[1138]ブレイディみかこの「欧州季評」その3

 ブレイディさんは「欧州季評」の終わりにイギリスの貧困情況に静かな憤激を潜ませて書いています。

 ーー経済的弱者の人権が無視されている状況を、英国に住む人間はもう10年以上も見てきた。前述したストライキの続発は、いよいよ我慢できなくなった人々の抗う姿だ。それだけではない。雨後の筍のように増え続けるフードバンクや貧困者支援の輪、地域での助け合いの活動も、地べたの抵抗運動だ。これら相互扶助の盛り上がりは、国を動かす立場の人々にこう告げているのである。

「社会とはこうやって存続させるのだよ、馬鹿者が」

 おそらく次の時代は、この抵抗の中から始まる。ーー

 ブレイディさんは「欧州季評」最終回の書き出しを「要は経済なのだよ、馬鹿者が」ではじめています。それは、1992年の米大統領選でクリントン元大統領陣営が選挙で勝つための標語で使った言葉なのだそうです。ブレイディさんはこの「欧州季評」の連載を書き継いだ5年間、幾度となくこの言葉を思い出し、左派が支持を伸ばすために「要は経済」の姿勢が肝要だと信じていたと言います。

 しかし生活費危機が広がる英国では今、そういう呑気な時代は終わった、この言葉はもはや戦略ではなく切実な現実だ、と第一パラグラフを締めくくっています。

 そして終わりに、今のイギリスではいよいよ我慢できなくなった人々のストライキやフードバンクなどの助け合い運動は抵抗運動としての意味を持っており、この運動の中から庶民の未来を切り拓く可能性がめばえるに違いないという確信を述べているのです。

 選挙で左派の支持を伸ばすために戦略戦術に思いをめぐらすような呑気な時代が終わった、変革の力は選挙で政権についた「国を動かす立場の人々」にあるのではなく、「地べた」の抵抗運動の担い手こそが次の時代をつくるのだという確信に私は共感します。

 イギリスだけではなく、日本でも政府•資本家階級は労働者階級•庶民の上に矢継ぎ早に諸攻撃を打ち下ろしています。軍事力強化•物価値上げ•増税原発新増設などなど、まるで坂の上から岩を次々と落とすように。

 いま、労働組合や市民団体、すべての人々が「地べた」で抗う運動をつくるときです。