死亡の42歳、エピネフリン静脈投与試みるもできず
 厚労省審議会、「エピペンの配置、有効期限など啓発も」
 レポート 2022年11月11日(金)配信 千葉雄登(m3.com編集部)

■報告医1の第2報(昌子正實注:1報より詳細のようです)
●14:18頃 ワクチン接種。本人は体調変りなしと答えた。
●14:20頃 待機場所に歩いて移動。
●14:25頃 咳が出始めたため看護師が声をかけ前方に歩いてくるも、途中で座り込んでしまう。看護師が車椅子で介助し救護室に移送。その際に、「接種前から体調が悪かった」という訴えを看護師が聞いた。看護師より「気分が悪い人がいる」と呼ばれて医師が救護室に向かった。 

 14:28‐29頃 初診時、顔面蒼白・呼吸苦あり。明らかな粘膜所見なし・皮膚所見なし・掻痒感なし。消化器症状訴えなし。聴診では明らかな喘鳴は聴取できず。意識はあるものの呼吸促拍しており、会話は単語程度で断続的にできるのみ。バイタルチェックを指示し、SpO260%台と判明したため酸素5リットル投与開始、救急要請、血圧などその他のバイタルチェックを継続。
●14:30頃 バイタルチェック中に泡沫状のピンク色の血痰を大量に排出。次いで鼻腔からも血痰が溢れ、意識レベルが低下したため臥位にする。
●14:34頃 呼吸停止・総頚動脈/そけい動脈触れずCPR(心肺蘇生)開始。
●14:35-36頃 AED装着。ショックの必要なしで、CPR継続。エピネフリンを静脈投与しようとするも静脈路確保できずCPR継続。
●14:40頃 心拍再開・自発呼吸再開するも、あえぎ呼吸であり、14:42頃再び心肺停止となりCPRを再開。ほぼ同時に救急隊接触し、14:55救急車に同乗し搬送。救急車内でもCPR継続するが心静止状態で瞳孔散大、対光反射なし。
●15:15頃 3次救急病院に到着し、引継ぎとなった。予診票上の留意点として、糖尿病を記載。
 
■報告医2の報告
 ワクチン接種当日15:15、隣接市の新型コロナワクチン接種会場から心肺蘇生患者の救急搬送を報告者の医療機関救命救急センターにて受け入れた。到着時、心肺停止状態で、心電図波形は心静止であった。心肺蘇生を継続し、ルート確保のうえ、アドレナリン1㎎を投与し、挿管管理を実施した。アドレナリン1㎎を計8回投与するも反応はなく、同日15:58死亡確認となった。
 死亡時画像診断を実施し、高度肺うっ血像認めた。病理解剖は実施せず。救急隊から、推定体重110㎏との情報があった。以前のかかりつけ医からの情報で、既往として高血圧症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群があった。救急搬送時の所見としては、高度肥満があり、皮膚および粘膜病変は認めなかった。接種会場での状況について、ワクチン接種前から呼吸苦があったとの情報と急変時に泡沫状血痰があったとの情報があり、「急性心不全」を死因とした。

◆ワクチン接種後死亡の42歳「躊躇なくアドレナリン筋注すべきだった」
 愛知県医師会が検証、最重症のアナフィラキシーショックの可能性も
 レポート 2022年11月17日(木)配信 千葉雄登(m3.com編集部)

 愛知県医師会は11月17日に記者会見を開き、42歳の事例について、ワクチン接種後であり最重症のアナフィラキシーショックの可能性が強く疑われることから、「アナフィラキシーが疑われる場合は、診断に躊躇することなく、アドレナリンの筋肉注射をすべきだった」との見解を公表した。ただし、医師が呼ばれた時点でアドレナリンが投与されたとしても、最重症のアナフィラキシーショックであった場合は救命できなかった可能性が高いと考えられ、死因としては急性心不全であったことも否定できないという。
 なお会場には2本のエピペン(ペンギンドクター注:アドレナリンのこと)が配備されていたという。
 「今回の事例では看護師が女性の体調に気づいた時点で、救護室に運ばず、その場でアドレナリンを接種できなかった体制に問題があった」と、愛西市の接種会場の体制が抱える課題についても言及した。ただし、現在の慣行では、他の会場であっても、看護師が医師に判断を仰がずにアドレナリンを筋注することは「非常に難しい」としている。

◆勤務医62.3%、アナフィラキシー対応「準備している」
 「医師ら、エピペン使用法知らない会場も」「エピペン筋注は条件反射」
 レポート 2022年11月30日(水)配信 千葉雄登(m3.com編集部)

 この死亡事例を踏まえ、m3.comの医師会員にアナフィラキシー対応に関し尋ねたところ、開業医の51.6%、勤務医の59.0%がアナフィラキシーの「対応を行なったことがある」と回答。「対応を行ったことがない」という回答を上回った。
 アナフィラキシーへの対応や接種会場での緊急対応について意見を求めたところ、「医師らがエピペン使用法を知らない集団会場もあり、驚いた」「アナフィラキシー→エピペン筋注は条件反射」といった声も寄せられた。

 さて、以上の予備知識を踏まえたうえで「私ならどうするか」という問題です。
 私は57歳まで外科医および管理職でして、アナフィラキシー対応の経験はありません。しかし、57歳で内科医に転身し、60歳以後はパート医になりました。予防注射もインフルエンザ予防接種を中心に行なうようになりました。それとともに、予防接種時に起こり得る急変での対応の知識も増えました。小児科領域では「子どもの食物アレルギー」が稀ではなく、また開業医の先生は医師会中心に予防接種は大きな職務であることを知っています。
 私もクリニックで初めて新型コロナワクチン接種を施行する時、「エピペンはあるかい?」と聞いたら「エピペンはありませんが、アドレナリン1アンプル1㎎があるのですぐに必要量注射できます」と確認してから開始しています。

 今回救命できたか否かは別として、医師は看護師に呼ばれて駆けつけた瞬間に「エピペン筋注」をしておくべきでした。アドレナリンには副作用があります。しかし、それは無視していいということになっています。上記に述べられている如く、ワクチン接種の後、変化があったら「馬鹿の一つ覚えでいいからアドレナリンの大腿部外側に筋注」でよかったのです。
 愛知県医師会の記者会見では、最初に現場で担当した医師は医師会員のようです。この事例の後に「人殺し」と罵声を浴びたり、クリニックの写真がネットで拡散しているとのことで、個人攻撃・家族・職員への嫌がらせをやめてほしいとのコメントもありました。
 コロナワクチンについては以上です。