[1137]ブレイディみかこの「欧州季評」その2

 イギリスでは労働組合の賃上げストライキ闘争が粘り強くたたかわれています。

 ブレイディさんが言うようにイギリスの生活費危機はEU離脱の影響があるのは明らかですが、2010年に保守党政権になって以降の緊縮財政の結果であることも明らかです。

 地方公共サービス向けの政府の交付金は大きく削減され労働者の賃金は上がっていません。昨年から断続的にたたかわれているストライキ闘争は長い間の緊縮財政にたいする抗議の意志が込められています。

 昨年トラス前首相は富裕層と法人を対象とした大幅減税策を打ち出し、庶民の怒りを買って権威を失うまでの期間がレタスの賞味期限より短かったというわれるほど、あっという間に退陣させられました。その後に登場したスナク政権の施策をブレイディさんは次のように言います。

 「スナク政権は『大幅な減税と歳出削減』を柱とする財政再建計画を高らかに発表した。この案に金融市場は安心したようだが、末端の庶民は安心どころか不安のどん底に突き落とされている。それでなくとも生活苦で食事を抜いているような人々に、どうやって大規模な緊縮に耐えろというのか。」

 そしてさらにブレイディさんは「だが、批判しているのは庶民だけではない。」と続けて言います。タイム誌は「景気後退の局面にある英国が再び緊縮を行うのは逆効果になる可能性がある」と書き、オーウェン•ジョーンズ(『チャブ 弱者を敵視する社会』『エスタブリッシュメント 彼らはこうして富と権力を独占する』の著者)は「緊縮2•0は不可避ではない。政治的選択だと批判している」と紹介します。

注∶チャヴ(Chav)とはイギリスで使われている言葉で、スポーツウェアを着た反権威的な若者についてのステレオタイプをあらわした蔑称である。          ウィキペディアより

 彼女が書いているように、国連の特使が「新たな緊縮は貧困を悪化させて、人権を守る国際的義務の違反につながるとスナク首相に警告している」ということは、政権内部にも批判があるほど貧困問題は切迫しているのです。

 「初の非白人の英国首相として多様性のシンボルになったスナク首相だが、こうした警告を無視して緊縮を進めれば、他者の人権を守らなかった首相として記憶されることになるだろう。何度でも言うが、貧困は人権の問題なのである。」

 ブレイディさんは怒りを込めて上のように書きました。

つづく