[1116]2023年


 2023年になりました。今年もよろしくお願いします。

 2022年は、ロシアのウクライナ侵略によって現代資本主義世界の軋む地殻が動きはじめました。歴史存在論的に言えば、スターリン主義ソ連邦自己崩壊以後の、資本主義世界における米(NATO)-ロ(中)の対立と軋轢がウクライナの地で破断した、といわざるをえません。プーチンの決断と侵略行為によってウクライナの兵士、労働者•民衆の生命と暮らしが破壊され、プーチンに動員されたロシアの兵士は傷つき死んでいきました。

今なお、戦闘は続いています。

中国の危機

 中国は基本的にロシアを支えアメリカに対抗しています。東西資本主義の東の盟主である転向スターリン主義中国と、内部対立を抱えてジグザグする没落帝国主義アメリカとは相互反発しながら依存関係にあります。今年はポストコロナの中国の動向に注目しなければならないと思っています。習近平一強体制に抗してたたかう中国の労働者階級と連帯して。

 その中国の経済成長に翳りが見えてきました。 ゼロコロナ政策の急激な転換で中国経済にどういう影響が出てくるのか、視界不良です。日経新聞の中国現地エコノミスト調査によると、2023年度GDP伸び率の予測平均値は4.7%と言われていますが、コロナ感染は急激に増加しており労働力不足による生産活動の低下と消費減退によってどうなるかわからない状況です。不動産不況が続く中国経済は今どういう困難に直面しているのか、朝日新聞の「中国新世 人口減が始まる」シリーズの現地レポートから中国の現実をたどってみたいと思います。

第一回

 中国はいま、「未富先老」(豊かになる前に老いる)という言葉が現実のものになっています。シリーズ第一回目をレポートした金順姫さんは「白菜の値段で、不動産が買える」という言葉で有名になったロシア国境に接する黒竜江省鶴崗市に入りました。

 かつては炭鉱で栄え省の4大産炭地のひとつだったそうです。住宅地に「急いで部屋を売ります」という貼り紙があり63.2㎡で3万5千元(約70万円)とありました。北京郊外の相場の100分の1程度だそうです。日本では考えられない格差です。記者が取材していると市当局者が許可がなければ取材してはいけないと規制してきたといいます。黒竜江省吉林遼寧東北3省の人口は減っており、特に黒竜江省は全国で最も激しく10年前から16.9%減っています。鶴崗市の2020年の人口は89万1千人で10年前から15.8%減りました。

空心村

 記者は鶴崗市から120キロ離れた黒竜江省チャムス市吉祥屯に行きました。そこは中国語で「空心村」と呼ばれる人口過疎地でした。人影は少なく空き家も少なくなかったといいます。記者が話しかけた馬清山さん(71歳男性)はこう言いました。「2000年以降かなあ、村で子どもを見なくなったのは。いまは1歳の子が一人いるだけ。昔は大きい子も小さい子もいくらでもいたのに」。黒竜江省の65歳以上の高齢化率は、10年前の8.4%から15.6%に跳ね上がりました。そして出生率(人口1千人あたりの出生数)は10年前の7.35から3.75に下がりました。少子高齢化の典型です。これに若者たちが土地離れが加わり、東北3省の人口は減りつづけています。みんなどこへ行ったのでしょうか。

 中国南部の海南省海南島、「中国のハワイ」と呼ばれるリゾート地で官民一体の観光開発進められています。この地域に東北3省からの移住者が多いといいます。「鶴崗バーベキュー」という看板を掲げた店にいた、同市出身の経営者の親類の男性(52)は次のように言いました。 「経済がよくないから、東北地方の人口は減っている。国に置き去りにされたということ。国は東北地方を発展させようとは思っていない。」

 吉林大学東北アジア研究センター副主任の干瀟さんの意見がレポートで紹介されています。「東北地方の主産業は石炭、鉄鋼、石油化学など資源集約型の産業や重工業で、産業構造の転換が遅れている。」  チャムス市から海南省の楽東リー族自治県に妻子で移住して、マンション仲介業を営む妹さんの仕事を手伝う任鳳林(49)さんは「家族のいるところが家だ。祖国のどこでも家になる」と言います。チャムスではスーパーで働き、月給は2700元(約5万4千円)で暮らしは楽ではありませんでした。彼は「チャムスはもうすぐ空城(空っぽの都市)になる。みんな、どこに行けばお金を稼げるのか、考えて動く」と語っています。

 任さんの言うことは中国庶民の生活と意識を代弁しています。東北3省以外にもそれは広がっています。 朝日新聞のこのシリーズで紹介されている「研究者らによる人口調査」によると、全国に3千近くある県や区(おおむね10万~100万人規模の行政単位)のうち、半数の約1500カ所の人口がこの10年で減少しており、その面積は国土の約半分に達する。40年前に全国100万校以上あった小学校が16万校に減ったといわれています。  

私の感想:

 この統計を見る限り、中国は人口減少と高齢化、労働力移動が一挙に進行しているといえるでしょう。独立行政法人経済産業研究所の関志雄の「2020年の人口センサスで見た中国経済の課題― 労働力の減少と地域間の移動を中心に ―」によれば、次のように言われています。

 「人口変動の大きい広東省と東北部(遼寧省吉林省黒竜江省)を比較して見ると、2010年から2020年にかけて、前者の人口は、2,171万人増え、1億2,601万人に達したのに対して、後者の人口は1,101万人減り、9,851万人と、1億人の大台を割った。また、2020年に、広東省における生産年齢人口のシェアは68.8%と、東北部(遼寧省が63.2%、吉林省65.2%、黒竜江省66.5%)を上回った一方で、老年人口のシェア(12.4%)は東北部(遼寧省が25.7%、吉林省23.1%、黒竜江省23.2%)を大きく下回った。」  

 2010年から2020年にかけて中国の産業構造はIT技術の開発と生産過程への導入によって大きく変わりました。人口統計の変化は労働力の需要が東北地方から南東部へと移っていったことを物語っていると思います。

 中国がGDP世界第2位になる過程は富者と貧者の格差が拡大する過程でもありました。習近平は2022年の春、歴史決議で小康社会から共同富裕へというアドバルーンを上げたばかりですが、2022年暮れの中国はゼロコロナ政策不況への対応で汲々としています。労働者の賃金、社会保障は切り下げられ生活はさらに厳しくなるでしょう。 これからの中国はゼロコロナ政策による成長の鈍化を習近平体制がいかにのりきっていくかが問題となります。資本主義化した中国は経済危機の犠牲を労働者階級に転嫁するであろうことは明らかです。 例えばすでにコロナ対応に医学生がかり出され低賃金で働かされたことへの抗議の闘いが起きています。

 次回は少し後になりますが、シリーズ2「『世界の工場』支えた農民工 老いの波」をたどりながらゆっくり考えてみたいと思います。